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生クリームより甘く(佐+政)


















胸が踊り、笑顔が零れ、
街が華やぐ特別な日。







「これって羞恥プレイだよねー………」



思わず愚痴が声に出てしまった佐助は、赤い服を纏い寒空の下でケーキ屋の客引きをしていた。



(とはいっても、割のいいバイトだから我慢我慢………)



表面上は万人受けをする笑顔であり、なかなかの男前であるが故に、
通行人や客に話し掛けられたり写メを撮られたりして、少々気恥ずかしさは感じていた。



(けどまぁ………こういう仕事も悪くはない………かな)



ケーキを目にした人々の明るい表情、
子供達のはしゃぐ姿、
幸せそうな雰囲気に、佐助も釣られて次第に心が温かくなっていた。




(ん…………?)




人の波に佇むスーツの男が視界に入った。



(おぉ〜超イケメン!
男前でスーツでもホストじゃないよな………カバン持ってるし営業さんかなー?
出来る男オーラがムンムンだよ)



こちらを見ているのは確かなので、佐助は目を合わさないように男を観察をした。



(何だろう………待ち合わせで立ってるだけかな?もしくはこの店のオーナーで、バイトの監視とか!?
俺様優秀だから時給アップしちゃったりして!?)



佐助は勝手な妄想に楽しんでいたが、ふっと人波が途切れた瞬間、佐助の視線は一箇所に止まってしまった。


スーツの男が、羽織っているコートのポケットから手を出し、こちらに向かって歩み出した………
そんな些細な動作なのに、目を奪われてしまったのだ。



「………なぁ………」

「あ、はいッ」



距離が縮まり、声を掛けられて佐助は緊張で背筋がピンとした。



「ケーキって取り置き出来るのか?」

「え、あ、」

「仕事中で今は持っていけなくてさ………」

「えぇ!大丈夫ですよ!どれにしますか?」



臨時で増設したショーケースの中を物色し、



「これ」



指差したのは、サンタとトナカイの砂糖菓子の乗った6号ケーキで、佐助はそこでようやく我に返った。



「ぁ………はい、こちらですね、分かりましたお取り置きしておきます……」



大きめなケーキを選んだのだから、帰りを待っている家族がいるのかもしれない。
もしくは一緒に騒ぐ友人や恋人がいるのだろう。


ケーキを買うということはそういうことなのに…………



思わぬイケメンに出会い佐助は1人浮かれ、そして何もしていないのにフラれたような気持ちになり

どこか上の空になった。



『伊達政宗』さん

名前と電話番号が分かっても、それが何だというのだろうか。



街の賑わいとは裏腹に泣きたい衝動に駆られ、目をぎゅっと閉じて天を仰いだ。




「ぁ……………」



天を仰いで僅かに降り注いだ希望。

あの人がケーキを受取にきたら、今までの人達のように幸せそうな笑顔を見せるのでは?

ただでさえ男前なのに、柔らかい微笑みが加わったら………


見てみたい


そんな小さな光りが、虚しさが溢れる心に射し込んだ。



「あぁ〜…………もう一目見るまで頑張りますかぁ」



単純だと思いながらも仕事への張り合いを感じてしまった。





「さむ…………」




しかし、なかなか待ち人は現れなかった……………




(終わり………かな………?)



ケーキはほとんど売りさばき、臨時で店先に増設していたショーケース等を片付け始めた。

聖夜に邪念を抱いた罰なのだろう。

イルミネーションの輝く街並みに反して、佐助の気持ちは暗く闇を落とした。



「はぁ……………」



赤い帽子を脱ぎ、髪を掻き上げながら吐き出した溜め息は白く、冷たい夜風に漂い消えていった。





「…………まだ間に合うか?」

「ッ───────」




不意に背後から声を掛けられ、勢いよく振り返る。


そこにはやはり、昼間と同じように異質なオーラを醸しだすスーツ姿の男が立っていた。

違うことと言えば、疲労を感じる表情をしているくらいだ。


しかし、ケーキを持って帰れば幸せな時間が待っているのだろう…………



佐助は複雑な気持ちだったが精一杯穏やかな笑顔を浮かべた。



「良かった………もう来られないかと思ってましたよ………今用意しますね」

「………………つもりだった………」

「え?」



佐助は店内へと向かおうとしていたので、政宗の言葉を聞き取ることが出来なかった。



「来ないつもりだった………」

「ぇ……………」



政宗はコートのポケットに手を入れたまま、足元に視線を落とした。



「………見ていたら引き寄せられたんだ」

「ぇ……………?」

「みんなが幸せそうに笑っていたから…………」

「……………」

「一緒に食べる相手でもいりゃ良かったんだがな………」

「えっ!?」



ぽつりと呟かれた言葉が想定外で聞き取れない。



「あんたの笑顔を見ていたら、俺も幸せな気持ちになって素通り出来なかった」

「ッ───────」



視線を上げたその表情は、困ったようにはにかんだ笑顔だった。



「1人で食い切れるか自信ないけど、貰ってくよ」

「あ、の!」

「え?」



肩が落ち込み、猫背になっていた背筋をピンッと伸ばす。



「良かったら、俺と………いや、あの………この後予定とか………ないんですか?」



思い切って誘おうと意気込んだのは初めだけで、恥ずかしさでモジモジとしてしまった。



「ククッ………もう仕事終わるのか?」

「えっ!あ、はいッ!ここの片付けしちゃえば」

「なら…………うちで一緒にケーキ食べようぜ?」

「ぅ……ぁ……はいっ!!」



情けない自分とは逆に押しの強い誘い文句。

佐助はカァッと赤くなった顔を、真っ赤な帽子で隠した。



「すぐ片付けてくるんで待ってて下さい!」

「あぁ…………」



佐助は慌ただしく店内へと入って行った。




「やっぱ………この仕事ってイイな………!」





子供達に希望を与えるサンタが、

プレゼントを渡された。



それを開けると入っているのは




『恋心』





ケーキよりも甘い展開に

誰よりも幸せな笑顔が零れた──────













×××××××××××××××

1年越しの完成。
長かったなぁ(遠い目)

佐政達のような素敵なクリスマスがアナタにも届きますように!

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あきゅろす。
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