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空色少女 再始動編
396 右腕宣言




 また別の日。イタリアでは早朝ではあったが、はっきりしたスクアーロの声からして、起きていたようだ。

 起きて待っていたのか? なんて思いつつも、紅奈は適当な話題を出してスクアーロと通話をした。


そうだ、う”お”い! 考えたんだが、紅奈の誕生日プレゼント、何が欲しい!?

「うるさ。イヤホンで通話してるんだから、自分の大声を調節しろって……。あと、あたし達の誕生日先じゃん」

〔もう用意したっていいじゃねぇかぁ! お前だって、来年のオレの誕生日は、もう考えてるんだろぉがぁ〕

「そりゃあ考えたけど……大したものは、用意しないよ?」


 どうせ小学生からのプレゼントなど期待していないと思うが。


「欲しい物か……なんでも欲しい物くれるの?」

〔……う”お”ぉい、紅奈。早まるな〕

「特注品の銃がいいな」

無理に決まってんだろーが!!

「だから、うるさい」


 耳がキーンとなる。


「あたしの手にしっくりする感じで」

〔だめだっつーてんだろ! だいたい家で見付かったらどうすんだ!〕

「スクにもらったって言う」

〔オレに責任をなすりつけるなっ! 却下だ!
 他は?〕


 他に、欲しい物。
 紅奈は、天井を見上げて考えた。


「じゃあ、膝当て」

〔は? 膝当てだぁ?〕

「そ。装備用のプロテクター。今、膝蹴りブーム」

〔膝蹴りブームって……う”お”い……。それがいいなら、用意するが……誕生日にはブーム終わらねぇか?〕

「………断言は出来ないな」


 気分屋な紅奈だ。ブームが一月で終わってもおかしくないのだから、誕生月には変わっているかもしれない。


〔結局、体術がメインがいいかぁ。ちっこ、ん”ん”っ、身軽さを活かして動き回るのはいいがなぁ〕


 今、ちっこいって言いかけたな。
 見逃してやろう。


〔死ぬ気モードなら、攻撃力は出るが……イマイチ足りなくならねーか? その点の殺傷能力をつける装備にしてみるか?〕

「殺傷能力……トゲトゲするとか?」

〔極端だなぁ……。言い方が悪かった。強度を上げるとかだぁ〕

「そうねぇ……ああ、ルッスーはどう? プロテクターつけてたし、戦闘スタイル、そんな感じでしょ」


 ムエタイを、主に肉弾戦をするはずだった。任務の時も、プロテクターを膝につけていた。


〔あ”〜、そうだったなぁ。暇してんなら、そっち寄越してやろうか?〕

「そうだな、ちょっと教わるかな」

〔了解。んじゃあ、プロテクターの方も、アイツの意見を参加しておくかぁ。とりあえず、今年の誕生日プレゼントはそれにしておくが……ブームが変わったら必ず言えよ?〕


 わかったわかった、と紅奈は返事をしておいた。





 また別の日。
 まだ深夜と言える三時でも、ちゃんと通話に出たスクアーロ。流石に、寝起きのような掠れた声だ。


 先ずは、ベスターの様子の報告。今月はもう三人が、ベスターのブラッシングに挑み、怪我を負わされたらしい。


「つまりは、ベスターは元気か」

〔ポジティブな受け取り方だなぁ…〕

「会ってブラッシングしてやりたいなぁ」

〔会って、やってくれ。ぜひとも〕


 切実に、紅奈にやってもらいたい。もう紅奈だけが、無事にこなせるのだ。
 猛獣のブラッシング。


「だから、夏休みはイタリア行きは希望が薄いんだって。スクがベスターを連れて来てよ」

〔お前、あの暴れん坊を連れて行くのに、どんだけ苦労すると思ってんだ……〕

「あんなに可愛い子を暴れん坊って言うなんて…」

〔含み笑いしてんだろ、バレてんだからな〕


 スクアーロ達がベスターの世話に手を焼いていることに、大いに笑い声を出すことを堪えたが、バレた。


「まったく。飼ったんだから、最後まで責任持って世話をしなさいよ」

〔お前のペットなんだが!? 笑ってんだろ!?〕


 うん。笑っている。







 また別の日。


〔くそが!! なんでこうもタイミングが合わねぇ!?〕


 家光がいない隙を狙おうにも、どうやら任務と被るらしい。


「何を焦ってんの?」

〔夏休み前には……くそっ! 会いに行きてぇんだが…〕

「はいはい。あたしも会えなくて寂しいわ、ダーリン」

〔ダーリン言うなって。……くそ……〕


 やけに焦っているようだし、迷いを感じる。


「何よ? スクアーロ」

〔いや、これは………その…だな……〕

「ゴニョゴニョすんなって、らしくない。はっきり言え」


 何を躊躇しているのやら。紅奈はキレ気味に言ってやった。


あ”あーっ!! わかった! 本当は直接言ってやりてぇーが!!


