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頂き物小説
スーパーヒーロー作戦 NEW MISSION Another world第二話『ヒューマンサイクロプス』
スーパーヒーロー作戦 NEW MISSION Another world第二話『ヒューマンサイクロプス』



「……彩が行方不明?」
 訝しげな声を上げて、零次は携帯電話のスピーカーに強く耳を押し当てる。
 零次がその連絡を受け取ったのは丁度、自主トレーニングを終えて帰宅した時の事だった。
「うん、家にも帰ってないみたいだし……レイはアーヤから何も聞いてない?」
 電話の主は、彩のクラスメイトである珠音。
 聞くところによると、彩が五日も学校を休んでおり、家にも帰ってきていないという。
「いや、俺の方からは何も……先週会ったばかりだし」
「そっか……こんな事今までなかったから由芽と一緒に街を歩き回ってるんだけどさ、見つからないんだよ」
 気丈な珠音らしく、友達の消息が分からないというのに口調は平常時と変わり無い。
 だが、それでも彩の事が心配なのか声音は不安の色を帯びていた。
「分かった、俺の方でも捜してみる。珠音ちゃんはゆっくり休んだ方がいい。寝てないんだろ?」
「まぁね……あたしは寝不足とか慣れてるから平気なんだけど、由芽なんかご飯も食べられない状態だからさ、何とかして捜さないと」
「無理だけはするなよ」
「オッケー。心配してくれてありがとうね」
 そう伝えると、珠音はやはりいつもの口調で電話を切った。
“彩が……一体何で?”
 嫌な予感を胸に抱く零次は自宅に置いてあるマッハアクセルのイグニッションキーを回してエンジンを起動させ、ガイアセイバーズの基地へと急いだ。




「こんにちは、零くん」
「よう梨杏、あんまりサボるなよ」
「むぅ……ちゃんと真面目にやってるよ」
「そうか、なら良かった」
 都内の湾岸地区に建設されたガイアセイバーズの基地へ辿り着いた零次は、受付に立っている梨杏に軽口を叩いて───少しでも不安を紛らわす為なのだが───IDカードを見せると真っ先に総監室へと向かった。
 今回の件が、まだ誘拐の類となれば零次個人で動いて捜し出すのだが、どうやらその説は薄い。
 ただの誘拐なら彩自身でその危機を抜け出せる事は充分に考えられる。
 何より、その辺の暴漢に彼女が不足を取る事は考えにくい。
 だが、魔女イザベルの前例もあるため、ダーククライムが絡んでいる可能性があると踏んだ零次はまず、天道に彩が行方不明だという事を報告するため総監室の扉の側にあるスロットルにIDカードを差し込もうとした。
『緊急事態! 緊急事態!──新宿区にてダーククライム出現! ガイアセイバーズ各員は直ちに急行して下さい!!』
 突如、けたたましい警報とともにレッドアラートを伝えるアナウンスが基地内部へと響き渡る。
「クソッ……こんな時に」
 忌々しげに舌打ちした零次は、基地のフロアを慌ただしい様子で駆けるアサルトフォースの隊員達に混じって自らも駆け出した。




