戦国
耳元に囁きA(*政+小)
※続いてます。










「失礼します────」



小十郎は膝をついて襖を開けた。



「政宗様、仕事は捗っていますか?」

「Ah〜……生憎順調だぜ」



机に向かう政宗は苦笑いした。




「それは何よりで……お茶をお持ちしました」

「丁度一息入れたいとこだった……流石だな小十郎」

「いえ……」




小十郎は釣られて笑みを向けて、湯飲みと茶菓子の乗った盆を持ち奥に歩んだ。





「こちらに置きますよ」

「Thanks……」




小十郎は机の端に盆を置き、机上に積み上がる書簡の量にまた笑みが溢れた。




「毎回これだけ進めていただければ良いのに……」

「今日は暇だったからたまたまだ」





小十郎と対称的に政宗はうんざりした顔だった。






「……なぁ……小十郎よ……」

「はい」




政宗は湯飲みに目を落としながらそっと名を呼んだ。




「……小十郎………」

「政宗様?」




伏せ目がちのまま次の言葉をなかなか紡ごうとしなかった。





「……闇………」




小さく呟かれた言葉に小十郎はドキッとした。






「……闇に飲まれたか……」





『小十郎────』






先程まで己の名前は耳元に囁かれていたのに、今は目の前から聞こえ白昼夢の心地に感じられた。







「………まさかお前がな……」





政宗は口端を上げたが、視線は湯飲みから外れることはなかった。




「何を……」





小十郎は突然の言葉に生唾を飲み込んだ。





「………気を付けろよ……闇は深いぜ……」

「政宗様、何を仰っているのか」

「ククッ………」




政宗は目を上げて小十郎の視線に交わらせた。





「俺が気付かないとでも思ったのか?」

「っ………」



小十郎は政宗の表情から当てずっぽうの発言ではないことに気付き、口を閉ざした。





「香りだ………」





政宗は湯飲みを手に取り、薄緑の面を見下ろした。




「……俺の香をまとって来やがるからな……」




確かにあの時鼻を掠めた香りに政宗との違和感はなかった。






「存在の証を何も残さないためにか……もしくは………」







コトンッ────






湯飲みが机に置かれる音が響いた。






「自分の香りで一人炊きつくように………か」







香りから色事を思い出すように……


性欲に火がつくように……


忘れられないように……



自分の香りからは離れられない………








これは仕掛けられた罠なのか────







「………」




(政宗様は一人で身を焦がす思いをしているのだろうか……奴を想っているのだろうか……)




小十郎は政宗の告白に眉を寄せた。





「……俺に会いに来たのを帰したか?」

「頻繁に一介の忍に会われる必要はないので……」

「ククッ……だとしても自分の身を差し出すとはな……」




政宗は立ち上がり窓辺に近付き、小十郎に背を向けた。






「お前の気持ちは知らないが……闇に足を掬われるなよ……」

「ッ……」




小十郎は誤解だと言葉を発しそうになったが、寸でのところで言葉を飲み込んだ。





「いいな?……小十郎……」






『───小十郎……』









貴方の声が名を呼んだから……


貴方の香りが身を包んだから……


貴方を想っているから……





貴方に抱かれたいと望んでいるから───







「………失礼します……」



小十郎は冷静な声を振り絞り部屋を後にした。






「くっ………」





小十郎は膝の上に置いた拳を強く握り締めた。



(政宗様───ッ)





叫びそうな気持ちを抑えようとしたが、体が震えて嗚咽が漏れた。













──────

「小十郎がな…………」




政宗は窓の外を眺め、木々のざわめきを静かに聞いていた。





「ククッ……双竜を崩すとはやるじゃねぇか……」





窓から風が吹き込んだ。





仄かな香りが鼻を掠める。




「佐助─────」





政宗は己を抱き締めた。













×××××××××××××××
また悲恋になってしまった〜!
こんな小説でもいいですか?

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