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小説 3
この恋は病んでいる・SideA
 どことも繋がってねェケータイを耳に当て、榛名と通話するフリしながら、三橋を残して部屋を出た。
 タイマーのアラームが絶妙のタイミングで鳴ってくれて、我ながらスゲー気分イイ。
 三橋も榛名からの電話だって、疑ってねーだろう。マナーモードにしときゃ、着信だろうがアラームだろうが、振動音で区別なんかつかねーもんな。
 三橋は今、どうしてんだろう?
 暗い笑みを浮かべながら、部屋の外で時間を潰す。
 榛名を使ってさんざん煽ったし、そろそろキレてもいい頃だよな。
 この日のために随分前から準備してたってコト、純粋なアイツが気付いてるハズもねェ。
 毎日毎日、少しずつ疑念の種を植え込んでくのは、かなり根気のいる作業だ。けど、三橋を手に入れるなら、そんなん全く苦じゃなかった。

 好きだって言わせても、唇を奪っても、体を繋げても、まだ足りねェと思うオレは、相当イカレてるんだろう。
 大事にしてぇと思う反面、ぐちゃぐちゃに泣かせてぇとも思ってしまう。
 笑顔も泣き顔も、全部オレのために見せて欲しい。
 もう三橋なしじゃいらんねぇ。
 もっと欲しい。三橋が欲しい。そんで、アイツにもオレを欲しがらせてぇ。
 オレと同じトコまで、早く堕ちて来て欲しい。オレに依存して、オレに溺れて、オレがいねーと息もできなくなればいい。
 心も体もオレ色に染めて、オレだけの三橋にしてしまいてぇ。
 そのためなら、壊してもいい。

 ――壊れろ。

 頃合いを見計らって部屋に戻ると、予想以上の惨状に笑みがこぼれた。
 ズタズタになったユニフォームの残骸の前で、裁ちバサミを手にぺたんと座り込んでる三橋は、呆然として目の焦点も合ってねェ。
 涙でぐしゃぐしゃの顔して、ひっくひっく嗚咽で肩を揺らしてて、スゲー可哀相だ。オレの誘導にも気付かねーで、罪の意識に溺れてる。
 笑っちゃいけねーと思うのに、口元が緩んでしょうがねぇ。
「三橋、ハサミ寄越せ」
 静かに言いながらハサミを取り上げると、三橋がびくっと全身で震えた。
 泣き濡れて真っ赤になったデカいツリ目が、ハッとオレに向けられる。ぽろぽろこぼれ出した大粒の涙が、スゲーキレイで笑えた。
「あ、あ、あ、……」
 あべくん、と唇だけで呼ばれて、ゾクゾクと戦慄が走る。
「ごめ、オレ、ごめんなさい……」
 絶望したような謝罪。
 「いいって」って赦してやると、三橋はさらに涙をこぼして、「ごめん、なさい」って謝った。

 謝ることは何もねぇ。だってこのユニフォーム、本物じゃねーし。
 そもそも中学ん時のユニフォームなんて、小さくて着れる訳ねーだろ、っつの。もし着るとしても、普通に白の練習着だろ。
 つーか、OB会がどうとか、そっから全部大嘘だ。
 シニアにOB会なんてある訳ねぇ。OB対現役の試合なんて企画もねーし、あったとしても、榛名がオレに向かって投げる訳ねぇ。
 だって、バッターボックスで分かんなかったことでも、受けりゃ分かったりするからな。
 高校入ってから身に着けたらしい、オレの知らねェ変化球とか。他校の正捕手であるオレに、じっくり見られる訳にいかねーだろう。
 けど、んなこと親切に解説してやるつもりはなかった。
 誤解して疑って嫉妬して、心ん中真っ黒にすればいいと思う。オレの心なんか、とうに真っ黒でドロドロだけど、これも案外悪くねぇ。

「言えよ、三橋。オレにどうして欲しい?」
 くくっと笑いながら、ズタズタになった布の上に三橋を押し倒す。
 布きれを掴んで、ぐいっと顔に押し付けてやったら、三橋が悲鳴を上げて目を閉じた。
「そんなユニフォーム、着ない、でっ」
 悲痛な叫び声。
 服を脱がせ、裸の胸にも首にもユニフォームの残骸を擦り付けると、白い体が耐え切れずによじられる。
 やああ、と泣かれたって、ワリーな、嬉しくて可愛いだけだ。
「ユニフォームだけか?」
 促すように囁くと、ぶんぶんと首を振られる。
「榛名さん、と会わない、でっ。電話もヤダ、あべくん……」

