太陽と月の距離
二面性(番外編)
「なぁ………顔痛いんですけど?」
「…………知るかっ変態!」
昨日から腫れ上がった頬に湿布を貼った佐助は、殴った張本人に恨めしくブツブツ文句を言いながら仕込みをしていた。
「お前って………俺の顔を何だと思ってんだよ」
「………別に………ムカつく変態の顔だとしか思ってねぇよ」
「ヒドッ!!」
両手で顔を覆って泣き真似をした。
「ガタガタ言ってねぇで仕事しろよな」
才蔵はくだらん、とばかりに溜め息をついた。
「………ってゆーかさ、この俺様の顔にケチつけるなんて、お前目が悪いんじゃないの?」
「はぁ?テメーで男前だと思うお前の頭が悪いんじゃねぇ?」
「よく見てから物言えよー」
「ガキん頃から見飽きてる………つーか、顔近ぇんだよ!!」
佐助が男前なのも、本気で殴ってしまったことを悪いと思っていることも、才蔵は素直に認めず憎まれ口を叩いた。
「見飽きてんならいいじゃん?」
「よくねぇよッ」
キスをするのではないか、というくらいの距離で佐助は才蔵の顔を覗き込んだので、
才蔵は居心地悪く顔を背けた。
「…………やっぱりイイ男って思ってるじゃん♪ありがとう」
「はぁ!?」
「才蔵ってそういうとこ素直だよねぇ〜」
「何が!?」
佐助は意味深に笑うので才蔵はイラついて声を張り上げた。
「才蔵が嘘つく時の癖くらい分かってるからね」
「そんな癖あるか!いい加減なこと言うなよ」
「何で〜?ホントだよ」
佐助の笑顔は変わらない。
「………フン………そうやってカマ掛けようってんだろ!乗るか!アホがっ」
佐助の腹の内に気付いた才蔵は踵を返した。
「………………乗るか、ってことは………?」
「ッ!!」
才蔵はハッとして口を抑えたが、既に手遅れ。
「ほら〜♪やっぱり嘘ついてたってことじゃん」
「お………お前のそういう腹黒い所がムカつくんだよ!」
才蔵は、結局佐助の話術に引っ掛かり晒してしまった自分の醜態を恥じて赤くなった。
「はははっ♪俺は素直な才蔵が好きだよ」
「好きとか言うなよ!お前が言うと冗談に聞こえねぇ!」
「いいよ………本気にしても」
真面目な表情になり、才蔵はドキリとした。
「だーからやめろって!ただでさえ幸村さんに歪んだ感情抱いててお前の言動はアヤシイんだからよ〜」
「…………何それ?」
「ッ………」
動揺していることを誤魔化そうと冗談交じりにぼやいたが、佐助の声色が変わったことにハッとした。
「いや………母性愛ってより、独占欲のある恋愛感情みたいだろ?」
「…………」
(あぁ〜………読めねぇ………地雷踏んだか?)
佐助の表情は消えていたので、どう思ったのか読み取れず、才蔵は口にした言葉を後悔した。
「何で?」
「いや………ただ……お前の執着が異常だからさ」
「鼻水垂らしたガキの頃から旦那の世話してるんだよ?
そこに恋愛なんてあると思うの?普通に考えてみたら?」
「………ないんじゃ……ねぇの………」
佐助の冷やかな態度と声のトーンに才蔵は居たたまれなかった。
(コイツの………こういうとこ………やっぱアレだな………)
冷酷な一面があるということを昔から知ってはいるが、普段が飄々としている分、ギャップが大きく辛さが増した。
「………その…………」
冷たく突き刺さる視線に耐えられないのに、才蔵は「悪かった」の一言が喉元で止まってしまった。
「………………唇尖ってるよ」
「ッ………」
才蔵はバッと佐助の方を向くと、目を細めて穏やかに微笑んでいた。
「その口は才蔵の癖だよね」
「と………尖ってねぇよ」
幼稚だから直したいと思っているが、拗ねたり不機嫌な時に出る癖なので、才蔵は赤くなって口元を隠した。
「………俺も旦那も才蔵もさ、家族みたいなもんじゃん?」
「まぁ………な」
「でも、そんな顔させちゃってごめんね」
「………別に」
先に謝られてしまい、才蔵はバツが悪かった。
「………またぁ〜、そんな口してるとキスしちゃうぜ?」
「バッ………カヤロー!!だからお前のそういう言動がおかしいっつってんだろ!!」
「あはは♪」
冗談を言ってからかう佐助に、怒鳴ってツッコミを入れる才蔵。
これがいつもの風景だった。
×××××××××××××××
オマケ
「ったく………家族って言うなら幸村さんがオナニーしたことは逆に喜べよな」
「は?」
「健全でいいじゃねぇか」
「良くないぃ!!ねぇ!どうやって教えたの!?まさか、お前のを握らせてヌキっこしたとか!?」
「ぉ………お前は家族うんぬんの前に、ただの変態だッ!!」
「ぎゃあぁ─────」
才蔵の鉄拳が利き手じゃなかったのは、逆の頬を………という、ほんの少しの良心だった…………
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