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空色少女 再始動編
287




もう一度潜った。
ガイドが手招きして奥へと進む。


白い砂を蹴って泳いで向かったのは大珊瑚礁。

水色の空間に色とりどりの珊瑚礁が飾られたようにそこにあり、小さな魚が泳いでいた。


小さく華やかな色の魚はスイッと目の前を横切って住み処の珊瑚を迂回する。

人間の訪問者が来て怯える魚がいれば、興味を示して寄る魚もいた。

美しい癒しの空間だ。


同じ色の魚が群れをなして泳ぎ去る。


見惚れて眺めた。


水中では会話なんて出来ないのだから、子供三人は手を繋いだまま黙って見る。

その幻想的な光景を目に焼き付けるように、眺めた。


少し経ってから記念撮影をしようとガイドがジェスチャーで伝え、左右に奈々と家光が寄りそう。


ガイドが水中でも撮れるカメラを向けた。


フラッシュが瞬く。


真っ白だ。


その瞬間、異変が起きる。

フラッシュのせいか、水色の空間が暗く見えた。
まるで太陽が隠されたように、暗い。

遮断されたように音がこもって聴こえた耳に、ハッキリとその音が聴こえた。


─────ブクブク。


追い出すかのように下から溢れ出す泡の音。


暗い青の海の中。
息ができない。

苦しい。


ボコッ。


水面に出ようともがく。
上に、手を伸ばしても届かない。

目映い先に、影が見えた。

手を。

手を伸ばさなきゃ。

掴まなきゃ。


なのに届かない。


届かない。


───────ブクブク。



紅奈はシュノーケルを外して、海面から出た。

当然ベルと綱吉の手は離される。


「ぷはっ!ハァッ…!ハァッハァッ…!」


周りを見る。一面の青。


いない。
いない。


「紅奈?」


ベルも顔を出して問う。
あとから全員が海面から顔を出した。

紅奈は顔を拭い、深呼吸する。


それからまた、潜った。


────ボコボコ。


目に映ったのは美しい珊瑚なんかじゃなかった。


光の射さない海底。

大きな泡が身体を押し上げるように上へと向かう。

ブクブク。
その音がはっきり聴こえた。


紅奈の身体はその場に留まったまま。

いや、沈んでる。


泡とは逆に沈む。


重い。
苦しい。


もがいても、上には上がれない。


ここは海?違う、プール?

わからなくなった。


上に、手を伸ばしても届かない。

上。目映い海面。
影が見える。

近いとも思えるのに、届かない。


手を伸ばさなきゃ。
掴まなきゃ。



なのに届かない。



酸素を吸い込もうとしたがここは水中だ。吸い込むのは酸素ではなく海水。

苦しい。
紅奈は水中でもがいた。


「紅奈!」


こもった音の空間から拾い上げられ、ベルの声がする。

やっと酸素が取り込むことができて紅奈は大きく吸い込んだ。


綱吉の怯えた声も聴こえたが、周りを確認するほど紅奈に余裕はなかった。


足がつかないが、少し泳げば砂浜だ。


紅奈はベルのであろう腕を振り払って一人、引き返した。


「おいっ紅奈!」


足がついて立てば、家光が呼ぶ。


「気分が悪いから、もうやめとく。皆は楽しんでて」


海水を吐き出すために咳き込んで、背を向けたままこちらを見ているであろう家族に向かって言う。


「紅奈!」

「ベル、綱吉と手繋いでて」


ベルが近寄ろうとしたが紅奈は綱吉のそばにいろと命令した。

そのまま波に急かされながら、紅奈は砂浜に向かう。








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