 ベルトを外し、ズボンを下着ごと脱がせても、もう三橋は抵抗しねぇ。
 キレイな色のままムケてる股間は、絶望に萎えたままで可愛い。肌を暴きながら深くキスすると、喉の奥で三橋が小さく啼いた。
「榛名以外ならいーのか?」
 キスの合間に囁くと、ぎゅっと縋られて「やだっ」って言われた。
「オレ以外、見ない、で」
 って。
 言われなくても、とっくに見えてねーっつの。
「ワガママだな、お前」
 なぶるように囁くと、三橋がまた「ごめ、なさい」って震える声で謝った。

 罪悪感をスパイスに、絶望と希望をちらちら混ぜて作られた三橋は、スゲー可哀相でエロくて可愛い。
 オレの求めるまま、従順にその体を明け渡す。
 弱いトコをオレだけに無防備に晒して、体の真ん中を貫かれ、好き勝手扱われて悦んで啼く。
 そんでもまだ満足できねーオレは、ホント終わってるくらい病んでんだろう。
 もっと欲しい。もっと欲しがらせたい。
 もっと溺れたい。もっと溺れさせたい。
 細い体を抱き締めたまま、暗い快楽の海に沈みたい。

「オレに逆らうな。お前はオレだけ見てりゃいーんだよ」
 揺さぶりながら囁くと、三橋は泣きながらうなずいた。


 寝堕ちた三橋の頭を撫でながら、無防備な寝顔を堪能してると、無粋なマナー音がムームーとなった。
 オレの仕掛けたアラームじゃねェ、今度こそ正真正銘の榛名だ。
『おー、何だったんだよ、今日の?』
「何って?」
 訊き返すと、ちっ、と舌打ちされた。
『いきなり電話して来たと思ったら、「うちの練習見に来い」とか、「適当な紙袋、空のまま持って来い」とか。まあ、三橋の投球見れたからいーけど、何の意味があったんだよ?』
「別に大した意味はねーっスよ。うちの投手にプレッシャーかけたかっただけっス」
 ふっ、と笑ってそう言ったら、『はあ!?』って驚かれたけど、別にウソは言ってねェ。
 良くも悪くも、榛名の影響力はデカい。
 どう頑張っても投げらんねー剛速球は、三橋の憧れだ。
 別に、あんな荒れ球、本気で受けてぇと思ってる訳じゃねぇ。けど、次に対戦した時んために、データを取るって意味では、是非捕らせて貰いてぇところだ。

 榛名の存在に煽られて、嫉妬に染まる三橋はたまんねぇ程可愛かった。
 三橋の心が手に入るなら、今現在の投球くらい、他校の主将に見られたって惜しくねぇ。
『この前とフォーム変わったか?』
 鋭い質問に「さーね」と答えて、ふふっと笑う。これ以上は、何を訊かれても答えるつもりはなかった。
 もう榛名は用済みだ。
 いや、また必要になるかも知んねーけど、今じゃねぇ。
「用、そんだけなら切りますよ」
 有無を言わさず通話を切って、ケータイを床にぽいっと放る。

 目の前の恋人が、完全にオレ色に染まっちまうまで、もう少し。
 ユニフォームの次は、写真でも破らせてやろうか? もっと効果的なアイテムはねーか?
 あれこれ考えて準備すんのは、なかなか根気のいる作業だ。
 けど、ちっとも苦じゃねーし。三橋の心を壊す手を、緩めるつもりは当分なかった。

   (終)

※広美様:フリリクへのご参加、ありがとうございました。「榛名に嫉妬して、戸田北のユニフォームをズタズタに切り裂く病みはし」でしたが、こんな感じでいかがでしょうか? また「ここをもっとこんな感じで」などのご要望があれば、修正しますのでお知らせください。ご本人様に限り、お持ち帰りOKです。リクエスト、ありがとうございました。

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