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初雪が降るまでに
誰もいない寒空の下で男が一人、下駄を鳴らして歩いていた。
カラン、カランとよく響く。
男は右手に包みをさげ、ふらふらと歩いていた。行き先があるから彼は歩くのだ。
もしないなら、一歩も踏み出せやしない。
カラン、カラン。
男は足を止めた。
目の前には太く大きな木がそびえ立っていた。
葉は一つもないが、立派な木だった。
男は包みを広げ、木の根元に和菓子や酒を供えて、そっと手を合わせた。
雪が降り始めた。白い綿帽子は暗い夜によく映える。
男はそれに気付くと、ゆっくりと空を見上げた。そして、小さく微笑った。
「今年は俺の勝ちだ」
カランカラン。
初雪が降るまでに。
あの日交わした最後の約束。
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文芸部にて提出作品
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