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空色少女 再始動編
383



 食事の再開。

 紅奈はもそもそと食べつつも、時計を気にした。


「お母さん。ツナくん、迎えに行ってもいい?」

「あら? でも、もうすぐだと思うわよ? 帰ってくるの」

「あたしが帰ってくるのは知ってるよね」

「もちろんよ! 学校行く前に、はしゃいでたもの!」


 追加の唐揚げをお皿に盛り付けながら、奈々は紅奈に教える。

 骸達は追加の唐揚げを見て、顔色悪くする。
 千種はとっくに限界で、犬も苦しげ。骸も笑みが引きつる。
 ……これは、新手の拷問だろうか。


「そしたら、ツナくん、慌てて、いっぱい転んで帰ってくるかも」

「……そうかもしれないわね」

(紅奈の弟は……そそっかしいのでしょうか……?)


 心配する紅奈と奈々を、骸は交互に見た。
 そして閃く。


「では、僕は紅奈と一緒に迎えに行きましょう」

「だめ。客人扱いだから、食べてて」

「そうよ。食べてて!」

「……はい」


 逃亡のチャンスだったのだが、二人はきっぱりだった。

 そうして、紅奈は客人を置いて、迎えに行く。

 学校を行き来する道は、元から近道ルートだ。すれ違いはないだろうと、紅奈は軽く走った。

 曲がり角で人が来ると直感して、急に止まると、相手が飛び出して、衝突。

 相手が誰かわかっていたので、紅奈は受け止めた。


「えっ!? コーちゃん!?」

「ツナくん! ただいま! 会いたかった!」

「コーちゃんんんーっ!!!」


 パッと顔を合わせては、目を輝かせた綱吉。

 すかさず、綱吉を力一杯に抱き締める紅奈だが、綱吉も負けじとしがみつく。


「会いたかったよぉおっ。おかえりーっ!」

「ありがとう、ツナくん! ツナくんはお母さんと家をしっかりと守ったんだね! 強い!」

「ふええんっ!」


 強いと褒められたため、溢れた涙を必死に止めて、綱吉は大好きな姉の再会を喜んだ。

 一頻り、抱き締め合ったあと、紅奈は綱吉と手を握り合って帰り道を歩き始めた。


「コウちゃんは、かっこいいね! お友だちを助けた!」

「スクアーロとベルも、頑張ってくれたんだよ」

「お泊まりするんでしょ? ……ぼくも、友だちになれるかな?」

「んー。一緒にご飯食べて、遊べば、仲良くなれるよ」


 不安げな綱吉に、そう明るく言ってやる。
 正直言って、相性がいいかはわからない。

 ……まっ。なんとかなるだろう。


「おかえりなさい、紅奈」


 家に帰って出迎えたのは、骸だった。

 知らない少年に人見知りを発揮した綱吉は、サッと紅奈の背に隠れる。

 じっと、骸は綱吉を観察した。

 確かに、初めて会った時の紅奈にそっくりだ。今だって、同じ栗色の髪と、瞳。顔立ちも似ている。

 しかし、違う。
 弱い。
 強い眼差しの姉と、弱々しい様子の弟。
 守る姉と、守られる弟。

 よくわからないが、少々気に障る。そう思ってしまい、骸は目を細めた。


「初めまして。紅奈の弟くん。僕は骸です。今日から、お世話になります。よろしくお願いしますね」

「ほら、ツナくん。挨拶」

「は、初めましてっ。綱吉、です。…よ、よろしく……」


 紅奈に促されて、綱吉はおずおずと頭を下げて、挨拶。


「ツナ。手洗いうがいしてきて」

「うん!」


 綱吉のランドセルを取ってから、紅奈は背中を押した。綱吉は骸を横切ってバタバタと洗面所に向かう。


「紅奈」


 紅奈も横切ってしまう前に、骸は手を掴んで引き止めた。


「本当に限界です……料理を止めてください」


