ライン(ダイ⇔嬢)
「…ねぇ」
ふわり、
彼の笑顔にはきっとそんな形容詞が似合う。
柔らかなその笑顔を向けられて、心持ちどきどきしながらもなんですかと応じると彼は、ううん呼んでみただけだよと言ってまたふわりと微笑んだ。
そういえば彼は私の名前を知らないんだとふと思い出して苦笑する。
問いだそうとはしない彼だから、今更ちゃんと名乗るのも気が引けてしまってなんとなくそのままでいたのは多分、曖昧な存在でいるのに慣れてしまっているからかもしれないと、そう思えて目を閉じた。
いずれ離れなければいけないひとなのだから。
心の何処かできっとそんなふうに線を引いて彼への思いをごまかし続けていたのは、ここは永くいられる場所ではないと初めからわかっていたからで。
ああだから、
(貴方の隣は、こんなにも近くてこんなにも遠い)
当たり前のように隣にいてくれるいとしいひとに返せるものなんて何ひとつないのに、思いばかりが募っていくのに、彼の隣にいられる時間は短くなっているのにどうしてこの線は無くなってくれないのだろう。
こんなに近くにいるのに、私は怖がりで。
こんな微かな線の上に足を踏み出す勇気さえなくて、ましてや飛び越えるだなんてことはとても出来そうになくて。
ふわり、
「…どうしたの?」
てのひらに温もりを感じてはっと我に返ると、心配そうな彼の顔が私を覗きこんでいるのに気付いた。
「泣いてるの?」
首を横に振る。
重ねられた彼のてのひらをほんの少しだけ握りかえして大丈夫と笑ってみせようとしたけれど。
いびつに歪んだ笑顔はひとしずくの涙を落として脆く崩れていく。
とめどなく溢れ落ちる雫はあまりにも透明で、どうしようそんなに流れないでこのひとが、彼がほら哀しそうな顔をしているのお願い溢れないで。
ふわり、
彼が微笑う。
「きみが」
きみがなくならかわりにわらっていてあげる。
指先を柔らかく絡めて引き寄せられると相変わらず彼の腕の中は温かくて、だからこんなにも泣けてしまうのだろうか。
(もう少し、)
(もう少し、このまま)
どうか叶うのならねえ神様、私のこえが聞こえているならどうか、どうかお願いします。
もう少し、あと少しだけこの柔らかな笑顔の傍にいたい。
幼稚だとお笑いになりますか?
拙いとお思いになりますか?
ああこんな、子供染みた戯れさえいとしくて涙がこぼれおちてしまうなら。
(すきになりたくなかった)
END?
ふわり、
それなのに貴方はいとも簡単にその線をすり抜けて私の心に触れようとするから。
ああほら懲りもせず
また、貴方をすきになる。
*true end*
***
イメージは、ポルノグラフィティの『ライン』という曲です。
切なくて大好き。
なんだかダイ→←嬢な感じ。
失恋の曲っぽいけどさ。
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