アセルス
其の6
普通、横からの言葉は反論の対象となってしまう。
しかし、レイチェルの場合は違う。
子供達は当初、寂しそうな表情を浮かべていたが、素直にレイチェルの言葉を受け入れた。
そう、彼女も人気だった。
王子と侍女――
しかし、二人の関係は微妙に違う。
ダレスは、この国の王子。
そしてレイチェルは、侍女として仕事をしているが、彼女の正体は貴族の娘という変わった経歴を持つ。尚且つ、ダレスは彼女に好意を抱いている。無論、多くの者がそれを普通に知っていた。
ダレスに声を掛けてきた、子供達もそうだ。それにより、レイチェルに反論することはない。いやそれ以前に、レイチェルという女の人に好意的な感情を持っているのが強かった。
「今度」
「ダレス様、約束です」
「ああ、約束だ」
「わーい! 楽しみ」
ダレスの言葉に、子供達が一斉にはしゃぎ出す。それだけ、ダレスが生み出す玩具の性能がいい証拠だった。子供達曰く「店で売っている玩具より、ダレスが作製した玩具がいい」と言わせるほど、人気が高い。そしてダレスは知らないが、裏で玩具の取り合いが行われているらしい。
それにより、子供達はダレスの姿を見ると、真っ先に駆け出し玩具の有無を聞き出すのが、恒例となっている。お陰で今日も、大量の子供達に囲まれてしまった。しかしレイチェルのお陰で、長々とした会話をしないで済む。そのことに、ダレスは内心ホッとしていた。
勿論、子供は大好き。
しかし、聊か度が過ぎるのは困る。
といって、言葉に出せない。
それがダレスのいい部分であり、悪い部分でもあった。
「じゃあ、行くよ」
「うん。ダレス様、またね」
可愛らしい複数の手が、ダレスに向かって振られる。それに対しダレスは軽く手を上げると、目的地へ歩いて行く。一方のレイチェルは軽く会釈して返すと、微笑を浮かべていた。そして先を歩くダレスを、小走りで追い掛けて行く。刹那、ダレスが予想外の行動を取る。
「ダ、ダレス様」
「うん。有難う」
「お礼を言われることなど……」
「しているよ」
満面の笑みを浮かべつつ、ダレスはレイチェルの長く美しい髪を撫でる。レイチェルの髪の色は、白に近い銀。陽光を浴び光り輝く髪を、ダレスは気に入っている。その為、時折このような行動を取り、自己満足していた。無論、レイチェルは撫でている間は動けない。
しかし、これはまだいい方だ。ダレスの場合、時と場合を選ばないで動く。そう、抱き付くあれだ。今回は、それを行わない。それが安心でいる要素であるが、これはこれで恥ずかしい。
ダレスは、何処にいても目立つ。
短髪の赤い髪に、黒い双眸。
そして、一年を通して作業着を着ている。
更に、風呂に入ったとしても小汚い。
よって、人込みに混じっていても目立ってしまう。
行き交う人々が、視線を向けてくる。しかし、批判的な視線ではない。全員が、生暖かい視線を向け、二人の関係を暖かく見守る。そう、二人が幸せになってくれることが、国の発展に繋がるからだ。無論、全員が悪気があって行っているのではない。だが、レイチェルは赤面してしまう。
恐る恐る、ダレスの服を引っ張る。
そして、自身の意見を言った。
「ダレス様、お店へ――」
「ああ、そうだね」
「本当に、ダレス様はひとつに集中しますと……それに、できましたら人目に付かない場所で……」
「レイチェルがそのように言うのなら、そうするけど。でも、ちょっと寂しいな。本当だよ」
「そう、仰らないで下さい」
流石、レイチェルに好意を抱いているダレス。彼女の言葉を素直に受け入れている。よって、渋々ながら髪を撫でる行為を止めると、発明に必要な材料が売っている店へと急いだ。
しかし、ダレスが普通に店に向かうわけがない。そう、レイチェルの手を掴み引っ張っていったのだ。完全に、仲のいいカップル。全ての街の人達が、彼等の素晴らしい関係を望んでいる。それを見事に証明している二人。ほのぼのとした光景に、誰もが絶賛していた。
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