 切実な頼み。すでに、お腹がはち切れそうなのである。


「育ち盛りなのに?」

「貧困生活を舐めないでください……」

「だからこそ、なんだけど」

「胃が追いつきません……ご理解ください」


 切り詰めた生活をしてきた骸達にとって、胃に優しくない量なのだ。

 紅奈も、ろくに食べられない時期があったため、理解は出来る。


「わかったわ。明日は、なんとかする。残りは夕ご飯として食べてね」

「……善処します」


 正直、夕食もいらないほどの満腹超えなのだが、居候の身としては、文句は言い過ぎではいけない。

 紅奈の説明により、骸達はなんとか大量の料理の完食を免れた。


「じゃあ、次は三人のお洋服を買いましょうか!」


 ルンルンした奈々の提案により、骸達の当分の服を買うことになる。ギリギリ綱吉の服を着れそうではあるが、それでもやっぱり新しい服を着せたい。そんな奈々に、骸達は従う。


 ……なんとも歯痒い。

 大人に親切にされては、世話を焼かれる。いい親とは、こういうものなのか。


「大丈夫そう?」

「え? 何がですか?」

「この生活。今までとは全然違うから、抵抗とか、あるでしょ?」

「まぁ……ないと言えば、嘘にはなります」


 夕暮れの帰り道。


 綱吉と手を繋いでいる紅奈に話しかけられて、骸は少し驚く。考えを読まれた気がした。実際、そうなのかもしれない。


「耐えられないなら、ちゃんと言ってね。お母さんの気の済むまで、付き合ってもらえたらありがたいけど……その時は、スクと計画した通りで。………犬の方は、大丈夫そうだけど」

「……クフフ、そのようですね」


 紅奈の気配り。

 紅奈が見るのは、奈々の荷物を持つと張り切る犬。あらあら、と笑っている奈々。

 奈々の料理で、すっかり手懐けられたらしい。

 千種の方は、まだ警戒しているようで、骸の後ろをぴったりと歩く。その後ろをお目付け役なスクアーロが、荷物を片手についてきた。


「気が済むまでって言ってもよぉ……家光が反対するだろ」

「そうねぇ…」

「……夫婦喧嘩、するのか?」

「どうかなぁ…。ねぇ、ツナくん。お父さんが帰ってきて、怒られたらどうしようか?」


 今回の奈々の行動で、家光と喧嘩になる。ような、ならないような。
 ちょっとあの二人が喧嘩するとは、想像しにくい。

 紅奈は、綱吉の意見を問う。


「どうして?」

「骸達を助けるために、いっぱいイタリアにいたでしょ? それをお母さんが、お父さんに言わないでいいよって言ってくれたけど、お父さんならダメって言うもの。カンカンかもしれない」

「えーっ! 骸くん達を助けたのに!? お母さんわるくないのに!?」

「そうだね、悪くないね。あたしはお母さんを守るよ。ツナくんは、その間、部屋にいる? それとも」

「ぼくもお母さん守る!」

「そっか! 一緒に守ろうね!」


 ふしゅーと鼻息荒くして気合いを入れる綱吉に、紅奈はにっこりしながら繋いだ手を大きく揺らした。

 家族三人が団結し、一人になる父親。

 憐れな家光……、とスクアーロは同情した。


「それにしても……連絡も取れないなんて、長いわね…」


 少し気になる、と紅奈は呟く。


「………アイツなら、大丈夫だろうよ」

「だろうね」


 スクアーロがそう言っても、素っ気ない。仕事で何かあっても、紅奈は心配する気はないのだ。


 骸達は、日本に来るまでの機内で、紅奈の第二部下であるXANXUSが囚われたことで、可愛がられていた現ボンゴレボスと父親の家光に激怒。事故で寝伏せっていた間も、拒絶。一度会った現ボンゴレボスも、拒絶を示した。