 そこは、凄惨という言葉が当てはまる光景だった。
 アスファルトは割れ、高層ビルは倒壊して瓦礫を築き、無数の車は障害物に激突して鉄屑同然と化している。
 そして、爆発を起こした所為で生じた炎火により、辺り一面は紅蓮の海原となっていた。
 もはや街として機能しているものは何一つ見当たらない。
「救護班、急いで!!」
 負傷した民間人の数も尋常ではなく、中には既に事切れた人間も数多く横たわっている。
 生存者は迅速に救出すべく、隊員達が語気を荒くして指示を出していた。
「一体……どうなってんだよ」
「あ、零次。やっほー」
 変わり果てた街の姿に零次が呆然としていると、背後からあっけらかんとした声が届いてきた。
 およそ、この修羅場には不釣り合いな声に振り向いた先には……少女がいた。
 ゴシックロリータ調のファッションに身を包み、右手に人間を軽々と持ち上げている少女は、見間違えるはずもない。
 零次がよく知る人物───そして、捜そうとしていた少女、彩だった。
「彩……何やってんだよ?」
「何って……見ての通りダーククライムの計画に邪魔な人間達を殺してるんだよ」
 悪戯っぽく喉を鳴らして笑いながら、彩は零次の問いに、さも当たり前だと言わんばかりの口調で答える。
 爛漫な声音でありながらも、手にしているのは肉塊となった青年の身体。
 零次の目に映るそれは、違和感を感じさせずにはいられない。
「お前……何言って……」
「おやおや、早速現れましたか。仮面ライダーイヴ」
 未だ思考が追い付かない零次の前に、今度はトライバル・エンドが姿を現した。
「意外と早くお披露目出来ましたね」
「……どういう事だ? 彩に何をした!!」
 大地を振るわさんばかりの零次の一喝を、しかしトライバル・エンドは冷笑で返す。
 まるで零次を嘲るように。
「もうこの娘は美島彩ではありません。私の新しい部下、ヒューマンサイクロプスといいます」
 もたれかかるように身体を寄せる彩の肩にそっと手を置き、トライバル・エンドは相手の神経を逆撫でさせるような慇懃な態度で会釈する。
「なっ……!?」
「さぁ、ヒューマンサイクロプス。仮面ライダーイヴに生まれ変わった貴女の力を見せてあげなさい」
「はい、トライバル・エンド様」
 指示を下された彩の嬉しそうな笑顔を見てから、トライバル・エンドは姿を消した。
「零次、まだよく分かってないみたいだから教えてあげる。ボクね、生まれ変わったんだよ。ダーククライムの新しい改造生命体として」
「……は? 意味分からねぇよ」
「もう〜しょうがないなぁ。じゃあ分かりやすく言ってあげる」
 零次の言葉に、呆れたようにかぶりを振ってから彩は黒いフリルスカートの両端を指で摘む。
「ボクは、もう昔のボクじゃないんだよ。トライバル・エンド様の忠実なしもべ、ヒューマンサイクロプスになったんだぁ。これで零次と同じ改造人間だね」
 相変わらずの愛くるしい口調。
 まるで、森に迷い込んだ人間に悪戯をして微笑む妖精のような相好で彩は言い放つ。
「それでね、ボクに与えられた命令は……ダーククライムの計画に邪魔な人間達の抹殺、そして……」
 一呼吸置いてから、再び彩の口が動く。
「仮面ライダーイヴを殺してストーン・イヴを回収する事。それがボクの使命だよ」
 その言葉は、認めたくない現実から目を逸らそうとしている零次の心を抉るには充分なものだった。
 さなきだに、崩壊した街を目の当たりにして受けた衝撃は並大抵ではないというのに。
「……本気なのか?」
「嘘でこんな事言わないよ」
 言い終えた刹那、彩はアスファルトに亀裂が生じるほど強く踏みしめて地を蹴ると、一気に間合いを詰めて零次の顔面に縦拳を打ち込む。
 それは、常人を遥かに凌駕した亜音速の早駆けだった。
「がはっ───!?」
 突然の事態に対処出来ぬまま、零次は拳撃によって数メートル先の廃車に激突し、くぐもった呻き声を漏らす。
 衝撃により、鉄で造られた車が融解した飴細工のようにひしゃげ、原型すら留めなくなってしまった。
“み、見えねぇ……”
 背中に感じる激痛よりも、彩のスピード、パワーに零次は驚愕していた。
 少なくとも、自分が知る限り彩にこれほどまでの身体能力は無い。
 その驚愕が、否応なく彩の言葉を真実と認めざるを得なかった。
「ねぇねぇ零次、凄いでしょ? ボク人間だった時に比べてすっごいパワーアップしたんだよ!!」
「あっ……ぐぅぅ……」
 まるで子供が自慢話をひけらかすような口調で、彩は牙のように尖った犬歯を見せて笑うが、遅れて来た激痛により零次が答える余裕は無かった。
 半ば意識が朦朧とした状態で零次は起き上がろうとするが、身体に力が入らない。
「えへへ……じゃあ零次、ストーン・イヴは回収させてもらうね」
 再起出来ない零次を見て彩は、歩み寄ってから零次の腹部に手を伸ばす。
「クロスファイア……シュート!!」
「───ッ!!」
 突如、彩の眼前に橙色の魔砲弾が複数飛来。
 咄嗟の判断で彩は真上に跳躍し、その弾を躱す。
「はぁぁぁぁぁぁっ!!」
 だが、上空から絹を裂くような叫びとともに、ローラーブーツでビルの壁面を滑走してきた少女が、特殊形状のグローブを嵌めた右拳で彩の顔面を殴り付ける。
「ぐぅっ!?」
 その衝撃で、上空を舞っていた彩は叩き落とされるように垂直に落下していくが、猫のような身軽さで二、三回空中で前方宙返りしてから地面に着地する。
「これ以上、零次には触れさせないよ!!」
 零次を庇うようにして前に降り立ったのは、白いバリアジャケットを身に纏った二人の少女、スバル・ナカジマとティアナ・ランスターだった。
 先程の魔弾はティアナのデバイス、クロスミラージュの銃口から放たれたもの。
 流石に二人ともエース・オブ・エースと呼ばれる高町なのはから直々に訓練を受けただけあり、戦闘レベルは高い。
「う〜ん……スバルとティアナも来ちゃったら分が悪いなぁ」
 頭に付けたヘッドドレスの位置を直して小難しそうに唸りながら彩は構えを解く。
 流石の彩とて、今の自分が不利な状況に置かれている事くらい理解出来る。
『──ヒューマンサイクロプス』
「ほぇ?」
『ここは撤退しなさい。貴女はまだ実験段階ですからね、そろそろ血液交換もしなければなりません』
「むぅ〜もうそんな時間かぁ……」
 脳内に組み込まれた無線通信LANからトライバル・エンドの声が聞こえ、それを受信した彩は残念そうに呟くと零次達に背を向けた。
「じゃあ零次、スバル、ティアナ。また会おうね〜」
 別れの仕草に、片手を大きく振った彩が地面を蹴って跳躍し、戦線から離脱した。
「零次、大丈夫!?」
「あ、あぁ……大丈夫………だ」
 スバルの手を借りて何とか起き上がった零次は、ダメージが残るのか苦しげな声を発して腕を押さえる。
「アイツ、一体何なの? 今までのサイクロプスとはタイプが違うみたいだけど……」
「あれは……彩だ」
 ティアナの疑問に、零次が短く呟くと二人が目を見開いて零次を凝視する。
 その顔は、驚愕の色を隠す事もなく零次に疑心の目線を送っていた。
「えっ……ちょ、ちょっと待ってよ零次! あれがアーヤってどういう事なの!?」
「改造されちまったんだよ……アイツは」
「嘘でしょ………」
「冗談でこんな事言うかよ……俺だって信じたくねぇんだ」
 零次の言葉に、とうとうスバルとティアナは何も言えなくなってしまう。
 未だガイアセイバーズの救護班の隊長が檄を飛ばしている中、三人はその場に立ちすくんでいた。




