†piccio notte†
†004
「ぁ……」
微かに出せた声。
「な、た……な、に」
それを聴いて彼は微笑んだ。
「喋れた」
全く彼が理解できない。あの威圧感はなく、今は無邪気な子供のよう笑う。
「吸血鬼だよ」
彼は隣に横たわり、私を見ながら言った。
「知ってるだろ。映画とかでよく見るんだろ?ヴァンパイアを」
見透かしたようなあの金色の瞳は真っ直ぐ私を見つめる。
「血を喰う、人間を遥か超えた能力を持つ獣」
全く知らない世界へと、私は巻き込まれた。
黒く赤く、獣が蠢く闇の世界に──。
「な…んで…わた、しを……ここに…?」
連れてこられた理由を問う。
「仲間にするって言ったじゃん」
彼は逃げるのを防ぐように私を挟んで、ベッドに両手をつく。重さの分だけ沈む。
「吸血鬼<ヴァンパイア>にしてあげるよ、小夜」
獣のような見たことない瞳が私をまた映す。
「こ、よる…てわたし?」
「そうだよ、君の本当の名前。これからはそれを使うと良いよ」
まるで今までが偽名だったような言い草だ。
わからないことだらけ。元々頭が良くない方だから、理解できない。
「君に永遠の命をあげる。人間なんかより、遥かに優れた力をあげる…」
がつりっ
また彼は、私に牙を刺した。
全ての血を吸い取る勢いで彼は私の血を飲む。
また、熱い。感覚が歪む。
まるで堕ちるような感覚が意識を薄める。
「っあ…!」
「寝ちゃダメだよ」
私の血で赤に染まったその口で私に言った。
「俺が吸血鬼にしてやるなんて珍しいんだからな。光栄に思え」
彼らは自ら自分の手首に噛み付いた。その手首から流れる血を私の血に垂らす。
「くっ……」
なんとか顔を動かし、その血を飲まないようにする。
すると彼は、また手首に噛み付いた。
そして私の顎を掴み、向かい合わせたかと思えば、口を重ねた。
「ん!!」
侵入する舌とともに血が口の中に流れて広まる。
力が入らない為、抵抗は出来ない。そのまま私は、飲み込んでしまった。
「ッウ!?」
彼の唇が離れたと同時に、異変が起きた。
身体中が何かが駆け回るように熱くうずく。息苦しくなり、胸が締め付けられる。
「はぁ……はぁ…ッ!うっ!!」
ベッドにもがく私を、彼は宥めるように頭を撫でてきた。
「すぐ終わるよ」
「!?」
「人間の人生はね」
────ポタ、ポタ。
涙が落ちる。
息は切れて、まともに息が吸えない。
「小夜」
頭を撫でて、彼は横たわる。
「は、あ……ッ」
「小夜」
彼は何度もその名を呼んだ。まるで愛を込めるように呼ぶ。
「小夜」
胸の締め付けも、熱もなくなり、楽になった。
けれど身体中が痛く、動けない。
すぐに睡魔は襲いかかり、瞼は重くなる。
「おやすみ…俺の小夜」
彼のその言葉を最後に、深い眠りへと落ちていった。
落チル
落チル……落チル…何処マデモ…
人ノ皮ヲ被ッタ獣ヘト────…。
落チル…
赤ク黒イ…闇ノ世界ヘト………
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