風の放浪者&Memoir
其の6
両親に話した翌日、旅に出た。いつ戻るともわからない旅に――
様々な村や街に寄り、沢山の人達に出会った。それと同じくらいに、豊富な経験もした。だが、思っていたことが確信となる。人間は、同じ過ちを繰り返すのか。でも、信じたかった。
そしてルシエルの街で、エリザに出会った。はじめは面白い子供だと思っていたが、暫く一緒にいると楽しかった。だから、共に旅をしている。できるものなら、これから先も――
◇◆◇◆◇◆
「これで、話は終わり。これで寝られるだろ?」
「話を聞いたら、眠気覚めちゃった」
「明日、知らないからな」
「それ困る。あそこ、アタシ一人じゃいけないし――寝ます」
荷物を枕に横になると、すぐに寝息をたてはじめた。何だかんだ言って、かなり疲れているようだ。
エリザから過去の話を聞きたいといわれた時、正直言って迷った。信頼していると言っても、話したくない過去はある。でも、聞いてほしいという気持ちがないといえば、嘘になる。
話して、少しは気分が楽になった。それにより、エリザに話すのも悪くはないと思えてきた。ユーリッドは、消えかけていた火の中に薪を入れる。燃え上がる炎はユーリッドの顔を照らし、暖かな温もりを与えた。
ひとつだけ、どうしてもエリザに話せないことがある。それは、リゼルの名を貰う以前の自分自身。
あれは、遠い過去の出来事。そう思い出すだけで、胸が締め付けられる。
◇◆◇◆◇◆
「我等の創造は、終わった。残るは、誰が昼と夜を支配するか……」
それは、低い男の声音。目の前で、長い漆黒の髪が揺れる。
「お前はどう思う?」
男が聞いてきた。
「僕は……」
唐突な質問に、答えが見つからない。何と答えてよいか迷っていると、その迷いを断ち切る女の声音が響く。
「この子に聞いたってダメよ。決断に、時間が掛かる」
声がした方を振り向く。其処には、エメラルドの髪を腰まで伸ばした女性が立っていた。髪と同じ色の服を纏い、妖艶を浮かべる。外見は、艶かしいものであり、他の二人とは異なる姿だ。
「だが、決めないとならない」
「それは、わかっているわ。でも、早くしないと。いつまでも、揉めているわけにはいかない……ネファリア、いいかしら?」
手招きをすると、ネファリアと呼ばれる男を呼ぶ。ネファリアは顔に掛かった髪を掻き揚げると、女を見据える。
「お前の考えなど、理解できる」
「なら、話は早いわね。私達はこれから、二人で大切な話があるの。貴方は、何処かに行きなさい」
「……はい」
言われたとおり、その場から離れる。崖から滑るように下に下りると、自分たちが創り上げた世界を見て回る。
「イドゥン。お前の考えは、お前と俺の二人がなればよいということか」
「……そう。支配など、あの子には無理」
揺れる髪の隙間から、小さな角が見えた。イドゥンはそれに触れると、どこか裏を感じさせる笑みを見せる。
「怖いな」
「そうでもないわ。それに、アナタだってそう思っている」
「やはり、怖い女だ」
「アナタほどでも……」
ネファリアは大きな岩の上に腰掛けると、掌に顎を乗せイドゥンにずる賢い表情を見せる。
「さて、どちらが昼と夜を支配するか……」
「私は、夜が良いわ。素敵じゃない、夜に輝くなんて。それに、煩いのは嫌い。昼の世界は任せるわ」
「俺には、選択の余地はないのか。まったく、我儘だな。で、アイツはどうする? 仮にも奴は俺達と同じ、いやそれ以上の力を秘めている。下手に動けば、俺達が危ない。目的達成の前、危険を冒したくはない」
「平気よ。私に考えがある。捕まえ、時間(トキ)の狭間に閉じ込めればいい。あそこなら、手出しはできない。所詮、相手は子供。いくら力があろうとも、扱うのが子供なら怖くないわ」
美しい顔は欲望という名の化粧に彩られ、イドゥンの顔が歪む。己の野心の為、身内さえも切り捨てる。冷酷で、心に闇を抱いていた。両手で、エメラルド色の髪を掻き揚げる。髪一本一本が絹糸のように輝き、指の間を滑るように流れ落ちた。
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