太陽と月の距離
胸中
(政宗殿………)
幸村は思考回路がパンクしそうな気がした。
(あんなお顔………どれ程の傷を心に抱えておられるのだろうか……)
眠れぬまま夜が更けていく。
「政宗殿………」
幸村は愛しい気持ちが溢れ出て、通話ボタンを押してしまいたい衝動と闘いながら携帯の液晶画面を見つめた。
「………ぬぉっ!?」
携帯が突然震えたので、驚きのあまり落としてしまったが、その画面には見慣れた名前………
「政宗殿!?」
『悪い………寝てたか?』
「いえっ……あのっどうされました!?」
『……お前の声が………聞きたくなってな…』
「…………ッ!!」
弱々しい電話口の政宗の、思いがけない言葉に幸村は胸が締め付けられた。
「政宗殿………」
『今日は……情けねぇ姿見せちまったな』
「いえっ………そんなことは……」
『……少し話をしていいか?』
「はい………」
深刻そうな声のトーンに幸村は思わず正座をしてしまった。
『俺は右目を……小さい頃に病気で失った……失明じゃねぇ………本当に眼がないんだ』
「ッ!?」
政宗の告白は幸村に衝撃を与えた。
『病気の後からお袋は……弟だけを可愛がり、俺の存在は否定し続けたよ……』
「…………」
幸村は言葉を掛けずに一語一語をしっかりと聞く。
『産んだ覚えはないと言われ、死ねばいいとも言われた…………親父が弟ではなく俺を跡継ぎにしたから余計に…………風当たりは強ぇよ』
「………ッ」
『だから……お前が家族を笑いながら語ってるのを見て』
「すっすみませぬ!政宗殿の気持ちを汲むことが出来ず……」
幸村は無意識で政宗を傷付けていたことに責任を感じた。
『お前は今知ったんだし、もう俺は淋しさを感じるガキじゃねぇ………だから謝るな』
「しかしっ……某は政宗殿を………」
『いいんだ……お前は悪くねぇ』
「お前は」という政宗の言葉は幸村の心に深く刺さった。
「政宗殿だって…………悪くないです……」
『………』
「ご自分を責めないで下され……」
『幸村………』
「一人で平気な振りをしないで下され………」
幸村は電話越しに感じる哀しみに耐えられず、涙が頬を伝った。
「今、政宗殿のお側に居られぬこの身がもどかしいです………!」
涙は拭いきれず、溢れ続ける。
『お前は………真っ直ぐで眩しいな………』
「………」
『俺は大丈夫だ』
「政宗殿……」
『お前の存在は俺を救ってくれる…………だからお前は泣くな』
「本当で……ござるか?」
政宗の声は柔らかくなった。
『あぁ……お前に話して、お前の声が聞けたから落ち着いたよ』
「政宗殿……ッ」
『………坊やは泣き止んだか?』
「ッ!!」
いつものように悪戯な笑い声に、幸村はホッとしたが恥ずかしくて真っ赤になった。
『こんな時間に悪かったな……』
「………いえ……某が少しでもお役に立てたのなら幸いです」
『あぁ………お前でも役に立って驚いたよ』
「政宗殿ッ」
『ククッ………じゃあまたな』
「はい!おやすみなさい」
二人とも笑顔で通話を終えた。
「政宗殿…………某がお守り致します……」
幼少時からの心の傷を、少しでも癒すことを幸村は誓った。
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オマケ
「おはよ〜旦那………随分眠そうだね」
「うむ………」
幸村は寝不足で仕方ない顔をしていた。
(昨日は店を出た後どこまで行ったのかなぁ〜………はははぁ〜………)
佐助は空想やら妄想やらで冷静さを失っていた。
「佐助………朝飯はまだか?」
覚醒してきた幸村のその一言があるまで、シンクを磨き続けていた………。
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