Non Stop部屋
3












他人より足が早くて身のこなしが軽かった。



役に立つのは、体育の授業と万引きして逃げる時くらい(しないけど)



部活には所属してないし、スカウトされても面倒だからいつも手を抜いている。




どうせ与えられる能力なら、もっと日常生活で使えるものが良かった………









でも………










今なら神様に感謝します!!








「ちょっとごめんね!」

「きゃあ!!」

「何だ!?」




佐助は屋上からの階段を駆け降りた……



降りるというより、階下の階段へ飛び移っていたので、階段にいる生徒達は空から人が降ってきたことに驚き声を上げていた。











一秒でも早く……

もっと早く!





「神様ありがとう!!」







佐助は下駄箱から校門へと全速力で走り抜けた。




「ハァッ、ハァ………」



(息が苦しい………落ち着け、俺様……)






「ぁ………」

「あれ?今朝の………」




佐助は今気付いたような振りをして、呼吸の乱れを隠して近づいた。




「どうしたの?」

「名前すら聞かなかったし、ちゃんと礼が言えなかったから……」




(律儀……!!ってか、健気で可愛い)



「その派手な頭なら待ってりゃ分かると思ってな」

「っ」




佐助はニヤけそうな気持ちを抑えていたが、男の微笑みに耐えられず顔を逸らした。




「場所変えよっか……他校の生徒は珍しいからね」



下校する生徒に視線を移して、赤くなりそうな衝動をうまく誤魔化した。





「朝は気付かなかったけど、その制服ってあのエリート学校だよね?」

「……エリートかどうかは分かんないけど、A高だ」

「やっぱり……うちみたいな馬鹿学校とは縁がないから待ってる間、ジロジロ見られたんじゃない?」

「………別に気にしてない」

「ナンパとかされなかった〜?」

「………」

「ははは………」



沈黙は肯定だと悟り、佐助は苦笑いしてしまった。



「何か飲む?」

「いや、いい」



(走ったから喉カラカラだよ………)




校門から離れ、自販機の前で足を止めた。



「俺、猿飛佐助」



買ったコーヒーを一気に飲み干したい気持ちを抑えて、口を湿らせた。



「俺は伊達政宗」

「まさむね………」



(……しっかり男の名前だな……でも雰囲気に合ってる)



名は体を表す……という言葉通りで佐助は微笑んだ。



「今朝は本当に助かった……」

「当たり前のことをしただけだよ」

「いや………男が痴漢にあうなんて誰も考えないだろ?だから………助けられたのは嬉しかったよ」

「………」




政宗は嬉しかったと言うが、複雑な笑みで佐助は理解した。



「痴漢にあったのは今回だけじゃないんだね………」

「………」



助けも呼べず助けもなく、何度も嫌な思いをしていることを知り、佐助は怒りと切なさが込み上がった。



「辛かったね………」

「いいんだ………助けてくれたのがアンタみたいな奴で良かったよ」

「───ッ」



柔らかく穏やかな笑みになり、佐助は胸が締め付けられた。




「礼がしたい………何でも言ってくれ」

「何でも………?」

「あぁ………本当に助かったからな」




「何でも」という単語に佐助は思考回路がフル回転した。




(これって何!?過去にはお礼って言ってデートしたりヤッちゃった女の子は何人もいたけど、それは向こうがその気なだけで、この場合はどうなんだ!?)



「何……でも………?」

「あぁ」




(可愛いし美人だし、そこらの尻軽女抱くより全然良さそうだよね………でも男だし、これじゃ痴漢してたオヤジと変わんない?)




佐助は理性と欲望で葛藤した。




(あぁ〜っ、ダメダメ!まずはアドレス交換からだ!……それとも飯奢ってもらう!?)



「どうした?」

「あ……あのさッ」




いつまでも黙っている自分を不審に思い始めてると感じて、佐助は意を決した。




「ヤラせてくれない?」

「えっ────」




(あ……れー!!?俺、今何て言っちゃった!?めっちゃ目が点でこっち見てるよね!?)




佐助は一気に嫌な汗が吹き出した。




「ごめん!今の「いいよ……」

「へ………?」




佐助は自分の言葉にも、それに対しての返答にも理解が遅れて間抜けな声が出てしまった。




「………構わないよ………」



政宗は視線を足元に落として、小さな声で呟いた。




「俺、初めてだけど………ホテルとか行くか………?」





(う………嘘だろ!?何これ………超可愛い………ッ!)




「アンタだったら………」



頬を赤く染めて恥じらう姿は、佐助の股間をもろに刺激した。






「ぅ………嘘!今のは冗談!」

「ぇ………」

「ははは………ごめんね……ついからかっちゃったよ」

「………」




佐助は心と体の動揺を気付かれないように、精一杯の冷静を装った。




「……お礼なんていいんだよ……君の助けになって良かったよ」

「……あぁ………」

「わざわざありがとね」

「いや……」



佐助の笑顔で政宗も笑みを浮かべた。




「あー!そうだ、ごめん……俺、忘れ物したから戻るねっ」

「ぁ………」

「じゃ、気を付けてね」




佐助は目を合わすことなく足早に立ち去った。









「〜〜〜ッ!」




(俺様の馬鹿!大馬鹿!!据え膳蹴ったし、連絡先も聞けなかった!!何やってんだろ………)




あまりに情けなくて奥歯を噛み締めながら学校へと戻った。













────

「いよぉ〜早かったな……お前って早漏だったのかよ?」



屋上では元親が煙草を咥えて、ニヤニヤと笑い掛けた。



「……………」

「何だ?………フラれたか」



眉間にシワを寄せて難しい表情で立ち尽くす佐助に、幾分様子が変だと気付いた。




「………据え膳蹴っちゃった………」

「はぁ!?頭がチンコのお前がか?」

「それはチカちゃんでしょうが!!歩く生殖器!」

「テメェもだろうが!」




下品な悪口を言い合う二人は、肉体関係の相手が不特定多数いるのだ。




「あぁー!もぉ!!ヤリたかったよ!!超ヤリたいよ!!」

「じゃあなんだよ………」


佐助はコンクリートの上に倒れ込んで心中を叫んだ。



「初めてだけどヤラせてくれるって言われて……凄い興奮したけど、大事にしたくなって……俺……」



佐助の語尾は弱々しくなった。




「本気で惚れちゃったんだよ……」




元親の苦笑いなど気付かぬまま、佐助は胸の痛みとせっかくの再会も次へ繋ぐことなく別れてしまったことを嘆いていた。







───神様………


もう一度運命を信じさせて下さい────

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