空色少女 再始動編
288
「う゛お゛ぉおい!どうした!?紅奈」
ずっと見ていて異変に気付いていたスクアーロが海に足を入れて駆け寄った。
「気分が悪いだけ。休む。代わりにやってこい」
「はぁ?いや……」
顔を上げないまま紅奈はスクアーロを横切って近くの木陰に向かう。
スクアーロはタオルとパーカーを取ってから、タオルで紅奈の髪を拭く。
居候していた数日間はずっと紅奈の髪を拭いていたスクアーロは慣れた手付きで拭いてやるが、紅奈は「自分でやる」とタオルを奪う。
そのまま紅奈は木陰に座り込んだ。
「……紅奈…?」
「早く行けって。綱吉に何かあったらただじゃおかないぞ」
ただならぬ様子の紅奈を心配して目の前に膝をついたが、タオルの下から紅奈がギロリッと睨んできた。
シュノーケルを楽しめではなく、綱吉を見てこいと言う命令だったようだ。
こんな紅奈を一人にするのは心許ないが、命令は絶対だ。
仕方なくスクアーロはパーカーを紅奈のそばにおいてからシュノーケルを取り立ち上がる。
「気分が良くなるまでここにいろよ?…失踪すんなよ?」
「早く行け。」
完全復活した紅奈が失踪癖まで復活したかもしれない。物凄く心配してスクアーロは釘をさす。
紅奈が威圧感で急かすからスクアーロは海に向かった。
紅奈は少しだけ顔を上げて、スクアーロの背中を見る。
遠くにはベル達。
木漏れ日の中、ほっと息を漏らす。
(……ローナの庭園の木陰はこんな感じだったのかな…)
海底で見た前世の前世の記憶を掘り返して、この木陰と比べる。
(全然違うか…)
リアルで鮮明な記憶の中の庭園には、太陽と花の香りが満ちていた。
ここは塩水の匂いだ。
タオルで目を隠せば、海中にいる気がしてくる。
完全に立ち直れたと思ったのに、綱吉やベル達の前で溺れかけるとは情けない。
(立ち直れてないんだ……)
わかってる。
紅奈は額を押さえて俯く。
何も解決していない。
あの海面にいるアイツを掴まなきゃ、いつまでもいつまでも溺れる夢を見る。
アイツを。
アイツを掴まなきゃ。
アイツを出してあげなきゃ。
だけどその方法はたった一つ。
指輪を手にいれなくてはならない。
しかし、指輪を手にいれる資格なんて、今はない。
今すぐ出してあげることは──────また力不足のせいで、出来ないのだ。
「あたしは本物が欲しい」
あの日の空も覚えている。
あの時も濡れていたっけ。
「本物の忠誠心と、本物の絆で繋がったファミリー。本物を覚悟に誇りのあるマフィアのボスになる。まだまだマフィアらしいことなんてわからないけど、あたしはあたしのファミリーにするよ。スクアーロ、XANXUS、お前達の目指すファミリーはなんだ?」
背中を向けたまま二人に訊いた。
「最強のボンゴレ」
XANXUSは一言で答えた。
「オレぁ……紅奈が率いるボンゴレだぁあ。紅奈がボスに立つファミリー」
スクアーロも続いて答えた。
最強のボンゴレ。
紅奈の率いるボンゴレ。
二人の目指すファミリー。
「あたしが率いる絆の強い最強のボンゴレを、作ってやるよ。本物のファミリーを、魅せてやる。ついてこいよ?」
振り返れば、二人は紅奈を見ていた。
スクアーロとXANXUSの顔。
二人は決意した目をしていた。
どこまでもついていく。
そう伝える目をしていた。
「─────…」
人の気配に気付いて、紅奈は右に顔を上げて向けた。
そこに立っていたのは、ディーノ。
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