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守れないかもしれないけど約束して
沖田は病により既に鬼籍に入っています。お気をつけください。
続・「もしもあたしが神様だったなら」(沖神冬祭り提出作品)
になりますが、これだけで読んでいただけるかと思います。


















お前が泣いてくれるから、俺は幸せだ。
墓石に枕なんざするもんじゃねぇよ。…みっともねぇなぁ。
けれど、墓に添い寝る手前の眼にも、土ん中の俺と同じ桜が見えていると思えば、嬉しいもんだ。
この高台から俺の故郷が見えるんだぜ。姉貴と暮らした家、サボリ倒した寺子屋、近藤さんの道場、ついでに糞野郎んちも。
なのに、土に埋まると上しか見えねぇんだな。世界の全てのような空と、一本桜と、お前だけ。 さめざめと降る花を眺めながら、俺を思ってお前は泣く。
喜ぶ俺を酷え男だと思うだろう。


病床を見舞うお前はいつも呑気に笑っていたねぇ。それがいやに眩しくて、そうさな、ちょうどあの空高い太陽のようだった。
燦々と笑うお前に照らされると、血に腐乱したおのれが浄化されるようだった。
救われた。



だがお前はそんな叫ぶような泣き声を、笑顔の下に隠していたんだな。
日に日に死臭を濃くしていく俺の横で、お前が何を思い笑っていたのか――あの時考えもしなかった。
あの薄暗い病室の、障子戸を閉めた後、お前はどんな顔をしていたんだい。今みたく肩揺らして泣いていたのかい。


そう思うと遣る瀬ねえよ。
だがなぁ、お前が涙を見せたとして、どうせ俺は見やしなかった。
死の淵に立った俺には、お前の悲しみを受け止めてやる力はなかった。
ただ、お前の笑顔に縋っていたんだ。
お前はそれを知っていたんだろう。
酷ぇなぁ。狡ぃなぁ。今更気づいたところで、もう涙拭ってやることもできない男だ。捨て時さあ。

「くたばった男なんざ忘れちまえ」
「真っ直ぐ前向いて生きろ」
「ずっと、笑っていてくれ」

最期に伝えた言葉、笑って聴いていたじゃねぇか。たとえ守れなくとも、約束だ。墓前でしっかり破るなってんだ。どうせ手前は、俺がここで見てるとは知らねぇんだから、見なかったことにしてやるから。だからそんなに俺を呼ぶな。
連れて行きたくなるだろう。


"守れなくとも"なんて、みっともなく望んでる男、さっさと置いていけ。そしたら俺は、お前の幸せ願ってやれる。
背筋伸ばして、なんでもかんでも莫迦みたいに笑いとばして生きる、お前のことを愛してた。




沖田総悟は、愛する女の此れからの、強く喜びに溢れた生を、切に願う。























「散ってしまったアル」

最後の花びら一枚が。
此の人の故郷に、埋葬の日初めて訪れた。墓石の傍らに聳える桜は、その日、開花したのだ。
「でも約束守れた、桜一緒に見るって」

守れない約束ばかりせまられて、奴は困っただろうか。無神経と憎んだだろうか。
でも最後にこれを見せてくれた。
蕾ほころび、散りゆくまで、共に見た。終わってしまった。
涙涸れ果て、力尽きるまで、一人泣いた。だが終わりにするのだ。
もう泣くまい。笑って、歯食いしばって笑って、生きていく。


「守れないかもしれないけど、約束ネ」

あの不遜で傲慢で甘ったれな男が、こんなちっぽけな石の下にいるとは思えない。
透き通る青い空や、煌めく星空の彼方にいるとも思えない。
けれど、いて欲しいと願う。それなら約束できるから。
「其方で会おう。いつか行く」










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あきゅろす。
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