「そうか……美島が」
 帰還した零次が総監室で事の顛末を報告すると、ガイアセイバーズ総監──天道総司は重厚なデスクの上に両肘を付き、指を組んだ。
 緩やかにウェーブした黒髪に鋭い眼光、落ち着き払った声音は十年前のワーム、ネイティブとの闘いの時から変わっておらず、機動六課部隊長の八神はやてから丸くなったとは言われても、彼はその研がれた牙をしっかりと持っている。
「……恐らく、改造手術と同時に脳改造まで施されてしまっているんだろう」
「………」
 淡々と推測する天道の言葉を、零次は口をつぐんだまま聞いていた。
 認めたくない……だが、認めなければならない。
 起こってしまった事態を。
「だが……サイクロプスに改造された人間が改造前の自我を保てるのは稀なケースだな」
「……はい」
「恐らく……自我を残しておけば沢井が美島に手が出せないのを見越していたのかもしれない」
「───ッ!!」
 激昂の余り、零次は骨の代わりに埋め込まれた特殊合金のフレームが軋みを上げるほど拳を握り締めた。
 それは、負けた事への悔しさではない。
 無関係な友人が敵対する者達によって辱められ、道具として利用されている事に対する怒りと、そして友人を助けてあげられなかった自分の不甲斐なさへの怒りだった。
 そんな感情を隠す事無く床を睨む零次に対し、天道は務めて冷静で、ポーカーフェイスを崩さない。
 次の作戦を考えているのか、その双眸は閉じられている。
 そして……天道はゆっくりとその瞼を上げた。

