[携帯モード] [URL送信]

夢草紙
恋のお邪魔虫
琥珀藤四郎は、最年少の刀剣“女士”である。和泉守兼定と同年に粟田口吉光の子孫によって作られた、粟田口派の短刀だ。
人の姿を得た今は、本丸の紅一点と呼べる美少女の姿で、他の刀剣たちと共に戦場へと赴いている。ちなみに言うと、琥珀が少女の風体をしている理由は、本人曰く、彼女が女たちに望まれて作られた刀の為、女として望まれる要素のすべてがその身に含まれているのだそうだ。だからかどうかは謎だが、琥珀は誰もが羨む美貌と剣技の腕を持ち、事務仕事も完璧にこなすその才能には、“あの”へし切り長谷部でさえもが息を飲んだほどだ。
・・・さて、前置きはここまでにして、そろそろ本題に入らせてもらおう。まず、言い忘れていたが、俺の名前は鶴丸国永。レア4太刀の内の一振りにも数えられていて、ドロップ率も顕現率も他の刀剣たちと比べて低めの、いわゆるレア刀、ってやつだ!自慢じゃあないが、戦ってもかなり強いし、見目だって、他の刀剣男士たちにも負けず劣らずの男前なんだぜ?・・・ああ、誤解しないでくれ。別に、自慢をしたい訳じゃないからな。
・・・単刀直入に言うと、俺はどうやら、琥珀藤四郎に恋、とやらをしているらしい。どうだ、驚きだろう?そうなんだ、自分でも驚いているんだよ。“人間の姿を手に入れた、っつうだけで、こんなにも人のような感情を抱くようになるもんなのか”・・・ってな。抑えようとは、我慢しようとは、思った。俺も彼女も、日常的に死と隣り合わせの生活を送っているから、いつどっちが死んでもおかしくない状況下にいるからな。迷惑になるんじゃあないかと、思った。でも、止まらなかった。溢れる想いを制御しきれなかった。
そしてある日、俺はとうとう伝えてしまったんだ。彼女に、この溢れんばかりの気持ちを。
「好きだ」
俺がそう言うと彼女は、少し戸惑ったような表情をした後、にこりと笑って、
「ありがとうございます。私も、鶴丸さんのこと、大好きですよ」
違う。そうじゃないんだ。そういう意味じゃなくて・・・・・・っ。
俺の“好き”と彼女の“好き”は、意味があまりにも違いすぎて、なんだか悔しくなって、気づいたときにはもう、声を荒げてしまっていた。
「違う、違うっ!」
「鶴丸さん・・・?」
嗚呼、まるで駄々っ子のようだなあ。ほしいものが手に入らなくて泣き叫ぶ、小さな小さな子供のようだ。
「俺は・・・・・・・・・っ」
早く。早く言えよ、俺。このまま、臆病者のままで終わっていいのか?そんなわけがないだろうに。
「俺はっ、恋愛的な意味で君が好きなんだ。琥珀っ」
「へ・・・・・・。・・・って、えええっ!?」
ここは畑。そして今は、内番の真っ最中だ。本丸の広い畑に、琥珀の声が響いたと同時ぐらいに、先の俺の声を聞いて、何事かと思ったのだろう左文字兄弟と堀川兄弟、それと伊達刀の二振りと、よく琥珀と話している姿を見かける大太刀兄弟が畑に集まった。奴らは、俺たちを見ると一瞬固まって、その後は各々がそれぞれ個性的な反応を返してくれた。笑い出す者、よくやった、となぜか賛辞を寄越す者、ショックを受けたように落ち込む者・・・。それぞれが三者三様の反応を見せてくれて、まるで百面相のようだなあと思いながら琥珀の方を見ると、美しくてかわいらしい顔が、まるで熟しきったイチゴのように真っ赤に染まっていた。
「あの・・・、私・・・っ」
特に意味を成さない言葉を羅列して、彼女の顔はだんだん赤く染まっていく。
「わ、私も・・・・・・っ、私も、好きです・・・」
その返事に、今度は俺が目を見開いて顔を真っ赤にする番だった。
「ほ、本当か・・・?」
「こんな時に嘘なんてつきませんよ・・・・・・」
「・・・じゃ、じゃあ、両思い・・・ってことでいいのか?」
尋ねると琥珀は、何回も言わせないでください、と言って真っ赤な顔のまま俯いた。
「じゃあ・・・・・・今から、恋人同士ってことで、いいのか・・・?」
「・・・・・・・・・・・・はい」
少しの間をおいて、琥珀は小さくうなずいた。ぱああっと自分の顔が見る見る内に明るくなっていくのが、わかった。
「よっしゃあ!ありがとな琥珀、大好き・・・イヤ、愛してるぜ!」
がばりと抱きつくと、今度は耳まで真っ赤にして、俺の胸に顔を埋めてきた。ああもう、本当にかわいらしい。
琥珀、琥珀。俺の大事な琥珀。ずっとずっと大事にするからな。百年先も、千年先も、ずっとずっと愛してる。誓ってやるさ。この鶴丸国永の名にかけて、な。
ああ、こんな台詞を言っていては、まるで獅子王のようだなあとのんきに考える。
ああ、哀れだ。このときの俺は、まだ何にも気づいてはいなかった。それこそ、一種の恋愛物語のような、言うなればふつうに考えれば起こり得ないような事態に陥れられていくことに。
ああ、かわいそうになあ。何にも知らない無知な俺。琥珀が誰にも取られるわけがないなどと軽く考えて、何にもしていなかった。拒否されることのつらさを、まさかこの身で体験することになろうとは予想すらしていなかったのだから。


プロローグ・END
TO BE CONTENEWD・・・


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!