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夢草紙
まだ、その時じゃない。
※短いです
※女審神者出没(名前固定→琥珀)
※歌仙さんがヤンデレというほどではありませんが、微病み。



琥珀は、まだまだ未熟者の新米審神者である。一、二ヶ月ほど前に審神者の任に就き、まだ短い期間ではあるが、初期刀の加州清光や他、僅かな刀剣男士たちと共に、歴史改変阻止に励んでいる。出陣を重ねるごとに、刀剣男士は増えていき、着実に本丸は賑わって行っていた。
しかし。
彼女には、悩みがあった。それにより、自分の才能不足さえ疑った。なぜならば。
「歌仙兼定さんは、いつになったら来てくださるのでしょう……」
それは、比較的普通に顕現させることが出来るはずの、歌仙兼定を一向に顕現させることができない、というものだった。レア太刀も、大太刀や槍、薙刀もすでにこの本丸には揃っている。それだというのに、歌仙兼定がこの本丸に顕現する様子は一向にない。
ーーなぜ。なぜなの。
審神者は、悩んで悩んで、次第に、あまりに来ない歌仙兼定への執着心を持ち始めていた。
何回も何回も鍛刀して。ーー資材が足りなくなるのは危ないから、少なめのレシピで回す。一時間半は出る。それでも、歌仙兼定は現れない。
幾度となく出陣もした。それによって部隊の錬度がカンストしても、彼が現れる事はなかった。

審神者は今日も出陣する。
未だ来ぬ一振りを顕現させるために。

「……まっててね」







「……なあ、そろそろ出てってやらねぇと、可哀想じゃあねえか?」
呆れたように言う和泉守に、歌仙兼定は、いつも通りの飄々とした態度を保っている。
「……まだだよ」
ぼそりと呟かれた言葉は、和泉守には届かなかったらしく、「?二代目、今なんか言ったかー?」と聞かれる。歌仙は、「いや、何でもないよ」と素知らぬふりをした。
この歌仙と和泉守は、それぞれの刀の本霊である。彼らから生み出された分霊が、刀剣男士として、様々な本丸へと送られていくのだ。
そしてまた、琥珀の本丸に歌仙兼定が一向に現れないのも、この本霊が操っているからだった。
しかし、本来ならばそういった行為はご法度であり、それが知れれば、本人の身も危うい。それを承知で歌仙は、彼女の本丸に自分の分霊を寄越さない。
ーーなぜならば。

「……今はまだ、その時じゃない」
ぼそりと、つぶやく。
「もっともっと執着させて依存させて」
次第に口角が上がっていくのが、自分でもわかった。和泉守兼定は、変わらぬ呆れ顔で歌仙を見遣った。けれど、それだけだ。何も口出しはしない。
「僕の手の中に堕ちてくればいい……!あっはははははは!実に愉快だなあ!僕が現れないだけで、彼女はどんどん僕に執着していく!」
こみ上げてくる愉悦感。いずれ彼女は、自分のものとなる。
自分は、ひたすら待つのみだ。

そんな歌仙を横目に見ながら、和泉守は、面識もないその少女に、わずかばかりの憐憫を向けた。


[*進軍]

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