「沢井……美島を討て」
 天道の言葉に、零次の顔が強張る。
 ありありと驚愕の色に染めて。
「討て……って」
「美島はもうお前の友人ではない。今は、ダーククライムの手先だ」
「ちょっと待ってください!!」
 淡々と命令を告げる天道に納得が行かない零次は、デスクを双手で叩いて声を荒げる。
「何でですか!? 何で彩を!?」
「お前がこの命令に従えない気持ちも分かる……だが、これは私情を挟んで良い問題ではない」
「ぐっ……」
 天道が言わんとしている事は、零次とて頭では理解出来る。
 私情を持ち込んでみすみす敵を逃がせば、街は更なる被害を被る事も。
 だが、今までずっと一緒に過ごしてきた友人が敵になったから今すぐ殺せと言われて、首を縦に振れるほど気持ちが割り切れる訳ではない。
 少なくとも、零次はそこまで器用な人間ではないのだ。
 非情な判断を下した目の前の総監を睨み付けながら、零次は歯を軋ませる。
「天道さん、一つだけお願いがあります」
「何だ?」
「もし……もし彩の洗脳が解けたなら、その時は俺が独断で彩を救出します。だから……」
「救出した後はどうする? あれだけ街を破壊し、民間人を虐殺した美島が実社会で生活していけると思うか?」
「そ、それは……」
「何百、何千という人間に恨まれ、冷たい眼で見られて暮らしていかなければならない美島を見て、お前はどう思う?」
「………」
 最早、二の句が告げられなかった。
 確かに被害は甚大で、まとめられた報告書によると街の重要機関やライフラインはほぼ壊滅状態。
 復旧の目処すら立っていない。
 そして、死傷者の数は三桁を軽く越えている。
 その災害は、全て彩が引き起こしたもの。
 例え洗脳が解けた所で、待っているのは人々に罵倒され、蔑まれて暮らさなければならない生き地獄のみ。
 どう考えても、彩が以前と同じ生活を送るのは不可能だ。
「助けられる見込みは……」
「残念だが……ゼロだ」
「………」
「既にワイズが衛星監視によって美島とトライバル・エンドの居場所を特定している。場所は座標226、最近建設されたばかりの太陽光発電研究所。恐らくここが奴らのアジトだ」
 零次はそれ以上食い下がれなかった。
 そして、無言のまま天道に背を向ける。
「沢井」
「……はい」
「ライダーとして生きるには、背負わなければならない十字架が存在する……大切なものを失ってでも平和を守らなければならないという十字架がな……それだけは覚えておけ」
 椅子に座ったまま泰然と言い放つ天道に、零次は何も返ずる事なく総監室を後にした。