 うっさい。そう思いつつも、紅奈は聞いてやることにした。


〔っ! なんでお前はオレにトラウマのことを言わねぇーんだ!?〕


 目を見開く。


〔オレはっ〕


 ぷつり。紅奈は通信を切った。

 しん、と静まり返る耳元。

 教室の外から蝉の声が響き渡り、プールではしゃぐ子ども達の声も僅かに届く。


「マーモンめ……さては口を滑らせたな? 罰金をぶんどってやる」


 心当たりは、マーモンしかいない。骸は、スクアーロと接触する手段を持ち合わせていないのだ。






 イタリアで睡眠中だったマーモンは、ぶるりと悪寒で震え上がった。






 一方、ベッドの上であぐらをかいて座っていたスクアーロは、わなわなと震えている。


「通話切りやがってっ……!!」


 やっぱり直接話すべきだった!

 そこまで自分に弱さを話したくないのか、と苛立ちを覚えた。
 出るまで、通信機でかけまくってやる、と思った矢先。

 紅奈の方から、かけ直してきた。


「……紅奈?」

〔………えっち。
「なんでそうなる!?」


 第一声が、それはなんなんだ。


 沈黙になった。


 言わないと。
 本当ならば、ちゃんと面と向かって言いたかった。


「う”お”ぉいっ! 紅奈! 今後、決意は揺るがねぇぞぉ!!」


 決意表明を、何度だってしてやる。


「10代目ボスになるお前を、オレは支える!! お前のちっぽけな弱さだって、支えてやるからな!! 無駄に隠すな!!」


 忠誠だって、何度だって示してやる。


オレはお前の右腕になる男だ!!!


 堂々の宣言で、何度も食らいついてやる。


 嗚呼、本当に。

 初めて見付けた時に見たあの瞳を見ながら、告げてやりたい。
 幼い身体でも、強すぎる意志を宿した瞳。
 一目で惹かれた、その瞳に。


〔………わかった〕


 ぷつり。
 また通信が切れた。


「…………いや待て、わかったって何がだぁああっ!?


 その一言には、何が込められたいたのか。さっぱりわからず、スクアーロは宙に叫んだ。


 もう一度、告げてやるべきか。

 いっそのこと、今から自家用飛行機に飛び乗って日本に会いに行き、面と向かって言ってやるべきか。

 悩んでいれば、また紅奈の方から、かけ直して来た。


「…紅奈?」

〔……あたしの今の弱点、聞く?〕

「…おう。オレはお前の右腕だからな。しっかり把握して、支えてやるよ」

〔……右腕、決まってないけどね〕

「決めろよ、う”お”ぉい」


 なかなか右腕だと認めてくれないが、どうやらトラウマについては話す気になったようで、肩の力が抜ける。

 一歩前進ってことで、まぁいいか、と口元が緩む。


〔みず。もぐれない。おぼれる〕

「カタコト日本語……。やっぱ、死にかけたせいかぁ?」

〔そうだな……。XANXUSにプールに放り込まれて、スクアーロに助けてもらったの。覚えてる?〕

「ああ! 願掛けした日だな!! 覚えてるぞぉ!!」

〔……そうだっけ?〕

「忘れてんじゃねぇ!! 覚えてるよな!? なぁ!?」


 イヤホンの向こうで、クスクスと笑う紅奈の声が聞こえた。

 わざと、とぼけたな。


 そういえば、髪を伸ばすという願掛けも、頑なに拒否して見せたのに、ちゃんと切らないことを決めてくれた。


 素直じゃない、小さなボスである。


 なんだ。

 ならば、さっきのは照れ隠しで、通信を一度切ってしまったのだろうか。

 スクアーロの熱意に、照れてしまった。

 そう思えば。


  キュン。


 胸の中が、そう締まった。


「…………」


 ……キュン?

 今まで散々紅奈に対して、子どもらしかぬ色気を感じてしまったり、年相応の可愛さに胸を打ち抜かれてきたが。


 今のは。


 今のは、何か。



 スパーンッ!!!



 スクアーロは、右手で自分の右頬を平手打ちした。


〔え? 何今の破裂音。銃声?〕

「い、いや……胸から変な音がしたんでな……」

〔は? それで何故破裂音?〕

「き、気にすんなぁ……」


 ベッドの上に倒れたスクアーロは、自分の平手打ちが、思いの外、強いことを知る。


 うちのボスは、子どもらしかぬ色気を持っているのだ。
 うちのボスは、可愛いのだ。
 うちのボスに、惚れてて何が悪い!


「大丈夫だぁっ……オレはっ……オレはお前を支える右腕なんだぁああっ!!」

〔だから、決まってないって。右腕に対する執着が強いな、ほんと〕

「オレは第一部下だぞ!? 逆になんで右腕の座を狙わないと思うんだ!?」


 第一部下として、右腕の座を狙う者として、邪な部分は切り捨ててやる!


 





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