空色少女 再始動編
375 最後の夜
おかしい。
「……おかしいですね。犬、千種。ここで待ちなさい」
「なんれ!?」
「様子がおかしいです。この前のアジトと同じ感じがします……何者かに、先を越されたかもしれませんね。とにかく、様子を見てきますので、大人しく待機しなさい」
「れ、れもっ!」
「……わかりました。骸様」
恐らく、エストラーネファミリーの最後に残ったアジト。
そこに乗り込んで、潰す予定が、何やら不穏を感じた。
前回見付け出したアジトと、似ている。骸は警戒を高めた。
犬が食い下がろうとしたが、千種が押さえ込んだ。命令に従う二人を見てから、骸は一人で向かった。
前回のアジトは、争った形跡、というよりも、襲撃された形跡が残されていた。
しかし、死体はなかったのだ。壁や床に血しぶきがあっても、死体は一つも残っていない不自然なもの。
そのせいで、この場所も見付けることに遅れてしまったのだ。
恐らく、復讐の大きな第一歩となる。因縁のこのファミリーの残党を潰せば、次に進めるのだ。踏み潰せば、同時にあの契約だって――。
「次会った時に話す。あたしが何者かを、教えるわ。次会う時は君達を救う時だ、その方が理解が早いはずだから」
楽し気な無邪気な笑みと声が、蘇ってしまう。
忘れる。
忘れられるはずだ。
今日が、その決着の夜。
忍び込んだ必要などなかった。地下施設は、前回のアジトと似たようなものだ。
襲撃された形跡。残された血痕。壁につけられた刃物の痕。同じだ。
人の気配がしない。
それでも十分に警戒しては、何か手掛かりがないか、探す。
この襲撃の犯人。また残りのアジトがあるか否か。迫害を受けたファミリーだ。他の手の者が、襲撃して潰してもおかしくはない。
「じゃあエストラーネファミリーを潰してやる」
見透かされるような強い瞳が、ちらつく。
そんなわけがない。あんな少女に。こんなことが出来るわけがないだろう。
「!」
手掛かりありそうな部屋にようやくたどり着いたが、そこに人がいることに気付き、開いたままの扉に身を隠す。
黒い髪。黒いコート。机の前に立っている人物は、自分よりも背が低い小柄。
子どもだろう。どうして。子どもが?
自分達のように、実験体になっていた子ども。そうとは思えない格好だ。
あの子どもが、襲撃者? 一人でやったはずないのなら、恐らくまだ仲間がいるはず。
何者かを問いただすか。それとも犬と千種を連れて、撤退をすべきか。
骸は息を潜めながら、選択に迷う。
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