現役と"元" 4
過去編
武田組の鉄砲玉には、2つの意味で手を出すな─────
それは高校生の不良でさえ知っているようなルールだった。
血の気が多く、喧嘩っ早い。
やられるまでは手を出さないが、やられたら何倍にしてでも返す。
返り血を浴びて不敵に笑いながら屍の上に立っているような強さ。
しかし、キレやすい単細胞だが、聡明だったので上の者には手を焼くが可愛がられていた。
それ故に、強い奴には身体を使って媚を売っている………
そんな噂さえあるくらいに政宗の存在感は大きかった。
当然ながら、そんな政宗を良しと思わない人間も多くいる。
なので余計にルールが広まっていたのだ………
下っぱだからと思って舐めてかかると、痛い目に合うし、上が出て来る。
見た目に騙されて近づくと、血を見るぞ………
だから鉄砲玉には手を出すな────
「お前はいいよなぁ〜。問題起こしてもパトロン達がケリつけてくれるからよ」
「はぁ?」
「男を口説くテクニックを教えて貰いたいよ」
「はははっ無理無理!男捨ててまでヤレねぇよ!」
組の内部でさえ、政宗をひがみ、蔑む連中はいた。
「俺が身体売ってるってなら、アンタの骨が軋むまで叩き込んでやろうか?………まぁ………相手にだって選ぶ権利はあるから教えるだけ無駄だろうがな」
「テメェ………!」
「来るか?」
政宗はニイッと笑った。
「はーいはいはい!お前等、組内で喧嘩は起こさないのー」
「頭っ!?」
「どうしてもっていうなら俺が相手になるけど?」
「いや………」
制止に入った佐助の登場に、喧嘩を吹っかけた相手達は大人しくなり、
政宗は…………
「──────」
「おい、ちょっ、待てッ!」
「うわぁ!若頭ッ!政宗を止めろッ」
政宗は佐助に殴りかかったのを羽交い締めにされて、止められた…………
「………お前さぁ………一応俺様って偉いわけ。分かる?」
「………すみません………」
「ったく………政宗くらいだよ〜……キレて俺に本気で楯突くのは」
「わっはっは!元気があって良い!」
「笑い事じゃないよ大将〜」
上座に座る信玄は豪快に笑い、正座をして叱られている政宗は俯いたままだった。
「拳で語り合えば不協和音もなくなるだろう!存分に励め!」
「いやいや………はぁ………もういいよ政宗………」
「はい」
「とりあえずさ、お前に非はないと思うけど、俺を殴ろうとしたことを反省しろ」
「…………」
「納得してない顔してるし………もぉ………指が10本ついてる奇跡に感謝しなさい!」
政宗はムスッとしながらも一礼して部屋を出ていった。
「はぁ〜………何であんなに短気かなぁ………俺も指が全部ついてるのが不思議だよ」
「はははっ………昔のお前のようだな」
「嘘ぉ〜!俺はあんなに武闘派じゃないでしょ?」
「そうか?儂もお前には散々手を焼かされたぞ?」
「………俺様の威厳がなくなるから内緒ね」
佐助はバツが悪そうに1つ咳払いをした。
「お前もそうだったが、あいつも育てれば伸びそうだな………」
「…………まぁね………人を惹きつけるカリスマ性みたいなのを持ってる気がするよ」
「フフッ………寝首をかかれぬようにな」
「……………」
信玄の意味の込められた言葉に、佐助は目を細めて少しだけ口端を上げた。
「じゃあ、お説教も終わったし出掛けてくるよ」
「あぁ………」
佐助は立ち上がって信玄に背を向けた。
(寝首ね…………)
また目を細め、頭の中で言葉を反芻した…………
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