最後のわがままです、 2 「悪い、急いでレポート提出しなきゃいけなくなった!」 ガヤガヤと人の犇めく、駅前の公園にある噴水の縁に座り、一人の男が携帯を耳に当てていた。 「そう、頑張って」 少し強ばった顔のまま、ただ声だけはいつも通りに発した。それも若干揺れていたが、機械越しで気付けたかどうかは怪しい、というか、恐らく気にしてもいないだろう。 (──ああ、痛い) 彼を嫉妬や独占欲で縛り付けないように、演じる“いい子”。それは彼にとって、都合のいい相手となっているのだろう。このままを望むのか、と問われれば答えはもちろん、否だ。自分を見てほしい、自分以外を見ないでほしい。心ではそう思い続けている。しかし、彼は今のままが、一番生き生きとできるのだ。 彼のどこが好きか。それはかっこいいところだとか、綺麗な笑顔だとか、色々あるが、一番は生き生きと、人生を楽しんでいるところだと思う。自分のせいで一番好きな彼の長所が損なわれるのはいただけない。ならば、この次々と沸き上がるこの欲望を抑えつけるくらい、なんてことないのだ。例え、心が痛み、血を流していても。 「ああ、痛い」 [*前へ][次へ#] [戻る] |