Non Stop部屋
2
他人には見えないモノが見える特殊な右目。
その右目が捉えたヒト………
ハッキリとした姿。
死んだことに気付かない人間や、この世に強い未練を持った者、強い怨念を持った生霊なんかも鮮明な姿を保つ。
生霊だと思うけれど、あんな穏やかな笑顔をしてるなんてありえないだろ?
じゃあ死んだことに気付いてない死人か………?
何なんだ………?
いや、興味を持ってはいけない。
向こうが気付く前に意識を離さなければ………───
『────………あれ………?』
「ッ!!」
やばい………気付かれた。
今更ながら視線を足元に落とした。
『もしかして………見えてるの?』
その男は一歩一歩近付いてきた。
『こんにちは………って言っても分からないよなぁ』
不思議な男だ。
人ではない『声』は、普段は耳障りな音にしか聞こえないのに………
なんて澄んだ響きのある声なのだろうか。
水の中にいる感覚が、少し心地好いと錯覚してしまうような………
そのままやり過ごすことも出来たのだが、
「………周りに悟られる………」
『え?………声まで分かるの!?』
俺は俯いたまま口元を手で隠して返事をした。
俺はどうかしてる………
『へー珍しい………生身の人間が、見えて聞こえるなんて』
男は俺の隣に腰を下ろし、俺には無関心な素振りをしながら小さな声で話し掛けてきた。
「たまたまだ………」
『そんな能力あると大変でしょ?俺みたいな変なのに話し掛けられるんじゃない』
「まぁな………でも大抵は相手にしてない」
『そっか……相手してくれてありがとう』
「いや………別に………」
俺達は周囲を通り過ぎる人や『人』に気を止められないように言葉を交わした。
気を遣ってくれるなんて
不思議だ…………
俺は右側に座っている男を横目で見た。
本当にハッキリと見える。
自分が霊体だと認識していて、でも笑顔を向けて………
この存在は何だ?
『………ん?』
「ッ………」
視線がぶつかり、思わず目を逸らしてしまった。
『ホントに見えてるだねぇ〜……不思議だなぁ』
声のトーンで分かる。
きっと、目を細めて微笑んでいるに違いない。
そっちからしても俺は珍しくて
互いに不思議がるなんておかしな話だよな。
「…………」
俺はもう一度男の横顔を見つめた。
そして、
男はこちらを向き、無言で視線を交差させた………
端正な顔立ちで
綺麗だ………────
『………綺麗な子だね………』
「え────」
にっこりと微笑む男は同じように考えていたのか?
『周りが騒がしくなってる………気を付けてね』
「…………」
男は立ち上がる。
俺は釣られて男を見上げた。
『俺…………ここにいるから………良かったらまた来てよ』
「あ………あぁ………」
『ありがと…………』
男は踵を返して離れていった。
俺も立ち上がり、歩きながら眼帯を戻した。
今まで見えていた人が半数くらいになり、
見える世界が一変した。
「ふぅ………」
見たり、聞いたりすると疲れがどっと出る。
けれど今回は疲労感より充実感の方が勝った。
ほんの少し言葉を交わしただけなのに………
不思議な男との出会いは、俺の何かを変えていった………─────
×××××××××××××××
意識をそっちに持っていくとかなり疲れます。
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