番狂わせ
喰うか喰われるか(タダ×ホシ)






「星野ー、ちょっと来てー」
「ん?」

代表合宿中での夕飯の一時、
星野は遠く離れたテーブルから呼ばれて席を立った。



「・・・・・・は?」
「だから、多田のこと部屋まで運んでやってよ」
「・・・・」
星野は聞き間違いかと思い聞き直したのだが、言葉に誤りがなかったようだ。

「何で俺が・・・」
「酔っぱらって寝ちゃったのをこのまんまにしとくのも可哀想だろ?」
「ちょっと待って、平賀さん・・・」
テーブルに俯した多田を指差す平賀を止めてそのテーブルに座る連中を見渡す。


「っつーか、何でこのテーブル酒飲んでんだよ!?」
「だって、練習後はビールだろって持田さんが・・・・」
「持田、お前・・・ッ」
小室がビクビクしながら答え、星野は持田を睨んだが当の本人はお構いなしにグラスを傾ける。

「代表としての自覚ないのかよ!」
「は?せっかく来てやってるのに何で俺が我慢しなきゃなんねぇの?」
「お前って奴はッ」
実力は確かなものなのだが、持田の上から目線で相変わらずの暴君ぶりに星野は苛ついた。

「まぁまぁ、星野すまんな」
「シロさん」
「持田・・・・部屋で飲めと言ったろ?」
「やーだね」
「うちの持田が迷惑かけて皆すまんな」
「いや・・・・」
城西が頭を下げるので星野は退かざるを得なかったが、腹の虫は収まらない。

「それで、コイツは調子に乗って酔い潰れてんのか?」
「代表初招集が嬉しかったみたいで」
「は?呼ばれただけでハメ外すようじゃ試合で使えねぇよな」
星野は呆れ、

「ま、俺がいるからどっちにしてもベンチだろうけどな」
ドヤ顔でフフンと笑った。

「分かんねーよ、そんなの」
「あ?」
「選手に怪我は付き物だから、いつ誰が試合に出れなくなるかなんて分かんねーよ」
「持田・・・・」
持田の脚を分かっている人間は、持田の言葉の重みを感じていた。

「練習中に不慮の事故だってあるしな?」
「ッ・・・!!」
「お前、怖ぇって!!!」
「持田が言うと意味が違って聞こえる」
目を見開いてニヤリと笑う持田に全員がゾッとした。

「じゃあ、多田のこと頼むな」
平賀は気を取り直して星野の肩を叩いた。

「別にこんなの若いのにやらせりゃいいじゃないっすか」
「せっかく力自慢が役立つ時なのにか?」
「は?何言ってんすか?人を筋肉馬鹿みたいな言い方しないで下さいよ」
「え?」
「え、って・・・え?」
「え?」
「・・・・はぁッ!!??」
平賀だけでなく周囲のきょとんとした反応に星野はキレる。

「何で俺が筋肉馬鹿扱いなんだよ!!」
「え?だって筋肉だし」
「馬鹿だし」
「笑顔がムカつくし」
「星野だし」
「〜〜〜〜ッ!!!!」
集中砲火を浴び、あまりの分の悪さに星野は込み上がってくる怒りを必死に抑えた。

「クソッ!!多田ッ!お前部屋何号室なんだよっ」
「ぅ・・・ん」
「鍵持ってんのかよ!?クソッ!!」
星野は多田を引っ張り起こし、背中に担いだ。

「よろしくなー」
「・・・・アイツって何だかんだ言っても面倒見いいよな」
「顔怖ぇけど」
「単純だから扱いやすいし」
「筋肉馬鹿だな」
うんうん、と一同は同意して歓談へと戻っていった。







「アイツ等は人をなんだと思ってんだよ」
星野は舌打ちをしながら部屋を目指す。

「コイツはアホだし」
気持ち良さそうに寝息を立てる後輩に溜め息が零れる。
代表に選ばれることは嬉しいことだと星野も分かっているが、まだポジションを譲るつもりは全くないので浮かれていることに腹が立つ。


「おら、部屋着いたぞ」
「んー・・・・」
星野は電気を点け、ベッドに多田を下ろして寝転がした。

「水飲むか?」
肩を回しながら歩き、冷蔵庫からペットボトルを取り出した。

「ほしのさん・・・・?」
「ったく、迷惑かけやがって」
虚ろな目をしているが、やっと多田が目を覚まし、星野はペットボトルを開けてゴクリと先に水を飲んだ。

「ちゃんと水飲んどけよ、酔っ払い」
「・・・・」
「起きて飲めよ、零す、だ、おいッ!?馬鹿ッ!!」
多田が手を伸ばしてきたのでペットボトルを差し出すと、強い力で引っ張られて星野はバランスを崩した。

「冷て・・・・星野さん、何やってんすか・・・」
「そりゃこっちの台詞だ」
星野は多田の上に覆い被さる体勢となり、当然水は零れ、多田の服とベッドを濡らした。

「・・・・何?・・・・俺、喰われるんすか?」
「あのなぁ・・・・んなわけねぇだろ」
多田は状況を判断したようで目をきょとんとさせた。

「この酔っ払いが・・・・うおっ!!??」
呆れながら身体を起こそうとした星野はビクリとした。
さすがキーパーとも言える多田の大きな手が星野の尻を掴んだからだ。

「俺、喰われるより喰いたいんすけど」
「は!?お、おいッ!!」
「やっぱ尻デカイっすね」
多田はニヤ〜としながら星野の尻を揉んだ。

「立ちバックが良かったんですが、騎乗位もいいっすね」
「お、まえは、何を言ってんだ!!この酔っ払いッ」
「いい眺め・・・」
「よ、よせッ!!!」
多田の指先が尻の割れ目を這う。

「前、触っていいっすか?」
「い・・・いいわけねぇだろ!!!」
「痛い痛い痛い痛いッ!!!」
多田は星野にアイアンクローをキメられて悲鳴を上げる。

「このまま寝ちまえッ!!」
星野は多田が手を離し大人しくなったので、ベッドを下りて荒々しく部屋を出て行った。


「ぅ・・・・いってぇ・・・・」
部屋に残された多田は涙目でこめかみを抑えた。

「あーぁ・・・・ポジションごと喰いてぇなぁ・・・・」
それはまだまだ叶わないと分かっているから多田は溜め息をつきながら、残り少ないペットボトルから水を飲んだ。









「おぅ、星野おかえり〜」
「早かったな」
「あ?早いって何がだよ」
ムスッとしたまま星野は戻ってきて、メンバーからの揶揄に更にムッとした。

「いや〜、星野が送り狼になってないかなーって心配してたんだよ」
「なるわけねぇだろ!!!」
「だよな〜!どっちかって言うと星野は喰われる方だもんな」
先程のことを思い出し、カッと顔が熱くなる。

「く、喰われるって何がだよ!!俺は何もされてねぇし、させてたまるかよ!!」
「喰うって、ポジション以外何かあるのか?」
「ッ・・・!!」
メンバー達はゲラゲラと笑う。

「星野がケツの心配してるぜ、おい?」
「どんな自意識過剰だよ」
「クソッ」
ムキになって墓穴を掘った。

「お前が心配すんのは練習中の事故くらいじゃね?」
「持田が言うと冗談に聞こえねぇから不思議だよな〜」
「笑い事じゃないッ!!!」

さすが日本代表正ゴールキーパー。
星野はメンバーにイジられてからかわれても、
さらりとかわすことが出来ず、正面から受け止めて、ぐぬぬと悔しがっていた。






13.07.28
××××××××××
五輪代表メンバーは攻めキャラが多い。

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