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空色少女 再始動編
377 眩い希望



――――また会えたね、骸


 はにかむ無邪気な笑みを零す少女――紅奈。

 溢れる。それが、何かはわからない。それでも。

 抱き締められずにはいられなかった。


「夢、ですか?」

「いや、現実」

「夢じゃないのですか?」

「んーや。現実」

「……本当に?」

「本当」


 くしゃっと頭の後ろの髪を握り締め、腰を抱き寄せる。きついくらいに、腕の中に閉じ込めた。

 そうやって、現実を確かめる。


「本当に……紅奈、なのですね?」

「本当にあたし。遅くなってごめん。待たせすぎた」


 重ねた頬に温もりを感じた。顔を埋めようとする首から、仄かに甘い香りがする。

 紅奈も抱き締め返すみたいに、背中に手を回しては、宥めるためにポンポンッと背中を叩く。


「いえ……いえ……いえっ……!」


 違うのです。
 違うのです、紅奈。
 きっと。恐らく。
 待たせすぎたのは、僕の方です。
 待つことをやめてあの場所に行かくなった僕が。
 あなたを一人で待たせてしまったのでしょう?



お待たせ。骸


 ホッとしたような、穏やかに感じた声。それを口にした紅奈が、どんな顔をしているのか。

 そっと腕の力を緩めて、顔を覗いた。


 目を合わせた紅奈は、見つめ返して、微笑む。

 嬉しそうな無邪気な笑み。
 溢れ出す何かに突き動かされた。


 唇を重ねる。


 恋しかった。
 ずっと。恋しかった。
 会いたかった。
 ずっと。会いたかった。



 欲していたものが、少しずつ、満たされる気がする。

 こうして唇を重ねていれば――――。


 ハッとして、骸は紅奈から身を離す。


 衝動的に、キスをしてしまった。顔が熱くなる。


 丸い目をぱちぱちと瞬かせる紅奈から、一歩後退る。

 自分は、なんてことをしてしまったのだろうか。


「これは……そのっ……感極まって……しまってっ……」


 だからと言って、許されるわけがない。

 いきなり。唇を奪うなど……。


「お、驚かせて、しまい、申し訳ありません……」

「ああ、うん。驚いた」


 口を片手で覆っては、真っ赤な顔を背けて俯く。

 紅奈の顔が、見れない。せっかく再会したというのに。

 いきなり唇を奪われて、嫌悪をしていないのか。されていたら、どうしたらいいのやら。


 カツン。


 ブーツの音がした。紅奈が距離を詰めたかと思えば、胸ぐらを掴まれて引き寄せられた。


じゃあ、遅くなったお詫びってことで


 耳に吹きかけられた声。

 耳まで真っ赤になった。

 子どもらしかぬ、甘い囁き。


 パッ、と放した紅奈は、蠱惑的に瞳を細めて、不敵な笑み。

 どうして、会っても、こんなにも胸が痛むのだろうか。胸を締め付ける。

 見てみぬした間も恋しかった分、襲い掛かっているのかもしれない。


 恋しかった。
 こんなにも。
 あなたに会いたかったのですね。



「――紅奈」

「ん?」

「また会いましたね」


 会いたかったのです。とても。とても。とっても。


 無邪気なはにかんだ顔をした紅奈が、歩き出した。

 骸は焦って、腕を掴み、止める。


「次会った時に、貴女の正体を教える約束ですよ!」


 また。何も知らないまま。

 紅奈と会えなくなるかもしれない。

 そんな不安に駆られて、必死だった。


「そうだけど……犬と千種も来てるんでしょ? 三人揃って聞かせるよ」

「で、ですがっ」

「あたしの仲間も外に待機しているだろうし、万が一鉢合わせでもしたら、まずいよ?」

「さ、先に、今、ここで教えてください! 貴女は何者ですか!?」


 仲間とは誰だ。どうしてここにいるのだ。どうやってここを壊滅させたのだ。

 紅奈は一体、何者なのだ。

 もしも、何かが起きて。
 見失ってしまう前に、知っておかないといけない。そうすれば、こちらから会いに行けるのだから。


「嫌だ」


 きっぱり。紅奈から拒否をされた。

 目を見開いてしまう。いや、約束をしたはず……。


「我が儘を言うな。犬と千種と一緒に聞かせてやるから。ほら、合流しよう」


 はぁーと呆れたため息を吐いた紅奈は、ぺしっと骸の鼻先を弾かれては、その手を腰に当てた。

 呆れられてしまう。年下で、自分より小さな少女に、叱られてしまったような気分だ。

 ポカンとしてしまったが、それでも、不安で放したくない。

 移動しようとしても、動かない骸にしっかり腕を掴まれてしまっている紅奈は、その手を見つめる。

 べりっと、掴んで離したかと思えば、ギュッと握った。

 手を繋がれた。


「これでいい?」


 骸の不安を察しての行動。

 呆けている骸に、紅奈は肩を竦めた。


「これでもだめ?」


 繋いだ手が、開かれたかと思えば、するっと指が滑り込んだ。
 恋人繋ぎ。ギュッと握り締められる。


「……はい」


 呆けたまま、骸は頷いてしまう。


「ん」


 納得したとわかって紅奈は、移動を始める。

 固く握られた手に、引かれて、骸は歩き出す。
 ふわっとカールした髪が、波打つみたいに揺れる。
 その後ろ姿に見惚れた。


 紅奈に惹かれている自覚はあった。
 けれども。溢れて止まらないこの気持ちに。
 名前なんて、つけなかった。


 惹きつけて止まない勝気な笑み。
 眩しすぎる輝く存在。それから。
 そうだ。
 これに名前をつけるならば――恋だ。


 たった三回しか会っていなくても。
 会わない間も、膨れた想い。
 焦がれて溢れる気持ち。


 嗚呼。貴女が好きです。
 会いたかったです。僕の
眩い希望。


 

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