小説 3
星の中で歌わせて・7 (完結)
「Fly Me To The Moon」は、オレたちの定番中の定番だった。客から特にリクエストがなけりゃ、1曲目はいつもコレだ。
楽譜がぶっ飛んでも指が覚えてそうなモンだけど、いつもより強めに鍵盤を叩いてたせいで、勘が働かねぇ。
歌に入る直前のメロディはどうだった?
ヤベェって思えば思う程、何も考えらんなくなって、指の動きが遅くなる。
くそっ、と思った時――。
Fly me to the moon
Let me play among the stars
Let me see what spring is like
On a-Jupiter and Mars
Fill my heart with song
And let me sing for ever more
You are all I long for
All I worship and adore
In other words, please be true
In other words, I love you
その後は平穏に1時間が過ぎた。2曲目は「Night and Day」、3曲目は「A Night In Tunisia」、4曲目は客からのリクエストで、「When You Wish Upon a Star」。偶然だろうけど、星とか夜とかばっかだな。
いつもよりちょっと盛大な拍手を貰って、RENと一緒に控室に下がる。
ドアをパタンと閉めた途端、一気にドッと気が抜けて、情けねぇけど足元がよろけた。
「うお、だ、大丈、夫?」
RENにぐいっと支えられ、「ああ……」って返事して苦笑する。
「助かった。ごめん、あんがとな」
オレの謝罪にRENは一瞬首を傾げ、それから思い出したようにうなずいた。