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空色少女 再始動編
378





 骸としっかりと恋人繋ぎをして地下施設を出た。

 出口は一つのみだったから、すれ違いはないだろう。

 そのまま、骸は犬と千種の元へと向かうために、歩く。

 その間、無言だった。

 時折、いることを確認するように、ちらっと見てくる。

 だから、存在を証明するように、見つめ返しつつ、ギュッと握った。


「おっ。犬ー! 千種ー! お待たせ〜」


 二人の姿を見付けるなり、紅奈は手を上げては大きく振る。


 ぽっかーん。


 犬と千種は紅奈を見ては、繋がれた手を見て、それから骸に目をやる。

 困った骸は、肩を竦めた。もう笑うしかない。


「クフフ……契約通り。彼女に救われなくてはいけないようです」

「待たせちゃってけれど、あたしが、先に潰したからね。大人しく救われてよ?」


 まだまだ二人は状況が呑み込めず、ぽっかーん。

 もう合流したのだから、十分かと思ったが、手を開いても、握り締められた。

 骸を見てみれば、ただにこっと笑みを見せられる。
 ……まぁ、いっか。


「ほら。ついてきて」

「いつまで呆けているのですか? 犬、千種」

「「……」」


 くいっと頭を振っては促して歩き出す。

 骸もついてくるように言っては、手を繋いだままの紅奈のあとに続いた。

 犬も千種も、大人しく追いかける。本当に、紅奈かどうかを疑いつつ。

 それから、上機嫌に紅奈を優しい目で見つめる骸を、ちらり。
 そして、紅奈を凝視。


「ほら。あそこにいるの。あたしの仲間」


 紅奈が繋いでいない手で指差す先には、大きな黒いバンが一台あった。

 そこに寄りかかるのは、銀髪の背の高い少年。

 そしてしゃがんでいるのは、金髪の少年。

 スッと、金髪の少年が、立ち上がる。

 何かが飛んでくると気付いた骸は、顔の前に三叉槍を動かして、それを防ごうとした。

 しかし、飛んで来たであろうナイフが、三又槍に届くことはない。
 紅奈の指に挟まれて、止められたのだ。


「誰だよ!? 紅奈!! そいつ!!」


 金髪の少年、ベルは声を上げては、手と繋ぐ骸を指差した。


「あたしが捜してた奴」

う”お”ぉおいっ!! 見付け出す方法を考えるって、さっき言ったばっかだよなぁ!?


 ケロッと紅奈が答えると、銀髪の青年スクアーロが、怒声のような声を上げる。
 犬が震え上がった。


「うん。ひょっこり現れた」


 ケロッと紅奈は、そう答える。


「意味わかんねぇえぞ! てかお前は、ウィッグをどうした!? 変装の意味がねーだろ!?」

「あ。外して置いちゃった。取ってくるのは、だるい」

「もういいっ! せめてコートを脱げ!!」


 声を轟かせながら、スクアーロは歩み寄った。その左手には剣がある。

 骸はそれを見ては、見上げた。スクアーロも、ギロッと見下ろす。


「脱げ? ……えっち。


 きゅっと胸元を押さえて脱ぐことを拒む紅奈。


「ちげぇええっ!!!」


 スクアーロのうるさすぎる声に、骸はひくりと口元を引きつらせた。

 犬は後退り、千種の背に隠れる。

 そんなスクアーロの脇を通って、ベルが紅奈と繋いでいる骸の手目掛けて、ナイフを振り下ろそうとした。

 反応した骸だったが、またもや紅奈の方が早い。

 足が振り上げられた。

 その足によって、ベルの手はナイフごと蹴り上げられたのだ。

 骸は、瞠目してしまう。


「はい。てっしゅー。ここに、もう用はない」


 片手でベルに前を向かせると突き飛ばす。
 ギリッと歯を噛み締めつつも、ベルは乱暴な足取りでバンを開いては乗り込んだ。
だ。


「待ってくださいっ! 紅奈!」


 紅奈も追うようにバンに乗ろうとしたため、骸は繋いだ手を引っ張って止めた。


「……どう見ても、カタギではないのですが……? 彼らは、一体?」


 ナイフを持つベル。そして剣をつけたスクアーロ。三人揃って同じコート。

 警戒せずには、いられなかった。

 それが必要ない相手と信じたいが、それでも、わけがわからなまま、そのバンに乗り込めない。


「もう犬も千種も、います。貴女は、何者ですか?」


 聞かせてほしい。今。すぐ。
 この場で。


「…………」


 きょとん、とした紅奈は、繋いだ手を見つめて、少し考えた。


「近いうちに会うって約束しておきながら、待たせすぎたあたしが悪いとは思っている。そのせいで、きっと君達は、また手を汚して生き抜かないといけなかった。そうなんだろう?」

「っ……」


 その通りだ。図星だ。

 悪さをするな。そう紅奈に言われて、しばらくは待っていた。紅奈が迎えに来ることを、待っていたのだ。

 それでも自分達は生き抜くためには、手を汚すしかなかった。


「それでも、あたしは、救いたい。その気持ちは、ずっと変わってない」


 強い瞳が、真っ直ぐに射貫く。
 骸は、動けない。


「見ての通り、カタギじゃない。あたし達は――――マフィアだ」


 明かされたそれに、身体が強張る。


「まだ……マフィアは嫌いか?」


 また繋いだ手を見てから、紅奈は真っ直ぐに骸を見上げて問う。

 当たり前だ。その言葉が出ない。

 それを言ってしまえば。
 目の前の紅奈さえも。嫌いだと言っているようなものだ。

 だから、骸には言えなかった。

 恋を認めてしまったばかりの骸には、どうしても言えない。


「あたしが先に潰したんだぞ? 骸」


 フッと、紅奈は笑みを浮かべる。強気な笑み。


大人しく救われるって契約だった


 そうだ。そういう約束だった。


「ここで選んでいい。骸、犬、千種」


 繋いだ手が、持ち上げられる。
 真面目な顔で、また見据えられた。


「あたしに救われるか。それとも、このまま去るか」


 選択を、与えられる。

 マフィアを恨み、そして、復讐する気でいた。

 そんな自分達が、マフィアと名乗る少女の手に引かれていってもいいのだろうか?

 この選択の正しい方は、一体、どちらなのだろう。

 バクバクと心臓が鳴り響く。これは先程とは違う。嫌な鼓動だ。


 ここで、間違えれば。
 一体、どうなるのだろうか。
 紅奈と、どうなってしまうのだろうか。


 もう少し。もう少し、情報が欲しい。正しい判断が出来るように。

 骸が情報を求めて、口を開きかけた時。


――――あたしは、あたしに救われてほしい


 紅奈が、微笑んだ。


 穏やかに細められた優しい笑みを見せるなど。
 紅奈の本心を伝えるなど。
 ずるいではないか。

 この手を、放せるわけがない。


「……そういう、契約ですからね。クフフ。救われてあげましょう」


 骸は、苦笑のつもりだったが、それでも嬉しさを隠しきれない微笑を零す。

 決定権は、骸にある。犬と千種も、それに従うのみ。
 しかし、混乱は続いているし、そして戸惑っている。
 それでも、紅奈に手を引かれて、バンに乗り込む骸に続く。


「……また男かよ」


 スクアーロは頭痛を覚えつつも、バンの扉を閉じて、運転席に乗った。








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