空色少女 再始動編
401 霧のライバル
蝉の合唱が響く、炎天下の中。
フード付き黒衣の赤ん坊が、曲がり角からひょこっと顔を出して、一軒家を見てみる。
(あれが……お嬢の家………)
マーモンは、じっとその家を観察した。
(沢田家光はいないって聞いたけれど……さて。新顔の骸って奴の顔を、どうやって見てやろうか)
ムウ、と唇を尖らせる。
幻覚を使って乗り込んでも、紅奈がいれば、見破られてしまうのがオチだ。
紅奈が、霧の守護者にしたいと望んでいる少年。
どんなものか。確認しなければいけない。
根気強く、紅奈が外出することを待つか。
「ばぁっ!!」
「ムギャーッ!!!」
後ろから声をかけられて、マーモンは飛び上がった。
紅奈が真後ろで、しゃがんで頬杖をついていたのだ。
「なななっ、なんで!?」
「どうせ仲の良いベルが親切に教えると、簡単に予想がつく。ライバルの顔を近いうちに、見に来ると思ってた」
「べべっ別に、ベルとは仲良くないし! ただ僕がお目付け役を押し付けられているから、一緒に行動することが多いだけで、そのっ! あとライバルとか、なんの話だい!?」
「暑くないの? はい、アイス」
「ムギュ」
動転するマーモンに、紅奈は笑いかけては、溶け始めたアイスを口に当ててやる。
どうやら、怒っていない様子。マーモンは、恐る恐るとアイスを受け取っておいた。
確かに、ベルから、霧の守護者は骸という新顔の少年を選ぶと聞かされたのだ。親切に教える、は少々違うだろう。
サクッと殺して来いよ、と言葉を添えたので、骸を気に入らなかった故に、そそのかしたことはわかっている。
だが、しかし。本当に、自分ではなく、その少年が霧の守護者に相応しいのかどうか。
マーモンは、見極めに来ただけなのだ。
それだけなのだ、と言い張りたい。
「あ。」
ひょいっと、紅奈に抱き上げられたマーモン。
「うわ。熱いよ、マーモン。熱中症になっても知らないよ?」
「だ、大丈夫だよ……」
衣服が熱い。黒が熱をしっかりと吸収してしまっている。
そこまで心配は要らない。
「ところで、マーモン」
マーモンは、ぶるりと震えた。
暑いはずなのに、悪寒が。
「スクアーロに、よくもバラしたな?」
「そそそれならっ、ちゃんと罰金を払ったよね?!」
「謝罪、まだ聞いてないよ?」
「ごめんなさいっ!」
ガタガタと震えながら、すぐさま謝罪の言葉を口にする。
このままでは絞殺されかねない。そんな恐怖に駆られた。
「よし。じゃあ、その件はおしまいね。帰りなよ」
「……ム、ムム」
あっさりと許されたので、脱力しては、ペロペロとレモネード味のアイスを舐めるマーモン。
「なんでさ。その骸って、少年術士。腕を試させてよ」
「今度にしようよ……数年後ぐらいで」
「ムッ! 君、そいつが成長すれば、僕を超えるとか思ってない!? 甘く見ないでよね!」
ぷにぷに、と頬を揉まれるマーモンは、ムキになった。
「じゃあ、それを数年後に証明して見せてよ」
クスクスと笑う紅奈に抱えられたまま、マーモンはぷにぷにされつつも、帰り道を運ばれていく。
納得いかない、とむくれたが、レモネード味のアイスは完食。そのまま、とんぼ返りしたのだった。
きっかけは。
「あれ? コウちゃん、熱い!」
綱吉と絵日記を書いていた最中のことである。
旅行に行かない上に、インドアな日々を過ごしているせいで、ネタがない。
まったく。夏休みの宿題とやらは、面倒である。
せめてもの足掻きで、ビニールプールを出しては、綱吉達を遊ばせてから、それを絵日記にした。
絵も壊滅的な綱吉である。
そんな綱吉に色鉛筆を渡した際に触れて、声を上げられた。
ぺたり。
額に綱吉の手が当てられる。
「そう? さっき、外にいたからじゃない?」
水鉄砲で水遊びをしていたし、陽射しを浴びた。
わりと実践さながらに、緊迫した銃撃戦を楽しんだ。
面倒なので、紅奈は水鉄砲をオンリーを描いているところだ。
「んー。んんー!?」
おでこを、こつり。重ねて、綱吉は比べた。
その光景に、嫉妬が湧く骸。
「やっぱり、熱いよ!」
「そうかな? ん?」
綱吉が離れたので、自分でも紅奈は額に触れては頬に触れる。水鉄砲中の火照りが、まだ残っているだけだと思う。
「どれどれ。僕も確認しましょうか?」
骸も紅奈の頬に触れてみた。
「ひゃ。冷たい」
「んんっ。すみません、冷たいコップを持っていたものですから……」
なんだ、今のは。可愛い反応である。
動揺を隠そうと必死な骸は、ちゃんと熱を確かめた。
「僕も熱っぽいと感じます。熱を測りましょう。体温計は、どちらでしょうか?」
「ぼく知ってる! 持ってくる!」
綱吉は、バタバタと体温計を取りに行く。
「溜まっていた疲れでしょうか? それとも、水遊びが長かったせいですかね?」
「いや、ちゃんと休息はとってるし………あ。」
熱を出す心当たりはないと思ったのだが、思い出した。
マーモンを帰らせたあと、帰宅すると綱吉が階段を駆け降りてきたため、ドジると勘付き、受け止めたのである。
但し、完全には受け止めきれず、紅奈は壁に頭をぶつけてしまい、保冷剤で少しの間、冷やした。
それで習慣の手洗いうがいを、し忘れたのだ。
「外から風邪菌、持って帰っちゃったかなぁ」
「おやおや……」
綱吉が体温計を持ってきてくれて、測ってみれば、平熱より高い。微熱である。
「最近は調子良かったのになぁ……。ツナくん、今日はお母さんと寝てね。風邪移るかも」
「ええ…わかったぁ……」
しょんぼりしつつも、綱吉は頷く。
紅奈が風邪を引けば、綱吉は奈々達の部屋で寝るのである。
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