風の放浪者&Memoir
其の11

 この、不完全な私という存在に――

「どうか、我々をお忘れなく」

 意識が消え去る時に聞いた言葉は震え、悲しみが含まれていた。

 ああ、お前はそこまで――

 もし再び出会う時があれば、その時は個を愛せるようになりたいと願う。それがかの者達への償いであり、望みでもあった。

 そして、お前達の心を知りたい。


◇◆◇◆◇◆


 寝ぼけている状態で、意識が覚醒する。いつの間にか雨は止み、黒い雲の隙間から差し込む幾つもの光の筋が大地に降り注いでいた。ユーリッドは、不思議な夢を見ていた。遥か遠い昔の記憶でありながら、それでいて昨日のことようにハッキリ覚えている。あれは、懐かしくも悲しい過去。

 何故、あのような夢を――

 強烈な印象や思い出が、夢となって現れることがある。だとすれば、現実よりも過去を気にしているということになるだろう。ユーリッドという人間の生き方。その真相は、彼しか知らない。

 背伸びをしようと腕を上げた時、何か生暖かい物体が凭れ掛っていることに気付く。隣にいたのは、愛らしい寝顔の少女。どうやらユーリッドが眠っていたことに一緒になって眠ってしまったのだろう、気持ち良い寝息をたてていた。

「ストル?」 

 ストルと呼ばれた少女は、黄緑色の髪を胸元まで伸ばし、背中には純白の小さい羽を生やしていた。そして前髪の隙間から見える角は、まるで春に大地から芽吹く新芽ように小さい。

 〈光の精霊ストル〉外見は風の精霊ファリスと同じだが、性格は控えめ人見知りが激しい精霊だ。

「ストル、起きてくれ」

「ふえ? お兄ちゃん」

「どうしたんだ? ストルが一人でなんて、珍しいね」

「え〜っと、それには訳があって……」

 目元を擦り乱れた髪を綺麗に整えると草の上に正座し、ユーリッドのもとに訪れた理由を語る。

「えっと、伝言です。例の物を、発見したそうです。その場所の詳細などは、後程伝えるということで……もし何かご命令があるのでしたら、それを聞いてくるように言われました」

「そんな堅苦しくしないていいよ」

「で、でも……」

「僕が、そうしてほしいんだ。だから、お願い」

 その言葉に頬を赤めると、言われた通り楽な体勢をとる。

「やはり、この街も……」

 ユーリッドは立ち上がると服についた草を叩き、暫く考え込む。「この街にも」という言葉。つまり以前にも同じようなことが、違う街でもあった。そしてこれから起こそうとしている行動も、同じであろう。

「あのね、暫く一緒にいていいかな?」

「別にいいけど、どうした?」

「それは、“側にいろ”と、言われたから。ファリスは、シルリアに説教されているし。他の方は、個別の役割があるから。それと、凄く心配しているみたい。表情はわからなくても、そのような雰囲気が感じられて……」

 すぐに命令を出した人物を理解した。彼なら、そう命令するだろう。迅速且つ的確な判断をし、いつも助けてくれる。“感謝”そんな言葉では、全てを伝えきれない。彼の言葉は、大きな助けとなるからだ。

「そうか。心配していたか。かなり無茶な行動もしたからな。何か言われなければ良いが……来てくれてありがとう。側にいてくれて、嬉しいよ。一人旅は寂しくて、誰かがいると有難い」

「ご迷惑にならないよう、頑張るね」

「よろしく頼む。じゃあ、行くか」

 根元に置いてあった花束を手に取ると、先に歩き出す。置いていかれないよう小走りをするストルであったが、目の前にある小石に躓き顔面を強打してしまう。ボコっと痛そうな音に続き、シクシクという泣き声が聞こえてきた。

「……ヒック、痛い」

 目元に涙をいっぱい溜め、鼻を押さえる。何とか自分で起き上がるも地面に座り込み、大粒の涙を流していた。

(迷惑、かけないんじゃなかったのか……)

 思わず溜息をもらしてしまうが、このままにしておくわけにはいけない。ユーリッドはストルの前でしゃがみ込むと、鼻を押さえる手を退かす。そして怪我の具合を見た瞬間、何ともいえない表情を作ってしまった。

(派手に転んだな)

 鼻全体が、真っ赤に染まっていた。精霊といっても、ストルは女の子。赤鼻のまま、道を歩かせるわけにはいかない。だが不幸中の幸いというべきか、転んだ場所が木陰だった為、服は汚れていない。もし濡れた地面で転んでいたら、泥まみれの姿になっていただろう。


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