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†piccio notte†
†001 悪魔


普通の家庭なら、幸せに生きれたのかな?
そう思うと泣けてくる。

母親は離婚を繰り返した。
父親の違うキョウダイがいる。
長女で事情を知る私にとって重いことだった。
内気な性格を隠すように明るく振る舞う自分がいた。
タイミングを外さないように、無理矢理笑う自分がいた。
一人だけで悩む…。そう、そんな弱い自分となっていた。
学校も家も居心地の悪い場所。
私には──何もなかった。
愛された名前さえ、なかったんだ。


そんな私に悪魔微笑んだ



思い足取りで、帰ってきた家は──暗く、不気味だった。
響く悲鳴に思わず飛び込んだ。
家族の名を呼び、明かりをつければ悲惨な光景。
無惨に虫の息の、恨んでいた母親。

「おねぇちゃん…!!」

見知らぬ男に首を掴まれている妹。足で踏みつけられて身動きがとれない弟。
今朝と違う、部屋に愕然とした。

まるそこはまるで別の世界。

何が起きたのかは分からない。見知らぬ男が何の目的でアパートの部屋に来たのかなんて分かる訳がない。
──ただ、死ぬんだ。
そう悟った。

ろくな人生は送ってない。ただ、死ねるならほっとする。
何も考えないですむ。


「おねぇちゃん!」

泣く声で呼ぶ妹の声で我に戻る。
───嫌い。
その言葉が頭に浮かぶ。
───家族は嫌い。
嫌いだけど、死なせない。

「放せ!!!」

妹を掴む男の腕に飛び付く。嫌いだけど死なせない。ただ、そう思ったから体が動いた。

「何が目的よ!!放して!!」

「…」

男は妹から手を放した。
そして私と向き合った。

   ぞくりっ

見た限り、彼は武器を持っていなかった。
じゃあ何で母を切り裂いたの?
彼から感じる威圧感が身体の自由を奪う。

「に、逃げて!!」

なんとか出せた声で、男が自分に気を取られているうちに逃げろ、と言った。

  ザシュッ!!!

好きな色が彼の後ろで飛び散る。
彼は何もしていない。
何もしていないように見えた。
キョウダイは見えない何かに切り裂かれた。

「何が目的?…だよ」

白い肌に血に濡れた口に鋭い牙。
それはまるで小説や映画の吸血鬼を連想させた。


 


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