 娘も溺愛しているが、絶賛嫌われ中である家光。


 猫被りは捨てた上に、再び被る気はない紅奈と、純真無垢な愛妻と愛息子に、果たして勝てるのだろうか。


 負けるな家光。せめて、骸達を追い出してくれ。
 スクアーロは、そう念じておいた。


「あ、あのね。コウちゃん」

「なぁに?」


 綱吉が不安げな顔で呼ぶから、紅奈は優しく返事をする。

 面白くない、と骸は思いつつも、顔に出さずに横目で見た。


「しゅくだいは、ちゃんとやったけどね! やったんだけどぉ……いっぱい、まちがえた……」


 しょぼん、と落ち込む綱吉は、自分の服をギュッと握り締める。


「そっか。でもやったのは、えらいよ。ご飯終わったら、今日の宿題をやって、そのあとに見せて。教えてあげる」

「う、うんっ! わかった!」


 ぱぁっと明るい顔に早変わり。今度は綱吉が、繋いだ手を大きく揺らした。


 双子の弟を、しっかりと面倒見る姉。


 その実は、ボンゴレファミリーの次のボスである10代目の座を狙う少女。


 二重生活をこなすなど、やはり子どもとは思えない。


 ……自分もこなしてみよう。
 なんて、骸はちょっとした対抗心を芽生えさせた。







 翌日は、紅奈は綱吉とともに登校。

 スクアーロの監視の元、骸達は大人しく沢田家にいた。
 綱吉がハマっているというゲームをしてみる犬と千種。


 骸は骸で、奈々から聞き出せる情報を引き出していた。


 スクアーロが目を光らせているため、ほんの些細な情報のみだ。今までの家族旅行、日常の出来事。紅奈の普通の生活の話。


 そして、夕食。驚かされた。

 なんと、紅奈が作ったのである。

 小学校から帰ってくるなり、夕食の支度をしては、サクッと作った。

 母譲りの美味しい料理。だが、胃に優しい適量である。

 家事もこなす紅奈。二重生活が、完璧にしか思えない。


「美味しいです、紅奈」

「お母さんの料理を、そのまま真似ただけよ」


 すまし顔な紅奈。


「コーちゃん、素敵なお嫁さんになれるわよね〜」

「ええ……絶対そうだと思います」

「コーちゃんは、早くベルくんのお嫁さんになりたい?」


 爆弾投下。

 骸は笑顔で固まり、スクアーロは食べ物をのどに詰まらせて、噎せた。


ゲホゲホッ! ど、どどど、どうしてだぁ!?

「何故、ベルフェゴールのお嫁さんになるのですか…?」


 スクアーロは紅奈に詰め寄り、骸は奈々に尋ねる。


「あっ! 骸くんも、お友だち? ベルくんは、コーちゃんの恋人さんなのよ!」


 激震が走った。主に、骸とスクアーロ。


「コウ? 紅奈? また恋人だって嘘をついた。そうなんだろ? そうなんだよな!?」


 また嘘をついた。


 スクアーロは、そう信じたい。以前も、何故か紅奈の気まぐれにより、恋人だと嘘をつかれたことがある。きっとそれと同じだ。動転しつつも、スクアーロは確認する。


「嘘ついてないよ」

「「!?!?」」


 しれっと紅奈は嘘を否定。

 本当にベルが恋人なのか! そう思ったのも、一瞬だ。


「お母さん。何度も言うけれど、ベルは恋人じゃないよ?」

「もーう! 照れないで! 空港でちゅーしたじゃない!」

「あれはベルが勝手にした不意打ち。………そういえば、仕返ししてない


 あ。なんだ。夢心地な奈々が、勝手に思い込んでいるだけ。


 安堵したいところだが、スクアーロは青筋を立てる。紅奈の唇を奪った事実があるのだ。おろす!


 骸は骸で、紅奈のファーストキスは、奪われていた事実に、殺意が湧いた。


 実は、紅奈のファーストキスの相手は、別にいるのだが………。
 今は知る由もない。


 紅奈は紅奈で、不意打ちしたことに対する仕返しをすっかり忘れていたため、何か考えることにした。

 暴走したベルは置いてきて、仕事に戻れと置き手紙をしておいたけれど、どうせすぐに突撃するだろう。それまでに仕返しを決めておくか。


 とにかく。家事もこなせる骸は、対抗心を燃やす。


 世話になっているわけだし、今後の自立のためにもやらせてほしいと、積極的に家事を手伝うことに決めたのだった。


 奈々は、助かるわ〜っと喜んだのだった。






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