番狂わせ
ベテラン組の現実問題








「あーぁ、歳は取りたくねぇなー」
「何だよ?急にうるせぇな」
若手と一緒に騒いで楽しむ同い年の盛大な溜め息に堺は不愉快になる。


「ちょっと聞いてくれよ!」
「いい、聞きたくねぇ」
「そんなこと言うなよー!さーかーいぃー!!」
「だからうるせぇって!」
袖を掴んで甘える丹波に苛ついて、強めに手を払う。

「・・・・で、何だよ」
「うん、あのな」
鬱陶しがるのにちゃんと話を聞いてくれる堺に、思わず口元が緩くなってしまう。


「昨日俺さ、鏡見てたら白髪見つけてさー」
「ふぅん」
「何、ふぅんって?」
「だから?」
「は!?白髪だよ?し・ら・が!一気に気持ちが老け込んだよー」
「別に珍しいもんじゃねぇだろ?」
「え?何?この気持ちって堺には伝わらない系?」
「はぁ・・・」
冷ややかな反応の堺に丹波は焦り、
堺は相手にして損をしたと呆れた。


「俺は昔から若白髪あったから何とも思わねぇよ」
「何?堺って普通に白髪あんの?」
「触んなッ」
確認しようとした丹波を今度は触れさせまいと手で追い払う。

「そっかー、だから金髪とか明るい髪色にして目立たないようにしてんのかー」
「別にッ!これはそんな理由じゃねぇよッ!!」
「ははは!堺が白髪気にしてるー!」
堺の怒声は図星の証拠。


「何?お前等白髪で盛り上がってんの?」
「あは♪ドリさん」
丹波の笑い声に釣られて緑川が会話に首を突っ込んできた。

「だって、堺が・・・・ぷぷ」
「だから違うっつってるだろ!!大体、お前はたかが白髪でギャーギャー騒ぐなよッ」
緑川の前でまだ笑う丹波に堺は更に苛つき、取って掛かろうとした。

「いや・・・・堺、白髪を甘く見るなよ」
「え」「へ?」
緑川は重々しい声色で、堺と丹波はピタリと動きを止めた。


「まぁ、確かに髪の白髪なんて大したもんじゃないけどな・・・・」
「・・・・」
次に紡がれる言葉に息を飲む。

「眉毛や髭にも生えてるのを見ると結構落ち込むよ」
「うわぁ・・・」
思わず丹波は自分の顎に触れて髭の剃り跡を確かめてしまった。

「ただ、それよりもっと落ち込む毛があるけどな」
「え・・・・」
「ま、まさか」
「そう」
緑川はフフッと笑う。


「下の毛に白髪を見つけた時は、いよいよ打ち止めかって思ったね」
「は、はは・・・・ドリさん、それは笑えないっすね」
遠い目をして溜め息をつく緑川に、丹波は引きつった笑いが出た。

「・・・・」
「おい、堺お前・・・・トイレ行って確認しようとか考えてんじゃないだろうな!?」
「はぁ!?考えてねぇしッ!!」
静かに聞いていた堺に突っ込むと、これまたムキになったので図星を突かれたようだ。


「甘いな、お前達」
「後藤さん」
緑川より遠い目をした後藤が話しに割り込んできた。

「打ち止めって言ったらな」
ふぅ、と大きく息を吐き出す。

「朝勃ちしなくなったら、いよいよかって思うよ・・・・」
「ッ・・・!!」
後藤の自嘲気味に発せられた言葉に一同は絶句した。


「あ、いや・・・・それは後藤さんがいつも疲れ果ててるからじゃ?」
あまりに重い空気を変えようと丹波が先陣を切る。

「食事と睡眠がまともじゃないからだよ、あんたは」
「そういうこと考える余裕もないでしょ?今は」
「うーん・・・・まぁ・・・・」
3人のフォローに後藤は急に照れくさくなった。

「あの監督の尻拭い、大変そうだもんなー」
「自由奔放にも限度があるだろ」
「まぁでも、達海さんは選手の頃からあんな感じだし」
「ガキのまんまってことっすね」
「誰がガキだって?」
「「ッ!!!!」」
声の方にガバッと向くと、そこにはアイスを咥えた達海が立っていた。


「何?俺の悪口?」
「チッ・・・」
面と向かって言いたいことをきっぱり言う堺だからこそ、陰口のような形になったことにバツが悪く舌打ちをした。

「あ、いや、」
「後藤さんの打ち止めの話ですよ」
「お、おいッ」
丹波は口を濁していたのに緑川がさらりと告げるので後藤は焦る。

「え?何?後藤ってもう男終わったの?」
「お、終わってないぞ!!ただ、朝勃ちしなくなったってだけで」
「へー、後藤って朝勃ちしないんだー」
「おいッ」
ふぅんと言いながらその場を去る達海を後藤は追った。


「お前はまだするのか?」
「あのさぁ・・・・修学旅行の夜みたいな話を40のオッサンがするの止めない?」
「俺はまだ39だッ!!」
「変わんないじゃん」
「大きな差だ!!」
達海はあまり後藤を相手にせず、しゃりしゃりとアイスを食べ進めていた。

「で、達海はどうなんだよ?」
「ちょっと後藤さーん!!達海さんの尻を追いかけてる暇があるなら電話番しててー」
「有里ちゃん、それ酷い・・・・」
ドキドキとしていた後藤は、有里の容赦ない一言に打ちのめされた。

「後藤」
「んー?」
がっくりと肩を落として事務所へ向かう後藤を呼び止めた。

「冷凍庫にパピコもう一個あるから食っていあよ」
「・・・・あぁ・・・」
達海なりに責任を感じて罪滅ぼしのつもりだったが、後藤にそれが届いているかは分からなかった。


「あいつ、鈍感だもんなー・・・・」
重く溜め息を零した。







「堺!トイレ行こう!トイレ!!」
「行かねぇよ!」
「白髪確認しようぜッ」
「待て!俺はまだ、」
心の準備が出来ていない堺は、丹波に引きずられるようにトイレへ連行された。







13.06.23
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ベテラン組愛♪



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あきゅろす。
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