空色少女 再始動編
394
「奴らって……ああ、白銀髪のボーズ達か?」
暗殺者だから、それなりに鍛えていると知っているのか。とシャマル。
そういえば、身体は細身で筋肉質のあるタイプがいいと言っていたことを思い出す。
友だちの筋肉を把握済みとは、抜かりない……。
「まぁ、外国人の特徴と遺伝だな。筋トレは、重い物を持つようなものは避ければいいぞ。腕立て伏せやスクワットでもしてんのか?」
もみもみ、とシャマルは左手で紅奈の太ももを、右手で紅奈の二の腕を揉んだ。
「それ。診察に関係ありませんよね? 家光さんに報告した方が」
「ちょっとした確認だ!」
殺気立つ骸は、嫌われようとも娘を溺愛している家光に告げ口をしようと仄めかす。
急いでシャマルは手を引っ込めた。
「朝、ランニングしてるんだけど」
「おっ。健康的じゃねーか。何キロ走ってるんだ? 一キロくらいか?」
「五キロくらい」
「そ、そうか……それくらいなら問題はないが。やっぱり身体を丈夫にしたいのか?」
「んー、それもあるけれど、前からの習慣だよ?」
朝からランニングをする習慣を持つ小学生。
会う前から、とんでもない幼い少女である。
「女だってハンデもあるし、それ以上の努力しておかないと……。これからも、こんな相談もしてもいい? 触ってもいいよ?」
「どんな誘惑をして……喜ん」
「家光さんに」
「わかったって! 下心はなし! オレはあくまでお嬢ちゃんの医者!」
頼むから、家光に告げ口は勘弁してほしい。
「朝のランニングも、そこそこにしておけよ? しっかり休息しないと、身長も伸びないからな」
「はーい」
「あと、喧嘩もなしな」
「……はーい」
「頼むから、主治医の言いつけは守ってくれよ…」
間がある。女の子なのだから、喧嘩はやめてほしい。
「んじゃ、何かあれば連絡しろよ。また来る」
「ありがとう、シャマル先生」
「おう。紅奈ちゃんの診察は、オレの楽しみの一つだからな」
二ッと笑って見せてから、シャマルは部屋を出ようとした。
骸は笑みを貼り付けているが、オッドアイは警戒した目付きだ。
「……お嬢ちゃんの男友だちは、みんな犬タイプなのか?」
「犬タイプ? ……かもね」
「そうか……。じゃ、診断書、送るからな」
首を傾げたが、あながち間違っていないと、紅奈は頷く。
妙に、番犬のように紅奈を守る姿勢を見せる男友だちばかりである、とシャマルは疑問に思った。
「犬タイプって、なんですか?」
「タイプはタイプだけど?」
玄関まで、シャマルを見送ったあと、骸は尋ねる。
紅奈のその回答は、全然わからない。
「骸。診察中に部屋に入るなよ」
「通りかかったら、不穏な会話が聞こえたので、つい……」
「あたしが裸だったら、どうしたの?」
「えっ…! そ、それは……すみませんっ!」
そのためにも、部屋のドアを閉めていたというのに。
「見たかったの?」
「ち、違いますっ。以後気を付けますっ」
紅奈にからかわれた骸は、早々にリビングに戻った。
「先生。プールの授業の間、プールサイドでボケっとしているより、教室で自主学習した方が有意義だと思うのですが、だめでしょうか?」
「そ、そうだね! そうしようか!!」
シャマルの診断書のおかげで、無事プールの授業は免除となった紅奈。
プールの授業に参加しない生徒は、通常プールサイドで見学することになる。
実に、無駄な時間。小学三年生の貧相な身体など、見ても暇潰しにもならない。
言ってみるものだな、と紅奈はプールの授業中は、教室で自主学習をする権利を得た。
実は要注意人物として認識されている紅奈に、教師が即座に頷いただけである。
紅奈は大人びているから、見張りのように教師はつけなくてもいい、と判断が下された。
実は教師が、誰も紅奈と二人きりになりたくなったからである。
こうして、紅奈は教室で一人、自主学習をすることになった。
「あたしはいい子じゃないもん」
一人の教室で、誰に聞かせるわけでもなく、紅奈は持ち込んだ通信機を出す。
イヤホンを耳にはめる。相手は、スクアーロだ。
〔あ”っ? コウっ? なんかあったのかっ?〕
眠気たっぷりな低く掠れた声に、笑ってしまう。
「暇だから、かけた」
〔暇って……今こっちは何時だと思ってんだぁ?〕
「えっと…深夜の三時くらいでしょ? ぷふふっ」
〔わざとだなぁあ? ふぁあっ〕
夜の仕事が多くても、寝ていることもある。出なかったら、大人しく一人で自主学習をしていた。
「何? 睡眠の邪魔だったなら、切るけど」
〔いや、別に、暇なら付きやってやる〕
今絶対、無理矢理、キリッとした目をして眠気を払ったに違いない。
紅奈は笑い声を出さず、笑った。
〔ん? でもなんでお前、暇なんだぁ? そっちは昼だから……学校の時間だろ? 風邪引いて休んだのか?〕
「いや、学校だよ。一人で自主学習中だから、話し相手が欲しくてね」
〔は? …そうかぁ……〕
一人で自主学習。
もしかしたら、とスクアーロは察する。
水泳の授業中は、一人で自主学習をしているのだろう、と。
それについて、触れるべきか、否か。
いや、これについては、直接話すべきかもしれない。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]