夢草紙 三日月宗近と花見 ※短いです ※オリジナル刀剣女士います ※三日月と小狐丸しか出てきません 「海老名に花見に誘われた!」 春の陽気が心地よくなってきた四月始め。本丸を包んでいたほのぼのとした空気は、三日月宗近の大声によって掻き消された。 「やかましいぞ、三日月……。迷惑だ、静かにせんか」 小狐丸が、髪に覆い隠された耳を手で塞ぎながらそう言うも、三日月が落ち着く様子はない。それどころか、頬を紅潮させると、小狐丸の肩を掴んで、先ほどと変わらぬ大声で言った。 「海老名がっ、海老名がな!俺に、俺に、共に花見をせぬかと!」 「やかましいと言うておるに……」 三日月をようやっと引き剥がしながら、呆れたように小狐丸は言い放つ。 「共に花見と言うてもなあ……。他の奴らも共に、という意味であるかもしれんじゃろうが」 「そんなことはないぞ、小狐丸!」 恐らく、の予測を述べても、それでも尚三日月は瞳を輝かせたまま小狐丸をじいっと見ている。 「きちんと確かめたからな!二人きりであるか、と!」 そんなことを聞けばただの変人ではないか、という言葉を飲み込んで、ため息を吐いた。そもそも、そうであるのならば、自分にそれを言ってきた理由は何なのだ、と思ったが、少し考えれば、ああ、ただの自慢か、と合点がいった。 「ああ、今から楽しみだ……!」 海老名は自分にとっても大事な妹だ。それを独り占めしようと言うのだから、嫌味のひとつでも言ってやろうかと思ったが、そのいかにも楽しみだという表情を見て、何も言えなくなった。 「……せいぜい、楽しんでくるといい」 散々悩んだ末、小狐丸の口を突いて出た言葉は、弟刀を激励するものだった。 ーーその数日後。 本丸の近くの桜並木の付近の芝生で、楽しそうに語らう男女の姿が見られたという。 [*進軍][後退#] |