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小説 3
追憶のカウントダウン・13 (完結)
 オレにまた抱かれんのが、怖かったんだろうか? 
 本番を前に、イヤになった?
 家を出て、あのアパートに閉じこもったのは……あれは逃げだったんかな?

 ケータイはやっぱ、解約してたらしい。衝動的だったそうだ。
「心配しただろ」
 肩を抱いて歩きながら、もっかい言ったけど、三橋は黙ったままだった。
 そこまでオレのことがイヤになったのか、と一瞬グサッときたけど、それでも完全な失踪って訳でもなかったし。もしかしたら、試されてたんじゃねーかとも思う。
 確かに先週までのオレだったら、三橋がいなくなったところで、敢えて探しもしなかった。
 電話もする気になれなかっただろうから、解約にだって気付くのが遅れて。遅まきながら気付いた時には、全部失った後だったかも知んねぇ。

 見合いのことは気になったが、とにかく断ったっつー話だし。オレからは何も訊かなかった。
「見合いの話、聞いた」
 帰りに拾ったタクシーの中で端的に告げると、「そう……」と気のねぇ返事されて、それで終わりだ。
 ヤケになってたのか、オレを忘れるためか、オレへの当てつけのつもりだったのか、それとも……オレの側にはもう戻らねぇと、ケジメ代わりのつもりだったのか。
 まさかと思うけど、もうオレに、っつーか男に抱かれんのがイヤになったとかじゃねーよな?
 真っ当な恋愛をしたくなったとか、結婚してぇとか子供が欲しいとか。そういうこと考えてのことなら、オレにはもう太刀打ちできねぇ。
 真意を知るのが怖くて、だから結局何も訊けねぇままだ。

 三橋も何も言わなかった。
 タクシーを降り、家に帰った時にだって、甘い雰囲気なんか全くねぇ。ただ、自分の部屋の方ちらっと見て、ぼそっと訊かれただけだ。
「引っ越し……ホントにキャンセ、ル?」
「ああ」
 短く答えると、ひくっと目の前の肩が震えた。
 なんで、とはもう訊かれなかった。訊いたってオレがどう答えんのか、分かってんだろう。
 何より大事だってコト思い出した以上は、もう手放してやるつもりはなかった。

「ごめんな」
 後ろからゆるく抱き締めながらそう言うと、ふっと笑われた。
「悪いと思ってない、でしょ」
 確かにそれは反省してない、が。
「浮気のことは、悪かったと思ってる」
 三橋はすぐには答えなかった。腕の中の痩せた体が、ひくひくと震える。また唇をへの字に歪めてるんだろうか。
 どんなに悔やんでも、1度裏切っちまった事実はなくならねぇ。
 いくら謝ったって、赦して貰えるとも思ってねぇ。

 三橋からの返事は、期待してなかった。
「ごめん」
 心からの謝罪を口にする。
 同じ体勢で、同じ言葉で。でもさっきとは、込めた思いに格段の差があった。それが少しでも、三橋に伝わればいい。
 しばらくして、濁音付きの声が「んっ」と言った。
 相槌なのか、うなずかれたのか、よく分かんねぇ。ただ、ようやく1歩、進めそうな気がした。

 肩を掴んで振り向かせ、濡れた頬を手でぬぐう。
 顔を寄せると、自然にキスを受けてくれて、唇は引き結ばれたままだったけど嬉しかった。
「やり直そう」
 オレ達の関係も、ポリネシアン・セックスも。
 二重の意味を込めて言ったの、気付いてくれただろうか? まだうなずいてはくれなかったけど、「無理だ」とは言われなかった。

 オレの部屋に連れ込んで、強引にシャツを脱がせた。
 照明は点けなかったけど、まだ昼間だし、カーテンを開けてれば十分明るい。
「じ……っ」
 自分で脱げる、と言おうとしたのかも知んねーけど、言わせねぇ。半裸のままベッドに押し倒し、覆いかぶさって唇を奪う。
 この間拒否された、そのままの体勢だ。
 腰の上に馬乗りになってバッとシャツを脱ぐと、三橋は今にも泣きそうな赤い顔で、オレを下から見上げてた。
 目が合うと、戸惑うように逸らされる。

 恥らう様子が新鮮で、スゲーそそる。
「なあ、もう本番当日なんだから、お預けはナシだよな?」
 ベルトを外し、ズボンを下着ごと引き抜いてやりながら囁くと、三橋はとっさに答えらんねーで「う、え」と詰まった。
 顔が赤い。
「ポ、ポリネシアン・セックス、だ、から。ま、まだ……」
「ああ、前戯1時間、だっけ?」
 オレは、三橋から渡された文面を思い出しながら言った。
 1時間は長ぇけど、でも、そんくらいは必要かも知んねぇ。三橋が覚悟を決めるためにも。オレが、三橋の肌を思い出すためにも。

「いっ……う、うん……」
 三橋は何か言いかけて、けど何もいわねーまま、顔を赤くして横を向いた。
 もぞもぞと、オレから身を隠すようにヒザを曲げる。そんな風にされると、余計に暴きたくなるっつーのに。
「三橋」
 思いを込めて名前を呼ぶ。
 愛おしくて、滅茶苦茶にしてぇ。
 悲しみの泣き顔じゃなくて、善がり狂って啼くのが見てぇ。

「上向けって」
 丸まって横向いた体を、上から押さえつけて開かせる。
 痩せた白い胸を撫でながら、その片方の乳首にしゃぶりつく。
「ひあっ」
 三橋がか細い声を上げた。
 手で口元を覆ってんのは、声出すのが恥ずかしーからか?
 その手首を強く掴み、シーツに縫いつけて首筋を舐め上げると、「はっ」と息を漏らすのが聞こえた。
 ずくん、と股間が重くなる。

 たまんねぇって思ったけど、衝動的に犯すわけにもいかねーし。はーっ、と長く息を吐いて、衝動をやり過ごす。
「1時間、我慢できっかな?」
 弱音を漏らして苦笑すると、三橋もオレを見て弱々しく笑った。
 ゆっくり顔を寄せると、応じるようにゆっくり目を閉じてくれる。
 ちゅっと舌先だけを舐め合って、唇を離し見つめ合うと、真っ赤な顔がじわりと緩んだ。
 困ったような下がり眉、目尻を赤くした大きなつり目。薄い唇が「阿部君」とオレの名を刻み、口角を上げた。
 やっぱ下手くそな笑みだと思ったけど、胸が軋むような寂しい笑い方じゃなくて、ホッとする。

「好きだぜ」
 真っ直ぐに目を見て告げると、また濁音付きの声で「んっ」と言われた。
 細い腕が伸ばされる。
 首にぎゅっと抱き付かれた瞬間、「好き」って言われて、胸の奥が熱くなった。
 はっ、と息が詰まる。
 愛おしさがあふれて、どうしようもねぇ。可愛がりたい。笑顔が見たい。もう泣かせたくねぇ。愛してる。

 今すぐ繋がりてーのに我慢を強いられ、何度も衝動を抑えなきゃなんねーのは正直、拷問のようだと思ったけど。
 でももし、終わった後、前みてーに幸せそうに笑ってくれるんなら――できることは何でもしてやろうと、密かに誓った。

  (完)

※さぁ様:フリリクへのご参加、ありがとうございました。リク掲示板を読み返すと、切切甘甘・・・と書かれてましたが、甘い要素が少ないかもですね(汗)。ご本人様に限り、お持ち帰りOKです。気に入っていただければいいのですが・・・。
また後日談などを、エロありで書かせて頂く予定ですので、そちらもお楽しみいただければと思います。

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