太陽と月の距離
伝言


















カラン──────




「すんませーん、まだ開店前………ぁ………」



仕込みをしていた佐助も、店内を拭き掃除する才蔵も、
訪問客の姿に、思考も動作も固まってしまった。



「忙しい時に悪いな………」



スーツ姿で現れたのは幸村の想い人、政宗だった。



「あ………れー?随分と久し振りだよねー!今日は旦那と待ち合わせだった?」

「いや………今日はあんたに用が………」

「え………俺?あ、まぁ座って座って!」



幸村からは何度も話に聞いているが、会うのはこれが2度目。
そして、幸村抜きは初めてなので佐助は少し緊張してしまった。



「1ヶ月振りくらいかな?」

「少しゴタついててな………これ土産」

「え?何?笹かまだー!」



佐助は渡された紙袋を覗いて目が輝いた。



「暫く実家に帰っててな………ここ、創作料理やってるから何かに使えるだろ」

「お客さんに出すなんて勿体ない!うちらで戴くよ!ありが………と………」



軽くテンションの上がった佐助だったが、政宗を見てハッと我に返った。



「…………痩せちゃったね………ご飯ちゃんと食べてないでしょ?何か作ろうか」

「いや………いい、これ以上邪魔はしたくねぇ」



どこか影を落とした政宗に佐助は不安になった。



「何かあったの…………?」

「それを聞きに来たんだ」

「え?」



政宗はカウンターの席に座ったが、佐助とは視線を合わさずに話し始めた。



「実家に行く前にアイツと会って………それから連絡がまともにつかなくなってな」

「…………」

「忙しいからってすぐ切ったり………電話に出ないことが多い………掛け直すこともねぇ………アイツ、嘘つくの下手だろ?明らかに俺に何かあるみてぇでよ………」

「あ………うん………」



佐助は心当たりがあり過ぎて目が泳ぎ、才蔵に目配せしたが、才蔵は気付いて慌ててテーブル拭きを再開した。



「なんつーか………暑苦しいくらいに押してくる奴が急に引いたからよ………最近のアイツの様子、あんたに聞けば早いと思ってな」

「そっ、かぁ………」



佐助は斜め上に視線を逸らして頭を掻いた。



「来て正解だったよ………やっぱりあんたは知ってるな」

「え─────ッ!」



政宗は頬杖をついてニヤリと笑うので、佐助は嫌な汗が吹き出すのを感じた。



「隠すなよ」

「んー…………」



佐助はまたしても才蔵に目配せしたが、才蔵は我関せずを通していた。



「………はぁ………分かった、話すよ」



あやふやに誤魔化すにも、相手は既に単純明快な幸村のことをよく知っているで、無駄はやめようと佐助は悟った。



「あのさぁ、政宗くん」

「政宗でいい………」

「それじゃ政宗………旦那がさ、政宗のことすっごくキラキラした眼で見てるのは知ってるよね?」

「あぁ…………告白されたしな」

「告ッ!?………はは………あの猪め………なら話が早いや」



佐助は遠回しに表現しようとしたが、奥手な割に行動の早い幸村に苦笑いが零れた。



「まぁ、旦那は政宗のことが好きで仕方なくてさ、気持ちが昂ぶるっていうか………堪えきれない想いっていうか………欲求っていうか………?」



佐助は政宗の反応が気になって回りくどい言い方をする。



「…………俺をネタにヌイたってことか?」

「ん!?まぁ、そう……なるかな?」



政宗はすぐに察して答えを導き出したが、
口は良いとは言えないにしても、パッと見は気品の漂う政宗の口から外世話な言葉が出ることに佐助は戸惑った。



「それで?」

「ん〜………まぁ、旦那はそれで後ろめたいっていうか、自己嫌悪に陥っててさ………合わせる顔がないって毎日騒いでるよ」



佐助はチラリと視線を政宗に向けると、



「ククッ………そんなことだったのかよ」

「え……………」



表情は一転して穏やかなものだった。



「邪魔したな」

「え!?いや、それは構わないけど、オカズにされたことって気にしないの?」

「別に………男なら気になる奴で普通するだろ」

「ん………まぁ………」



男の幸村がどんな妄想をしようと、それのどこが悪いのか?と言わんばかりな器の大きさを見た佐助は、自分の予想を反した政宗に何も言えなくなった。




「………そうだ、どうせ今日も幸村は来るよな?」

「うん、普通の日勤だから夕飯食べるのはここだよ」

「ならよ、1つ伝えといてくれ」

「何?」



政宗はドアの手前で振り返った。



「今日、連絡寄越さなかったらお前とは終わりだ、ってな」

「ッ───…………分かった」

「じゃあな」



1つ1つの動作が人を惹き付けるように、笑みを残して身を翻した政宗を、佐助は微動だに出来ず息を飲んで見送った…………













×××××××××××××××

オマケ

「おいッ!いつまでボーッとしてるつもりだよ」

「え?あぁ、才蔵………ごめん意識飛んでた」

「ったく………お前が他人に飲まれるなんて珍しいな」

「あはは………不思議な子だよね〜………とりあえず笹かま食べる?」

「あぁ」

「俺様がペース乱されるなんてなぁ………」



佐助は包みをガサガサと開けながら思い返した。



「旦那にちゃんと注意しないと………終わっちゃうよ、って……………あれ?」



佐助はピタリと動きが止まる。



「終わるってことは………もう始まってるってことかぁぁあ!何!?付き合ってるってこと!?どこまでの関係になったの!?旦那はオナニーしちゃうくらいだからその辺まで進んだってこと!?」

「テメェは幸村さんのことになると取り乱し過ぎだっての………」

「何!?どーゆーこと!?嘘だろぉぉ」



才蔵は1人笹かまを噛りながら、暫く佐助の絶叫を放置したが、
怒声と鉄拳が佐助に落ちたのは2つ食べ終わった後だった。

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