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空色少女 再始動編
398 小3の夏休み






 小学三年生の夏休み、突入。


「ツナくんは、もう土手で野球したくないの?」


 帰宅した家光が、リビングでぐーたらしているので、部屋で夏休みの宿題をしながらも問う。


「え? んー……」


 悩ましげな顔になる綱吉に、首を傾げてしまった。


「……もう、ずっと会ってないから……忘れてるかも」


 しょんぼりする綱吉は、山本武に忘れられていることが怖いらしい。あり得るので、否定は出来ない紅奈。

 たでさえ、友だちが多いのだ。忘れている可能性は否定出来ない。


「なんか、ごめんね? あたしのせいで」

「ううんっ! コウちゃんはわるくないよ!!」


 慌てて綱吉は、ブンブンッと頭を振る。


「友だちなら、犬くんと千種くんも、あと骸くんもいるもん!」


 遊び相手は、あの三人が務めてくれているから、十分?

 交友関係が狭い。


「あと……お外は、あつい…」


 どうしよう。
 綱吉がどんどんインドア派になってきた。


 猛暑だから、外に出たがらない。


 夏といえばプールではあるが、紅奈は今絶賛入れない病である。
 ちなみに、綱吉の泳ぎも溺れているようにも見えるレベルらしい。クラスメイトの正一情報である。

 プールならば、浮き輪でプカプカ浮くだけでいいのだが。

 それでは、運動したことにはならない。


 だいたい、プールに近付くのは嫌なのだ。あの匂いで、思い出す。XANXUSがいるあの日を。


 だから、プール以外の選択をしようか。綱吉が外で遊びたがる何かを……。


「紅奈ーっ!! プール行こうぜー!!」


 そう考えていた矢先。
 突撃訪問してきたベルが、浮き輪を持って誘ってきた。


「………」

「え。何その冷めた目」


 タイミングを見計らってきたのか、コイツ。



「ぼっ、ぼく! およげないから!!」


 ひしっと紅奈の腕にしがみ付き、綱吉は綱吉で紅奈がプールに行かないように阻止をしようと試みる。

 紅奈のトラウマについても、秘密にしないといけない約束だから、そう言うしかない。綱吉が泳げないのは、事実でもあるが。


「浅いプールでぷかぷかって浮き輪に乗ってればいいじゃん」


 泳げなくても、楽しみ方はある。
 そもそもベルは、綱吉が泳げないことを知っていた。ハワイでシュノーケリングをした際もそうだが、元から運動音痴なのだから、期待は全くしていない。


「クフフ。紅奈と綱吉くんは、宿題があるのですよ。急に来て誘うのは、どうかと思いますよ? ベルフェゴール」

「お前なんか誘ってない。どっか行け。むしろ出てけ」


 同じくプール行きを阻止しようと骸も参戦。
 しっしとベルは、手を振って追い払う。


「誘われても行きません。二人も行きませんので、どうぞお引き取りを」

「はぁ? 何すっかりこの家の者ぶってんの? めった刺しにしてやんよ」

「クフフ。出来るものなら」



 バチバチ、と火花を散らす骸とベル。


こぉおおらぁああクソ餓鬼めっ!!!


 バンッと勢いよく玄関が開かれたかと思えば、鬼の形相のスクアーロが入ってきては、ベルの頭を鷲掴み。

 どうやら、紅奈をプールに誘うと聞いたらしく、追いかけてきたらしい。

 鬼の形相のスクアーロがいきなり現れて、綱吉は失神寸前である。紅奈に支えられた。


「うるさいぞ!! スクアーロ! ベルフェゴールまで! 帰れ帰れっ!! 我が家の平穏を邪魔するな!」

「でもお父さん、居候が三人もいる時点で、ぶち壊しじゃん。いいじゃん」

「お父さん呼びいい加減やめろ!!」


 駆け付けた家光からの苦情。


「お母さーん。スクアーロお兄ちゃんとベルが遊びに来たから、ご飯の材料追加で買ってくるねー」

「あらいらっしゃーい、スーくん、ベルくん! いってらっしゃい、コーちゃん」


 紅奈は失神寸前の綱吉を家光に預けて、スクアーロと骸の手を引いて、買い物に出た。

 何故自分の手を引かない、と不服に思うベルもあとを追う。

 浮き輪まで一緒に持ってきたベルを振り返った紅奈は、ベルからナイフを一つ取ると、スパッと浮き輪を切りつけた。
 当然、空気のなくなったそれは、ただのビニールと化する。


「ゴミはゴミ箱に捨てておけよ」


 そう淡々と言い放っては、ナイフを戻して、スタスタと先を行く紅奈。

 ポカーン、としてしまうベルは、慌てて追いかけた。


「なんで!? なんでキングは怒ってんの!?」

「怒ってない」

「じゃあなんで!?」

「暑い、くっつかないで」

「やだし!」


 紅奈の腕をとっても、ベルは振り払われる。

 絶対にご機嫌斜めだと、ベルは気付く。

 紅奈のトラウマを知らないベルを、いい気味だと笑う骸に、スクアーロは声をかける。


「お前。紅奈に幻覚かけてねぇよな?」


 短すぎる。しかし、なんの問いかは、わかっていた。


「何度も頼まれますが、断ってますよ」


 あまりにも危険なので、とまでは言わないでおく骸。


「ちっ。どうしたもんか……」


 紅奈の弱さを支えると宣言したスクアーロだが、この場合、具体的にどうしてやればいいのだろうか。

 こうして弱点になってしまったトラウマを広めてしまわないように隠してやっているが、解決もしてやりたい。


「主治医が言うには、元凶を取り除かないといけないそうですが………あの医者は殺し屋で闇医者なのですよね? 信頼して大丈夫ですか?」

「……まぁ、家光が主治医に決めたのなら、大丈夫じゃねーのかぁ?」


 とても信用が出来ない、と顔に書いてある骸に、スクアーロはそう答えておいた。


「現に、アイツの命を救ってるしなぁ……」


 信頼してもいいだろう、というスクアーロ達の判断である。
 骸は些か納得いかないが、仕方ない。


「溺れることに関する死がトラウマではありますが………克服のカギは、”彼”の救出ですね」

「……そうだなぁ…」


 彼とは、XANXUSだ。失ったと絶望の最中に、起きた事故。結びついてしまって、克服が出来ないのだ。


「くそ……気が焦るばかりか」


 紅奈の晴れ舞台に相応しい事件が転がってくることを待つしかないのか。

 マーモン達にも目を光らせてもらってはいるが、なかなか目ぼしいものは見付からない現状だ。


「焦りますねぇ………この前なんて、戦い中に幻覚をかけてくれと言ったのですよ? 死にますって」

「……止めてくれたんだろうな?」

「はい。そのあと、ボコボコにされましたが」

「…よくやった」


 紅奈の頼みを断れば、あとが怖いのだ。

 スクアーロはとりあえず、紅奈を危険すぎる荒治療で死なせなかった骸を褒めておいた。


「紅奈の方が、焦ってますからね……」

「………」


 骸の呟きを聞きつつ、スクアーロも紅奈の背中を見つめる。


 一体、彼女の焦りのために、なにをしてやれるのだろうか。
 まだ答えは見つかりそうにない。





 


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