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片方だけの想い(佐→政)



















イライラする。




何かもうその一言に尽きる。




暑さにめっぽう弱いあの虚弱夏男め………

こんな真夏日が誕生日なんて馬鹿じゃないの。


生クリームなんてどろどろに溶けちゃうしさ、ケーキどうしろっての!?







・・・




「あぁー!もうやめた!」




キッチンで悪戦苦闘を続けていた佐助は泡立て器を放り投げて椅子に腰掛けた。



「はぁ…………こんなの八つ当たりだよな………」




作業の手を止めたというのに吹き出してくる汗。

嫌でも夏の暑さを実感する。




「はぁ…………誕生日ケーキなのにパウンドケーキに変更かな………」



デコレーションケーキにロウソクを立てて祝いたかった佐助は無念でならない。



「喜ばせたかったな………」





歳の数だけロウソクを用意したら、素直じゃないから恥ずかしがって唇を尖らせて文句を言うに違いない。

照れ隠しで悪態をつく、子供みたいな言動。

そんな可愛らしいキミを抱き締めることが出来ないんだ…………






「はぁ…………………」



佐助は大きな溜め息をついた。





「…………見てたって旦那の分はないよ」

「うぉ!?」



こっそり様子を伺っていた幸村だったが、背中に目でもついているのかと驚いた。



「べ……別に甘味欲しさに見ていたわけでは…………」

「じゃあいらないの?」

「そ、そういうわけではござらん!」



佐助は背中を向けながら幸村に意地悪を言う。



「当然食べたいに決まっている!佐助の作る菓子は何だって美味いのだから………貰えたら嬉しいぞ」

「…………」



幸村なりに気を使っていることが理解出来るから、放り出したままの佐助は居心地が悪かった。



「………佐助………」

「……………」

「いいのか?きっとお待ちになっているのだろう?」





普段は幸村が一方的に子供じみているのに、逆転した立場で駄々っ子をあやすように、幸村は佐助に近づいて、明るい髪を撫でた。




「…………」

「ほら、立たぬか!」

「う、あ」



はっきりしない佐助に幸村は焦れて、腕を引っ張り向き合って立たせた。



「さっさと用意をせぬか」

「いいじゃん、別に………」



バツが悪そうに佐助は視線を逸らしてムスッとしていた。



「お前は仕事をきっちりする気質だからな………気持ちが分からんでもないが、行かねば相手には伝わらんぞ」

「ん、何!?」

「お前の誠意だけでも十分ではないかの?」



幸村は佐助の首に、自分の赤い鉢巻きを巻いた。



「俺はそう思うぞ?」

「………………」



遠回しに背中を押す幸村は柔らかく微笑んだ。




「はぁ………やれやれ、まさか旦那に励まされるなんて不覚だよ」



不器用な優しさに零れる苦笑い。



「旦那は蝶結び出来ないんだから、これじゃリボンには見えないでしょ?」

「良いではないか!大事なのは熱き心であるぞ!」

「はいはい………ってかさ、自分にリボンつけて『プレゼントは俺♪』なーんて寒くて出来るわけないでしょーが!」

「何故だ!?良い案ではないか!?」

「はいはいはいはい…………静かに向こうで待っててよ」

「何がイカンのだ!?」




絶妙なアイディアだと思った幸村を佐助はキッチンから一掃する。




「旦那ってば、いつの時代の発想だよ…………」



佐助は溜め息をつきながら首に巻かれた片結びの鉢巻きに触れる。




「まぁ…………一理はあるか…………」





もう一度やる気を奮い起こされて、佐助は腕まくりをし直した。






甘い香りが漂うキッチンには2つのケーキが出来上がった。













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政宗様生誕記念小説★


なのに、政宗様が一文字として現れない不思議。

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あきゅろす。
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