太陽と月の距離
決戦
「おっはよ〜幸村!」
「慶次殿……おはようございまする……」
「ははっ!また死んだ顔してるなぁ」
幸村は椅子の背もたれに体を預け、焦点の合わない目を慶次に向けた。
「昨日は一睡もしてないでござる……」
「何だ?浅井に絞られたか?」
「はぁ………」
「でもそれは当直の晩に爆睡するお前が悪いだろう?」
「うぅ……」
幸村は安堵から気が緩んで、仕事中に眠ってしまう失態を犯してしまったのだ。
「んで、気になるあの子には電話したのか??」
「……慶次殿に言われたその日は当直で寝てしまったし……昨晩は缶詰であったし……」
「じゃあ今日だな?」
「うむ………」
急に幸村の顔つきが男らしくなり、慶次はニヤッとした。
「よし!後はオレが引き継いだからお前はさっさと帰れ」
「はい」
「ちゃんと結果は教えろよな?」
「……はい!」
慶次は幸村の肩を叩いて送り出した。
───────
「ただいまぁ〜……」
「あ、旦那久し振り」
自宅では出勤前の佐助が迎えてくれた。
「二晩も当直なんて大変だったね」
「うむ……」
「……まずは寝たいって顔だね」
うとうとしている幸村を見て佐助は苦笑いをした。
「ご飯は作っておくから起きたら食べてね!ほら歯磨いてトイレ行っておやすみ」
「子供扱いをするな……」
「旦那はまだまだ子供だよ」
「むぅ………佐助、仕事頑張れよ」
「ありがと」
拗ねたように頬を膨らませる子供な仕草をする幸村に笑ってしまう佐助だった。
「………旦那は子供の頃から変わってないよ」
布団で丸まり、規則的な寝息をかく幸村の姿を温かい視線で見つめた。
「それじゃ旦那……ご飯食べていい子にしててね」
「……ま……しゃむ…にぇど……」
「何の寝言だろ?気持ち良さそうな顔して……おやすみ」
幸村が知らない男の名を口にしたなど気付くことなく、佐助は部屋のドアを閉めた。
──────
「ふぅ…………」
幸村はリビングの床に電話機を置き、正座をして向き合っていた。
十分睡眠をとり、腹も満たされて決戦への準備は整っていた。
(初めてお見かけした時と同じ刻……今なら出られるだろうか……)
幸村は目を閉じて息を大きく吸い込んだ。
「真田幸村……参る!」
覚悟を決めた幸村は暗記してしまうくらい眺め続けた手帳の番号をプッシュした。
プップップ……トゥルルル……
「……ッ」
コール音が聞こえ、緊張が高まった。
『……誰だ?』
警戒をしているのか幾分低いが、脳内で何でも反芻したハスキーボイスが聞こえた。
教えてくれた番号に偽りはなかったのだ。
「あっ、せ、先日お世話になりましたっ真田幸村と申します!!」
『Ah〜……本当にかけてきやがったな』
「ッ!」
幸村は掛けてはいけない電話だったのだと悟り、嫌な汗が噴き出す感じがした。
「すっすみませぬ!某、調子に乗ってしまったようで!失礼いたした!」
『Wait!ちょっ、待てッ!』
「え……?」
幸村は受話器を置きそうになったが、止める声が聞こえて留まった。
『Ah〜………逆だ………』
「逆……?」
『……お前がTelしてくるのを待ってた……』
「え」
受話器を更に強く押し当て、一語も聞き漏らすまいとした。
『だがよ……なかなか掛かって来ねぇからJokeだと思って諦めてたんだよ』
「す……みませ……ぬ」
幸村は驚きと歓喜のあまりに声が震えてしまった。
『まぁいい……それで……掛けてきたってことはそういうことだよな?』
「は、はいっ!お誘いしたくてっ」
『ククッ……お前の都合に合わせるぜ』
電話越しでも目に浮かぶ、白い歯を覗かせた笑み───
──────
「……はぁ………」
幸村は電話機の前で放心状態でいた。
次の休みに合わせて時間や待ち合わせ場所を決めたのが夢のようだった。
『またな』
その言葉が耳の奥でこだましていた。
「政宗殿………」
夢心地でうっとりとする幸村だった。
×××××××××××××××
オマケ
「あれ?電気ついてる」
佐助は夜更けに帰宅した我が家に首を傾げた。
「ただいま〜………だ、旦那!?」
リビングで正座をしている幸村がいた。
「旦那!どうしたの?旦那ぁぁあ………」
放心状態の幸村を揺り動かす佐助の叫び声が響いた。
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