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空色少女 再始動編
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 イタリア。

 独立暗殺部隊のヴァリアーの本拠地である屋敷に、スクアーロは上機嫌で歩いていた。
 ほぼ無意識に、切りそろえてもらった前髪を撫でてしまう。


「ああ、帰ってきたんだ。スクアーロ。遅かったね」

「おう、マーモン。悪かったなぁ、任せた仕事を引き継ぐぜぇ」


 執務室に入れば、代わりを務めたマーモンと会った。


「いいよ。しっかりその分のお金は前払いしてもらったからね」


 少々高くついた代役ではあるが、これも尽くすボスのためである。

 問題なく仕事をこなせるようにとやり取りをしたあと、マーモンは部屋を出ようとした。


「う”お”ぉい、待て、マーモン。コウから、伝言だぁ」


 忘れるところだったが、スクアーロはちゃんと伝える。


「頼み事はもういい、とよ」

「えっ! もうお嬢の克服は済んだってことかいっ!?」


 思わず、マーモンは声を上げてしまった。


 幻覚を容易く打ち破る紅奈が、トラウマのせいで溺れる幻覚に呑まれるほど重度のはず。
 幻覚で克服するという荒治療が、紅奈からの頼み事。
 しかし、危うく窒息死しかけたため、万が一にも息が止まった時のためにも、蘇生役を用意した方がいいと進言した。それっきり、保留だったそれが、いきなり終わったことに驚きすぎた。


「は? 克服だぁ? なんの話だ?」

「あっ」


 眉を顰めたスクアーロを見て、ギクリと震えるマーモン。

 スクアーロは、頼み事の内容を知らないのだ。

 紅奈には、誰にも言うな。そう口止めされたと言うのに。
 やばい。まずい。


「なんでもないよっ! じゃあねっ!」


 ボンッと、マーモンは逃亡。


「あ”っ!? おいてめぇマーモン!! 待ちやがれ!!」


 廊下を飛び出したが、もちろんマーモンの姿は確認出来ない。


「克服? 克服だぁ?」


 イライラとしながら、考える。

 真っ先に思い浮かぶのは、病の克服。
 紅奈は風邪を引けば熱で寝込む病弱さを持っているが、それでマーモンの力が役に立つわけがない。

 他に考えられるのは――――トラウマの克服。

 スクアーロは、目を見開いた。

 紅奈は、死にかけたのだ。それも何度も。
 海の中に落ちた飛行機事故のせいで、溺れ死にかけた。

 それが、紅奈のトラウマになった……?
 いや待て。

 紅奈は、ハワイで海を泳いでいたじゃないか。ちゃんと自分で海に入って、シュノーケリングをして……。

 スクアーロは、すぐに様子のおかしかった紅奈の姿を思い出す。一人で海から這い出て、木陰に座り込んだ。

 ただならぬ雰囲気だと気付いていたのに。


くそがぁっ!!


 ダンッと、壁に拳を叩きつけた。


(オレに黙ってっ………マーモンの幻覚で、溺れかけたトラウマの克服かぁ!?)


 今すぐにでも、日本に戻って紅奈を詰め寄りたい衝動に駆られる。


 もう紅奈の弱さを見ても、紅奈を10代目ボスにしたい気持ちは揺らがない。

 なのに、隠すのか。

 悔しいが、紅奈が隠す気持ちもわかる。

 自分の弱さを見られたことで、XANXUSが……。


 ギリッと、奥歯を噛み締める。


「スクアーロ。やっと戻ったのか」

「……オッタビオ」

「機嫌が悪そうだな」


 ギロッと、廊下の先からやってくる男を睨みつけた。
 手には、資料だ。任務。


「……暴れられる任務なんだろうなぁ? う”お”ぉおいっ!!」


 ぶんどっては、スクアーロは目を通して、すぐさま準備をすることにした。
 スクアーロの脳裏に、謝って泣く紅奈が浮かんだ。


「…あたしは……ボス失格だっ…」


 そう言わせてしまった自分の過ちに、怒りが沸騰するように沸き上がる。


 何故かスクアーロが来たことで立ち直ったと思われてしまっているが、本当に立ち直らせたのは綱吉だ。

 紅奈が苦しんだ一年を支え続けた綱吉だ。

 弱い姉でも、必死に支え続けた弟。


(オレだって支えるっ!!)


 紅奈の弱さだって、支えてみせる。


う”お”ぉおおいっ!!! オレが右腕だぁあああっ!!

「えっ!? 何!? うるさっ!!」


 現場で暴れたスクアーロのいきなりの発言に、同行したルッスーリア達は、ギョッとした。

 仕事をあらかた片付けたら、紅奈にそれを宣言してやろうと、スクアーロは決めたのだ。








 日本。並盛町の森。

 骸は監視の目を気にしたが、紅奈はその心配はないと言い切った。

 家光は、家族に監視などつけさせないのだ。紅奈の超直感でも、確認済み。

 そういうわけで、紅奈と骸は稽古として、一戦を交えた。





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