 足取りは、鉛のように重かった。
 これからしなければならない事……それを考えると酷く気持ちが沈む。
 本当に彩を殺さなければならないのか?
 まだ何か救える手立てがあるのではないか?
 天道の言ってる事の方が正しいのか?
 でも、助けた後はどうする?
 どうやっても現実を変える事は出来ない。
 どうする?
 どうしたらいい?
 そんな感情ばかりに苛まれ、自問自答を繰り返す零次の精神は平常心を保てるような状態でなかった。
「……零くん」
 憂鬱に押し潰されそうになっている零次の耳に、幼なじみの声が届く。
「梨杏か……どうした?」
 内心、自分でも驚くほどに零次の声には覇気が無かった。
 その声を聞いた梨杏が、伏し目がちになって戸惑う。
「大丈夫……?」
「お前は心配しなくていい……それより試合近いんだろ? 自分のコンディションの心配しろよ」
 出来るなら、梨杏には心配を掛けたくなかった。
 いつもの調子で「大丈夫だ。心配するな」と言ってあげたかったが、最早そんな余裕すら零次には残されていない。
「………」
 零次の言葉に、梨杏は俯いたまま押し黙ってしまう。
「……悪い、言い方キツかったな」
 梨杏の表情を見て、零次はすぐに頭を下げた。
“──何やってんだよ……俺は”
 目の前に、こんなにも自分を心配してくれる人間がいるというのに……自分は何て酷い物言いをしてしまったのだろう。
 零次の心に、痛みが走る。
「ううん……私の方こそ、余計な事言ってごめんね」
 零次に続いて、今度は梨杏が長い黒髪を垂らして頭を下げる。
 恐らく、彩の事は梨杏の耳にも届いているのだろう。
 そうでなければ、零次を心配してここまで来たりはしない。
「……なぁ、梨杏」
「何? 零く……」
 言い終える前に、身体が急に重くなるのを感じた。
 それは……零次が梨杏にもたれかかるようにして身体を抱き締めた所為である。
「れっ、零くんっ!?」
「……教えてくれ。本当に俺は彩を殺さなきゃならないのか?」
 突然の事に、耳まで赤くして慌てふためく梨杏に、零次は耳元で呟く。
 今まで梨杏が聞いた事も無い悲痛な声。
 背中に回された手が、一層強く力を込められた。
「本当にもう……あいつを助ける事は出来ないのか?」
「零……くん」
 零次の身体は、恐怖で震えていた。
 友人を手に掛けなければならない事への恐怖で。
「……アーヤは」
 沈黙の後、梨杏は零次の背中にそっと手を回した。
 リングで闘う為に振るう腕は、今は零次を包み込む優しさと慈愛に満ち溢れている。
「アーヤはあんな奴らに負けるような娘じゃないよ……絶対、絶対に洗脳が解けて私達の所に帰ってきてくれる。それに、零くんならきっとアーヤを助ける事が出来るよ」
 こんな言葉が気休めにしかならないのは自分でも重々分かっている。
 それでも梨杏は、零次を安心させてあげたかった。
 幼い頃から、いつも零次に助けられてばかりだった梨杏は、いつか零次を助けられるようになりたいと思っていた。
 だからこそ、今自分にしか出来ない事を零次にしてあげたい……と。
「……梨杏」
 短く呟く零次の身体から、いつしか震えは止まっていた。梨杏の励ましに安心したのだろう。
 そして、迷いはもう無い。
 瞳の奥には、決意の光が宿されていた。
 例えどんな形になろうと彩を救い出す……そして、どんな事があっても守ってやろう。零次の心はそう決意して揺るぎなかった。
「もう大丈夫だ。ありがとう」
 暫くして、寄せていた身体を離した零次は梨杏に礼を告げると、彼女の頭を撫でた。
 幼い頃、そうしていつも梨杏を慰めていたように。
「んっ……」
 くすぐったそうに目を細める梨杏は、その手が離れて悠然と歩を進める零次の背中を見送った。
“彩……必ず助けてやる。待っていろ”
 フルフェイスのヘルメットを被り、基地の格納庫へ収められていたマッハアクセルに跨った零次は、ヘルメットのバイザーを閉めてキーを回す。
「マッハアクセル、座標226。太陽光発電研究所へ向かってくれ」
『Yes、My―Master』
 エンジンの目醒めとともに、AIプログラムが起動したマッハアクセルは、電子音声で零次の指示に応える。
 座標と目的地を告げる事により、マッハアクセルのAIがナビゲーションシステムの役割を果たしてくれるのだ。
 そして、スロットルを回してエンジンの回転数を上げるとオフロードバイク特有の甲高い唸りを上げてマフラーから排気ガスを吹き出す。
 異常は無い。メンテナンスを抜かりなくやってくれた整備班のお陰だ。
 暫しの空吹かしでエンジンを暖めた後、零次は右足でギアをニュートラルからローへとシフトチェンジするとマッハアクセルは開かれた格納庫から飛び出し、太陽光発電研究所へ向けて疾走した。

───【次回予告】───

ヒューマンサイクロプスとして改造された彩を助け出すために研究所へと向かう俺。

だが、街でトライバル・エンドが行く手を阻む。

研究所で待ち受けていた彩から聞いたのは……俺を殺すという事。

そして……彩の口から聞かされた思いがけない言葉。
もう……全てが手遅れなのか?

次回、スーパーヒーロー作戦 NEW MISSION Another world 第三話『騎士の涙』
彩……お前を討つ!!

【次回予告ナレーション】
────沢井零次────

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