最後のわがままです、 3 パチリ。唐突に目が覚めた。いや、意識していなかっただけで、ずっと目は開いていたのかもしれない。 周りを見渡すと、部屋でも、かといって見慣れた外の風景でもない。薄暗く、少しだけ土の香りがする、何もない殺風景な場所に寝転がっていた。 「……夢?」 いつどのように着いたか全くわからないが、家に帰り寝ていたようだ。家と学校以外で寝ることはできない。ここは遠い昔に、祖母が言っていた、夢殿なる場所だろう。夢殿には、寝ているときにしか入れない。夢と現が交わる場所。 頭の上から──正確には上を向いている方だ──人の気配が僅かにする。すると、ザリと土を踏む音。よいしょ、と起き上がり音のしたほうへ身体ごと向く。 「おや、こんな所に珍しい」 古い、いつか国語の教科書で見た、平安時代の貴族のような格好をした男前が立っていた。驚いたような台詞だが、その表情と声は、ここに自分が居たことを知っていたのだろう、少しも驚いていなかった。彼のことを知らないから、断定は不可能だが…。 「…なに、ここ夢殿じゃないの?」 昔は夢に好きな人が出てくる、なんて言っていたが、もし仮に、それが本当だとして、狩衣と呼ばれる物を着ている人など周りに居ないし、そもそもこんなに鮮明にわかるものなのか。ここは夢殿ではないのだろうか? 「いや、ここは夢殿だ」 [*前へ][次へ#] [戻る] |