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小説 3
追憶のカウントダウン・11
 誰に連絡すりゃいーんだろう? 誰なら三橋の居場所を知ってんだ?
 共通の友人? それとも職場?
 色んな顔が思い浮かんだけど、まずはやっぱ親だろうと思って、三橋の母親に電話した。
 いつも忙しそうにしてる印象だし、留守電になるかと思ったけど、大丈夫だったみてーだ。数回のコール音の後、あっさりと繋がった。

 ホッとしたと同時に、緊張した。
 三橋はオレのコト、親に何て言ってんだ? 浮気のことは? 引っ越しのことは? どこまで話せばいいんだろう?
『はい、もしもし〜、阿部君?』
 聞き覚えのある、のんびりした声が聞こえて、ますます緊張が高まる。
「お久し振りです。あの……三橋のことなんですが……」
 恐る恐る切り出すと、低い声で『あーっ』って唸られて、ドキッとした。
 けど……。
『廉、ねぇ、あの子今、そこにいる? 電話繋がらないのよォ』
 三橋の母親はそう訊いて、珍しく怒ったような声で『もう〜』と言った。

 ハズレだ、と分かってガッカリすると同時に、ちょっとだけホッとした。電話が繋がんねーのはオレだけじゃねぇらしい。
 それに少なくとも、今は実家にはいねーみてーだ。
 けど、じゃあ一体、誰に訊けばいいんだろう? 実家じゃねーなら、どこにいる?
 素早く色んな事を考えながら、三橋の母親に当たり障りなく話す。
「ええ、オレの方も連絡が取れなくて困ってるんです。今朝まで家にいたんですが……」
『そうなのォ〜? もうー、ホントに困ったわね』
 三橋母はそう言って、大きなため息を1つした。

 声だけじゃ表情は分かんねぇ。けど、ホントに困ってそうなのは分かった。
「メールもダメですよね?」
 さりげなく訊くと、『メールじゃらち明かないわ〜』って言われた。
 そして。
『阿部君、何か聞いてる? あの子最近、何かあったのかしら?』
 そんな風にズバッと訊かれて、不意打ち食らってドキッとした。

 オレにそう訊いて来るからには、何も話してねーんだろうか?
 浮気の事も、破局秒読みだってことも。いや、それ以前に、付き合ってる事すら言ってねぇよな。
 けど、最近何かあったか、って。ありまくりだとは言えねぇ。原因がオレだとか。
「どうですかね……」
 一瞬悩んだけど、結局「はい」も「いいえ」も答えにくくて、質問で誤魔化すことにする。
「……三橋、何か言ってました?」
 すると三橋の母は特に何も言わず、質問にあっさりと答えてくれた。

『それがね、2週間くらい前かなー、いきなり電話かかって来て。誰でもいいからお見合いしたいー、って言いだしちゃってさ。とにかくいい人がいたら、もうすぐにでも結婚したいんだ、って』

「見合い……?」
 ギョッとした。
 すぐに結婚、って。あまりの生々しい話題に、心臓がぎゅっと縮む。
 2週間前っつったら、オレにポリネシアン・セックスを要求してきた頃の事だ。八つ当たり気味に「別れよう」つったら、「分かった」ってうなずかれた頃。
『オレの中の阿部君像は最悪なんだ』
 強張った顔でそう言われた、あれが丁度2週間前だ。
 じゃあ、三橋が見合いを言い出したのは、その直前か? 直後か?

『まさかー、って思ったんだけど、おじーちゃんが大乗り気でねぇ。廉ももう28だし、そろそろ……って思ってたらしくて、もう、すぐにお相手、かき集めて来ちゃって』

「はは……」
 オレは乾いた笑い声をあげた。ちっともおかしくねーけど、他に何も言えなかった。

 会ったこともねぇじーさんだけど、大喜びで見合い写真をかき集める様子が、目に浮かぶ。
 積み上げられた写真の山を、気のねぇ様子で次々開き、適当に選ぶ三橋の姿も。
 魂の抜けたような顔で諾々と従い、女の手を取る様子も目に浮かんだ。
 いや、ちっとも幸せそうじゃねーと思うのは、ただのオレの願望か? もしかしたらオレ以外の誰かの方が、三橋を笑顔にできるんだろうか?
 想像しただけで、じりっと胸が妬ける。
 そんな女よりオレを……って、堂々と言えなくしたのはオレ自身で、けど、そうだとしても譲れねぇと思う。
 引き留めてぇ。

「……見合い、いつなんですか?」
 できるだけ平静な声を装って尋ねると、『もう〜、それがさぁ……』と三橋の母親が愚痴るように言った。
『今朝早く、いきなり先方に、廉からお断りの電話があったそうなのよー!』
「えっ、今朝、ですか」
 正直言って、ホッとした。けど、一方で不安も去らなかった。
 見合いをキャンセルして、じゃあ三橋はどこ行った?

『おじーちゃんはカンカンだし、電話は繋がらないしねぇ……』
 三橋の母親は電話の向こうでなおも喋り続けてたけど、オレはほとんど生返事しか返せなかった。
 じりじりと焦る。
 じっと座ったままじゃ話を聞いてもらんなくなって、ケータイを耳に当てたままウロウロ歩く。
 ウロウロついでに三橋の部屋を覗いたら、段ボールの山にソワソワした。

 帰ったら家に電話するように、との伝言を預かり電話を切ると、家の中がしーんとしてて、さらに落ち着かねぇ気分になった。
 三橋の部屋に積み上がったダンボールを、ぐるっと見回して顔をしかめる。
 あいつがどこに引っ越すのすら、まだ教えて貰ってねぇ。
 気にはなってたけど、やっぱ引っ越し自体考え直して貰いたかったし。引っ越しのこと考えるのを、多分無意識に避けてたと思う。
 荷物の山を置いて、三橋はどこへ行ったんだ?
 引っ越しは明日だ。けど、幾ら何でも、本人がいねーと始めらんねーだろ。
 ……まさか、とうにキャンセルしてるとか?
 そんな願望がふいにむくっと湧いてきて、抑えんのに苦労した。

 ちょっと迷ったけど、引っ越し業者に電話してみることにする。
「明日引っ越しをお願いしてる、三橋廉の家族の者なんですけど……」

 一か八かでハッタリかまして訊いてみて、分かったのは三橋が電話番号変更してねーってことと、引っ越し先の新住所。
 そこは三橋の会社のすぐ近くで――ワンルームのアパートのようだった。

(続く)

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