†piccio notte†
†003
途絶えた意識が繋がる。
ふわふわと体が浮く感覚。
その浮遊感のせいで頭がボォとして視界は定まらない。
何故か、暗く、長い廊下を歩いているのが判った。
正しくは運ばれている。
「本当、気に入ったよ、小夜」
噛み付いた彼の声。
彼に抱えられている様だ。
「君は俺の最高の餌だ」
もはや何も思考は働かず理解が出来ない。
わかるのは彼に運ばれていること、血を吸われたことだけ。
指一つ動かせない私はただ、運ばれた。
長い廊下を暫く歩いていけば一つの部屋に入るが、冷たくやけに天井が高い。
「龍嬰様!?」
女の人が驚いたように響くくらい声を上げた。
「おかえりなさいませ…」
女の人以外のその場にいた数人の者が彼に言い、頭を下げる。
リュウエイと呼ばれる男は気にせず歩き続けた。
「龍嬰様!お待ちを!…その人間をどうするおつもりで!?」
女の人が呼び止めて訊くがが彼は止まらない。
「龍嬰様!!」
「黙れ」
その一言で女の人は黙り込んだ。人々を見向きもせずに部屋の奥の玉座のような椅子に彼は私を抱えたまま腰を下ろす。
「………龍嬰様」
「その名前は飽きた。変える」
思い出したように彼は告げた。その場にいた者はざわめく。
「そうだ、小夜が決めてくれ」
人差し指で、動けずにいる私の顎を上げた。
「そんなッ!!お嫌いな人間に…!?」
「煩いぞ、沙羅葉」
女の人を睨み付ければ、サラハと呼ばれる彼女は膝をついた。
「彼女は──仲間にする」
その発言が動揺を生み出す。
「人間を…?」
「あの、龍嬰様が…」
「珍しい…」
口々に聞こえる言葉。驚愕、困惑、物珍しそうに小さく呟く。
「な、何故!?人間を嫌っていたのに…何故!」
「気に入ったから、ただそれだけ」
また立ち上がり、椅子の後ろにある奥の部屋へと彼は歩き出した。当然そんな会話、私には理解できるはずはない。
奥の部屋は彼の部屋らしい。濃い赤のデザインが施された部屋の壁際の中心にある天蓋のベッドに降ろされ、彼は私を見下ろした。
「まだしゃべれない?早く名前決めて」
何も反応しない私の髪を撫でる彼。
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