戦国
伝わらない想い(政+幸+佐)
「────忍か──」
「ご名答〜……起こしちゃった?」
草木も眠る刻、夕焼け色の頭髪をした忍は、物音立てずに竜の寝所に現れた。
「こんな簡単に忍の侵入を許すなんざ、うちの者は弛んでるな……」
「ははは〜、俺様常連だから♪」
「で?」
政宗は布団から体をお越し、佐助に向かって手を出した。
「はい」
いつも忍がやって来る理由は、その主からの手紙を渡すため。
何度となく行われている手紙の手渡しをし、佐助は蝋燭に明かりを灯した。
「……ククッ……」
「………何?うちの旦那、可笑しいこと書いてるの?」
「いや………あいつは俺とお前、どっちに想いを寄せてるんだろうな……」
「そんなの竜の旦那に決まってるじゃん」
「フッ………返事を書くから待ってな」
流石に主の文を読むわけにはいかない佐助は、何が書かれているのかも、政宗の笑みの意味も分からなかった。
コトッ────
筆を置く音がして佐助は政宗に目を向けた。
「終わったぜ」
「うん………」
佐助は政宗に近寄り、そっと細い体を抱き締めた。
墨が乾くまで………
始まりは暇潰しと好奇心から……
二人はその僅かな時間に肌を合わせるようになっていた。
けれど、それは甘い睦言などない欲を吐き出すだけの行為だった。
──────
「…………それじゃお手紙預かりました」
「あぁ……」
佐助は身支度を整え、懐に書簡を仕舞った。
「……また……来いよ………」
「きっと旦那はまた手紙書くだろうからねぇ〜……忍を飛脚と間違えてないかなぁ」
もぉ〜、と愚痴が溢れてしまった。
「俺は……幸村よりお前が好きだぜ」
政宗は裸のまま布団に横たわり、顔だけ佐助に向けた。
(───嘘つき)
「だからまた来いよ」
(知ってるよ……待っているのは、自由に会いに来れない旦那の恋文を携えて、旦那の香りを纏った俺……)
「うん………」
佐助は態度にも言葉にも表さずに竜の寝所を後にした。
───────
「佐助?」
「ただいま〜、旦那寝てなかったの?」
次の晩、幸村は布団の上で膝を抱えて座っていた。
「某……佐助が近くに居らぬと不安で眠れぬのだ……」
「ははは〜遣いに出したのは旦那でしょうが」
垂れている犬の耳が見えそうな位、幸村は肩を落としていた。
「ほら……竜の旦那から」
「かたじけない」
佐助が手紙を差し出すと目の色が変わった。
(本当に分かりやすい……不安なのは、想い人と俺様が何をしているか知ることが出来ないから……)
「………佐助、ご苦労だった」
「いえいえ……じゃ、旦那は早く寝なさいよ」
「佐助も一緒に寝ようぞ!」
「はぁ?」
装束を掴まれて立ち去ることは拒まれた。
「佐助が側に居ると落ち着くのだ………」
「仕方ないなぁ〜……」
(知ってるよ………俺に残る香りが恋しいんでしょ……)
「佐助………政宗殿はお主に好意を寄せているのだろうか?」
「は?」
「某………佐助が奥州から戻って来ないのでは……と不安になるのだ」
「はぃ!?」
佐助は予想していなかった言葉に声が裏返ってしまった。
「政宗殿はお主に会いたいからまた文をくれと書いておられるのだ……」
「いや、それは」
「某は例え政宗殿の望みであってもお主を手放す気はないぞ!」
幸村は佐助をぎゅっと抱き締めた。
「あぁ〜……旦那も文に俺様のことを書くでしょ?」
「無論」
佐助は背中を撫でて落ち着かせるように囁いた。
「竜の旦那はさ、旦那が俺様のことを書くから妬いてるんだよ……」
「そうなのか……?」
「だから意地悪をしてるだけだよ……」
「なれば良かった……」
「ほらほら、もう寝なさいよ」
佐助は幸村を寝床へ促した。
「次の文は気を付けねばな……こんな心配はしたくない……」
「え………」
『───あいつは俺とお前のどっちに想いを寄せているんだろうな──』
竜の言葉が脳裏に浮かび、佐助は心臓がドクンと躍った。
「某は……政宗殿よりお主が大事なんだ…」
幸村は枕元に座った佐助の手を握った。
「………おやすみ……旦那………」
「眠るまで側にいてくれ………」
佐助は心の動揺は態度にも声にも出さない。
────
(竜の旦那………あの時の笑みは………)
佐助は屋根の上で自己嫌悪に陥っていた。
既に幸村の気持ちを知っているのに出した問い掛け。
それに間抜けな答えをした。
自分を好きだと言った言葉にも、逃避の意味があったのかもしれない………
(……気付かなかったとはいえ……)
「もっと優しく抱きたかった………」
政宗は幸村に想いを寄せて、叶わない気持ちを埋めるために佐助に抱かれる………
佐助は二人が上手くいくように自分の想いは塞ぎ込んでいた。
幸村は佐助を慕い、政宗の言動に過敏になり余計佐助を独占したくなる。
それぞれが違う方を向いていて報われない。
「竜の旦那………会いたいよ……」
佐助は星空を見上げた。
××××××××××××××
この3人は大好き!
…………なのに悲恋になっちゃった(汗)
政→幸→佐→…の矢印は←バージョンでもいいかもなぁ〜
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