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小説
かずはといちろー
「み、みんな、席についてよ〜…」


おろおろしながらクラスで暴れまわる男の子の軍団に声をかけるのは鈴原一郎。俺のクラスの委員長だ。メガネをかけてて、すごく頭がいい。
真面目で大人しいから、先生たちのお気に入り。

なんだけど、


「うるせーぞ委員長!」
「そうだそうだ!ちょっと先生に気に入られてるからって調子に乗りやがって!」
「かっこつけんなよなー」


大人しいいちろーは、いつもいつもクラスの奴らに注意するたびに、こうやって言い返されていじめられる。
正しいことを言っても、ちっとも相手にされないんだ。

「か、かっこつけてなんかないよ。だ、だって、先生言ってたじゃないか。自習だけど、ちゃんと勉強しなさいって…」
「あー、うるせーうるせー!先生先生って、そんなに先生が好きなのかよ!」
「わかった!委員長男が好きなんだー!」
「!ち、ちがうよ!」
「違わないー!うわ、きもー!ほもだほも!」

悪ガキどもが一斉に手をたたきながら『ほーも!ほーも!』とはやしたて、いちろーの周りを囲んで回る。


がん!


俺が机を思い切り蹴ると、からかってた奴らもクラスの奴らも一瞬にしてしんとなった。

「な、なんだよ、かずは…」
「うるっせーんだよ!てめーらが悪い癖にいちろーいじめてんじゃねーよ!」

ずかずかと集団に近づき、悪ガキどもに噛みつくと悪ガキどもは怯えたように身を寄せ合った。

「な、なんだよ瀬戸内!お前、委員長の味方すんのかよ!」
「か、かずはも委員長が好きなんだろ!ほもなんだろー!」

「悪いか!」

俺も標的にしようと一人の奴が言ったことに間髪入れずに答える。俺の言葉を聞いて、悪ガキどもだけじゃなくていちろーも驚いていた。

「いちろーはいつも一生懸命だ!掃除だって先生の手伝いだって、勉強だって委員長の仕事だって真面目にやってんじゃねーか!お前らいちろーと同じようにできんのか!できねーやつが頑張ってるやつの邪魔してバカにしてんじゃねーよ!やりもしないくせにいちろーをバカにする奴らなんかより、俺はいちろーの方が好きだ!」

父ちゃんが、やりもしないのにやってる奴のことをバカにするのは最低だって言ってた。同じだけのことをやってから文句言えって。

俺が怒って怒鳴ると、悪ガキどもはみな黙って俯いた。と同時に、隣のクラスの先生が教室に入ってきた。あまりに騒がしかったせいで様子を見に来たんだろう。


そんで、俺だけ怒られた。





「ごめんね瀬戸内くん、ごめんね」
「いいよ。いちろーのせいじゃないって」

入ってきた先生から見ると、俺が皆をいじめてるように見えたんだろうな。だって、あいつら涙目だったし。そんで、放課後、罰として一人でトイレ掃除をするように言いつけられたときにいちろーが『僕のせいだから、僕もやります!』と先生に言った。


「でも、僕、ちゃんと先生に言えなかった…。せ、瀬戸内くん、ぼくを、かばってくれたのに…」

ぐすぐすと鼻をすすりだしたいちろーに近づき、ポンポンと頭を叩いてやる。

「だぁから、いちろーは悪くないって!俺がおっきな声出したせいなんだからな。お前、こうやって掃除手伝ってくれてんじゃん。だからいいよ。」

「でも…」
「ああもう、わかった!じゃあさ、悪いと思うなら俺の言うこと一つ聞いてくれよ。」

そうでも言わないと泣きやみそうにないいちろーにそう提案すると、いちろーは目をこすり必死にうなづいた。

「ぼ、僕にできることなら何でもするよ!」
「じゃあさ、名前。」

俺がそういうと、いちろーはきょとんとした顔をした。

「え?」
「お前、俺のこと『瀬戸内くん』って呼ぶじゃん。俺はお前のこと、いちろーって名前で呼んでるのに。だから、お前も今度から俺を名前で呼べ」

俺はいちろーの名前を知った時から下の名前で呼んでいる。だって、俺の大好きな野球選手と同じ名前だったんだ!それが嬉しくて勝手に名前で呼んでたんだけど。
普段はあまり話はしなかったけど、俺、いちろーともっと仲良くなりたかったんだ。今回こうやって仲良くなれたんだから、せっかくだから名前で呼び合いたい。

「だめか?」

俺が尋ねると、いちろーはぶんぶんと思い切り首を左右に振った。

「だ、だめじゃない!」
「よかった!じゃあ呼んでみてよ」

はやくはやく、とせかすといちろーは真っ赤になってズボンをぎゅっと握った。



「…か、かずは、くん…」
「おう!」

呼びかけに笑顔で返事をすると、いちろーはすげえ嬉しそうに笑った。

「じゃあとっとと掃除終わらせて一緒に帰るか、いちろー!」
「う、うん!」



嬉しそうに笑いながら掃除するいちろーを見て、俺はなんだかいちろーってかわいいなって思った。



二人して掃除を終わらせて、帰り道。
俺のことを、『かずはくんはナイトみたいだ』って笑ういちろーを見て、俺はナイトってなにかわかんなかったけどいちろーが言うならそれになってもいいかなって思った。




end


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あきゅろす。
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