戦国
鴉の還る場所(黒幸+佐)








「─────佐助か」


「ただいま、旦那」



薄暗い月明かりが射し込む部屋で幸村は従者の名を呼んだ。




「ご苦労だった………どうであった?」

「ちゃんと書簡は渡してきたよ……」

「…………どうした?」



主君は少しの違和感も見落とさない。


肩を落としたようなので問いかける。




「ん〜………右目の旦那に見つかっちゃってね……返事を貰う余裕がなかったよ」

「そうか………政宗殿にはお会い出来たのか?」

「ん〜……顔は合わせられたかな………ごめんね旦那……返事は向こうからの使者を待ってね」

「構わぬよ………届けてくれただけでも…………」

「旦那?」



幸村は突然眉を寄せて苦い顔をした。



「お主…………」



この忍は隠しているのだろうが、鼻につく微かな鉄のような香り



「…………脇腹か?」

「…………ハァ〜……旦那の嗅覚は侮れないなぁ」



気付かれたら誤魔化すつもりでいたが、部位まで指摘されて観念したようだ。



「右目の旦那にね………油断しちゃってたかなぁ〜俺様」

「………見せてみよ」

「ははは〜、皮一枚だからどってことないって」

「服を脱げ」

「いや、本当に大したことないから」



幸村の視線は佐助が抑えた脇腹に釘付けだ。



「脱げ」

「駄目だよ!忍が人前で肌を晒すのは死を意味するの!」

「煩い!主の命を聞け!」

「それって狡い!!」



装束を掴む手と、その手を掴む手の攻防が始まった。


「佐助!」

「平気だから見なくていいの!」

「某の不安が拭えぬ!」



悲しそうな主の顔に従者の抵抗は薄れてしまう。



「本当に大丈夫なんだからね………」




佐助は渋々と片袖を抜いて半身の肌を晒した。


装束の中の服は上下繋がっているため腹だけを出せないのだ。



「ね……皮一枚でしょ」



陽を嫌う忍の白い肌に赤い一文字……



深いとはいえないが、掠り傷とも言えない。


ちゃんと止血されていたが、いつ鮮血が流れるか分からなかった。



「佐助………」

「大丈夫だって………」


幸村はそっと傷には当たらぬように肌に触れた。



熱い………




「今日は休め………」

「は!?旦那何言ってんの!俺様仕事が残ってるって!」

「後は才蔵達に任せてお主は休め」

「ちょっと」

「某の言葉は絶対だ!才蔵!ここへ!」

「────お側に」



佐助の背後にスッと才蔵は現れて片膝を畳についた。


「聞いておった通り……今宵は佐助抜きで頼んだぞ」

「はっ!」

「ちょ、旦那!」


「────頭………幸村様のお世話も仕事ですよ───」



才蔵は耳打ちして姿を消していった。



「はぁ〜………もぅ旦那は一点張りだもんなぁ……」

「………遣いに出したのは某だ………何かあっては悔やんで仕方ない」

「………ごめんね」




幸村はそっと佐助を抱き締めて肩口に顔を埋めた。


己の失態を自分のせいだと責める主の背を、子供をあやすように擦ってやった。









忍の体は細い……



上背があるため余計に肢体の細さが際立つ。



薄目を開ければ白い肌………


ひんやりと冷たいので雪を連想してしまう。









───これは某の物だ……───





某の忍と知っている片倉殿が斬りかかるぐらいだ……


既に佐助が政宗殿を慕っているのはご存知のことだろう………



そして、政宗殿も佐助を………



だからといって刃を向けるとは………

まぁ、佐助が惚けておった故の傷であろうが………










けれど政宗殿………


貴殿はこの肌を知ることは叶うまい。






「佐助…………某はお主を失いたくはないぞ」

「旦那は心配性だなぁ〜……大丈夫だよ、側にいるからね」






そう、お前は某の物。



心は何処かへ浮こうとも、必ず戻るは某の下。



いくら焦がれ合ってもお前の居場所はここなのだ………




「佐助、今宵は一緒に寝よう」

「あはは〜、旦那の甘えん坊さん………もう好きにしなさい!」








この白い肌は誰にも渡さない────










××××××××××××××
歪んだ愛??

腹黒い幸村になりましたが、真田主従は好きなのです。

政宗の好敵手だからこんな優越感に浸るのもありかと……

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あきゅろす。
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