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吸血鬼の憂鬱(妖パロ親+就)
「はぁ〜…………」
昼間だというのにカーテンを閉め切り、蝋燭で部屋を照らす男は盛大なため息をついた。
「はぁぁあ〜………」
魂が出てきそうなくらいに深いため息をついて、銀色の頭を掻いた。
「貴様がため息をつくなど天変地異の前触れか?」
「………元就……」
虚ろな目で、声を掛けてきた元就を見た。
「元親、何だその顔は?」
「あぁ〜……これかぁ」
元親は赤紫に腫れた頬を撫でた。
「昨日の晩………殴られた」
「貴様を殴るような人間が居るとはな」
「それも一発KOされちまったぜ」
「なんとっ………」
元就は無表情ながらも驚きを隠せなかった。
「それで傷心に浸っておるのか」
「いやぁ………まぁ殴られたことはショックだがよ、それ以上に………惚れちまったみてぇでよ」
「……………脳が重症だと思っていたが、もう人生止めるがいい」
「ちょっと待て!クロス向けんなよ!っつーか何でテメェは平気なんだよ!?」
元就の差し向ける十字架のペンダントから身を必死で隠した。
「我は陽の光すら克服してみせようぞ」
「ありえねぇな………」
そう………二人は吸血鬼なのだ。
「それで………言い残すことは?」
「だからそれしまえって」
元親は視線を外しながら口を開いた。
「昨日………旨そうな匂いを辿ってったら……すげぇ上玉に会ったんだよ!」
「ふぅん……」
「それで嬉しくてよ、処女だよな?って声掛けたらぶん殴られた」
元親は頬の傷に触れた。
「きっとあんな美人が処女っつーのは恥ずかしくて手が出たんだろうな」
「変質者に声を掛けられて身を守ったのだろう」
「変質者って、どこがだよ!」
元就は冷たい視線で元親の姿を上から下まで眺めた。
「乳首丸出しでマントを羽織るなど変質者……もしくは変態だな」
「変態だと………?男しか喰わねぇお前に言われたくねぇな」
元親は眉間に皺を寄せて睨みをきかせた。
「我には女の良さなど分からぬ」
「もったいねぇって!処女なんてよ、甘くてとろけるような舌触りで」
「貴様がグルメ気取りで驚きだな」
「か弱い力で抵抗する必死さが健気で可愛いだろ?」
「女の金切り声など聞くに耐えられぬわ」
「だからって男かよ!暴れて面倒臭ぇし、大して血も旨くねぇんだぜ?」
「フッ………絶望に歪む顔が見物ではないか」
「お前が変態じゃねぇか………って、だからこっち向けんな!」
「その口塞いでやる………」
二人の攻防が続いた。
─────
「さて………ようやく俺の時間だな」
月が天空に輝く頃、元親は屋根の上に立ち不敵な笑いを浮かべた。
「会いに行くぜ………ハニー」
元就に「お前は犬のようだ」と失笑されるくらいに元親の鼻はよく利いた。
「ははっ!見付けたぜ」
数刻辺りを探しただけで目当ての人物を特定したので、自然と気分が高揚してきた。
「よぉ〜」
「っ!?」
元親は音もなく背後へと舞い降りた。
「昨日は熱い一発をありがとよ……っと!手が早ぇが昨日の二の舞にはならねぇぜ」
元親は瞬時に繰り出された拳を避けた。
「何だよ……美人が未だに処女だっての気にしてんのか?」
「黙れ変質者!」
「変質者って………俺が乳首出してるからそう言うのか!あぁ!?」
昼間元就に変質者呼ばわりされていたのを思い出し、逆ギレを起こした。
「自覚してんなら直せよ………」
「………これはファッションだ……」
冷静な指摘を受けて少しバツが悪そうにトーンダウンした。
「……格好は置いといても……男に処女って聞いてくる時点で変態だろ?」
「処女は味を左右する重要なポイント…………ってお前男か!?」
「まぁ………間違われる」
「………男………だな」
暗がりで女と見間違えた男を目を凝らして眺めると、自分と同じく片目を隠し、華奢で美しいが男であると認識出来た。
「そうか………男か………そりゃ処女か聞いてくる奴には警戒するよな……そりゃすまねぇ」
「あぁ………こっちも咄嗟に手が出て悪かったな」
「いや構わねぇよ………」
二人は誤解が解けて口元を緩めた。
「…………けどまぁ男でもこんだけ旨そうな匂いってのは楽しみだな……」
「は………?」
「昨日はおあずけだったしよぉ…………」
元親がニヤリと笑うと鋭い犬歯が目を引いた。
「テメ………吸血鬼かよ……」
「俺は女しか喰わねぇって決めてたが、お前は味わってみてぇよ」
「Ha!笑えねぇ冗談だな!」
「大人しく喰わせな!」
捕まえる喜びで笑みの浮かぶ元親と、その動きをかわしながら自信があるのか楽しむように攻撃を仕掛ける男。
「くぅっ……手も早ぇが足癖も悪いみてぇだな」
元親は上段蹴りをガードしたが、勢いがあって軽くよろけた。
「いい加減観念しろよっ………こっちは腹減ってんだよ!」
「他所を当たりなっ!」
「ははっ!据え膳を見過ごせるかよッ」
元親は2度目の上段蹴りが来ると分かり、頭をガードしながら足を掴む攻め気でいた………
が、
「ッ────!?」
痛みが走ったのは鳩尾だった。
「フェ………イント………ぐはっ」
「失せな!」
体がくの字に折れたところへハイキックが決まり、元親は倒れた。
「はぁぁあ〜………強ぇ……」
脳が揺れてしまったようで、遠ざかる気配を引き留めることが出来ずにため息が漏れた。
「………無様だな」
「……元就………」
朦朧とする意識の上から聞き慣れた声が降ってきた。
「あれが貴様の言っていた奴か………」
「あぁ…………男だったが旨そうだぜ」
「うむ………確かにな」
「………元就………おぃ………テメェ……何だその顔は!?」
素直な元就に違和感を感じて見上げると、そこには世にも珍しい、目を輝かせて笑みを浮かべる姿があった。
「フフフ………あの美しい顔を歪ませたいな」
「ちょっと待て!あれは俺が先に目つけたんだぜ!?」
「それがどうした?変質者」
「元就ッ!!」
元就は嬉しそうにその場を飛び去った。
「おいっ!くそっ………!」
元親はクラクラする頭を抑え、鼻血を拭いながら立ち上がる。
「あれは俺のもんだッ!!」
一方的にやられっぱなしの元親の叫び声は、静寂な夜空に響き渡った……………
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