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小説 3
ご奉仕します!・前編 (高校生・阿部←三橋)
 風呂が壊れた。
 というか、ガス給湯器が壊れたらしい。風呂場も台所も湯がでなくなったんだそうで、母親からメールが来た。
――今日は銭湯にでも行ってちょうだい――
 オヤジのツテで、優先で工事やって貰うらしいけど、直んのは明日になるそうだ。

 銭湯行くんなら、誰か一緒に……。そう思って部室でその話をしたら、三橋が真っ赤な顔で、うちに来いと言い出した。
「お、お風呂なら、うちで入ればいい、よっ」
 って。
 オレは勿論、即答で断ろうとした。だって、そこまでして貰う義理もねーし。そもそも銭湯行くっつー話してんだし。けど。
「いや、いーよ……」
 と、言いかけたオレのセリフを、田島が大声で遮った。

「おー、いいな! そうして貰えよ、阿部!」

 いや……、ともっかい断ろうとしたら、今度は栄口が口を出す。
「三橋は親切だねぇ。阿部、良かったね?」
「いや……」
 オレはもっかい断ろうとした。けど、笑顔を貼りつけたままの栄口が、ずいっとオレに顔を寄せて、ニコニコと小声で言った。
「まさか断ったりしないよね?」

 何なんだ? 意味ワカンネー。けど、三橋が真っ赤な顔で泣きそうになってっから、仕方なくうなずくことにする。
「……じゃあ、頼むわ。悪ぃな」
 すると、たった今泣きそうだった三橋の顔が、目に見えてパアッと明るくなった。
「う、うん!」
 って。いい返事だな。まあ、マウンドの上でも、たまにこんな感じだけど。
 考えて見りゃ、三橋って誰かを風呂に誘う機会もあんま無かったんかも。じゃあ、浮かれて当然だよな。

「三橋ィ、良かったなぁ!」
 田島に抱き付かれ、ちょっと頬を染めて「うんっ」とかうなずいてる三橋を見て、オレは黙って肩を竦めた。

 三橋んちに行くと、留守だったみてーで真っ暗だった。まあ、珍しいことじゃねーけど。
「お風呂いれる、から」
 そう言って三橋が奥に消え、オレはいつもみてーにソファに座ってTVを点けた。
 相変わらず広い家だ。
 しばらくして戻って来た三橋は、麦茶と洋菓子を「どうぞ」とテーブルの上に置いた。

「あー、サンキュな」
 礼を言って、洋菓子を取る。相変わらず高級そうな菓子だ。大体貰い物らしいが、ここんちで出される菓子類は高級品が多い。
 ピリッとパッケージを開けると、ふわっと酒の匂いが香る。ブランデーか何か入ってんのか、よくワカンネーけどしっとりしてて、あんま甘くなくて美味かった。
 けど、互いに菓子を食い終ると、途端に何か気詰まりになった。
 会話がねぇし。
 三橋はっつーと、人を招き慣れてねーせいか、ずっとキョトキョトして落ち着きがねぇ。

 考えて見りゃ、この家にオレ1人で来たのって初めてだ。
 三橋と2人っきりで何話していーのか、さっぱりワカンネー。田島はよく来てるって聞いたけど……一体いつもコイツとどんな会話してんだろう?
 つか、何でアイツ、そそのかすだけそそのかしといて一緒に来ねーんだよ? 栄口も。気詰まりで仕方ねぇ。
 はあ、と苛立たしげにため息をつくと、隣で三橋がビクンと跳ねた。
「あー、いや……」
 お前に苛立った訳じゃねーぞ、と説明しようとして、ガリガリと頭を掻く。
 気まずい。

 と、風呂の方からピーピーと音がした。
『お風呂が沸きました』
 女声の機械音声に、助かったとばかりに立ち上がる。そしたら三橋が「あ……」と何か言いかけた。
「何だよ?」
 尋ねると、はくはく口を動かした後、ドモリながら訊いて来た。
「お、お風呂、は、入る?」
 いや、入るも何も、その為に来てんだけど?

 でも考えて見りゃ、オレが1番風呂っつーのは、あんまよくねーのか。
「じゃあ、お前先入るか?」
 そう言うと、今度はぶんぶんと首を振る。
 何がしてーのかさっぱりワカンネー。一体何なんだ。通訳求む。
「じゃあ、オレが先入っていーんだな?」
 コクコクうなずくのを見て、オレはサッと立ち上がった。さっさと風呂貰って、さっさと出て、さっさと家に帰りたかった。

 オレが立ち上がると、一緒に三橋も立ち上がった。
「あ、ふ、風呂の場所、分かる……?」
 そう言いながら、廊下の奥までついて来る。
 つーか、案内してくれんなら、オレの先を歩かねーと意味ねーだろ。場所知ってっけどさ。
「あ、そ、そこ左です、よー」
 三橋はオレの後ろをうろつきながら、階段の奥の扉を指差した。

 扉を開けると、広い洗面所。洗濯機の横が広い脱衣所になってて、風呂らしいガラス戸越しに灯りが点いてんのが見える。
「こ、ここ」
 ご丁寧にガラス戸を指差して、三橋が言った。
 分かってんよ、と言いたくなんのをぐっとこらえて、「あんがとな」と言っておく。
 そしたら三橋は「うひっ」と笑って、嬉しそうに頬を染めた。

 オレが服を脱ぎ始めても、三橋はまだ脱衣所の前をうろついていた。
 いや、別に男同士だから気にしねーけど。
「あ、た、タオル、ここ、ね」
 わざわざ目の前の棚を指差してくれるが、言われなくても見りゃ分かる。いや、まあ、有難く借りるけどさ。

 風呂に入ったら入ったで、さらに三橋はついて来た。いや、別に見られたって気にしねーけど。
「お、お湯加減、どうです、か?」
 って。まだ入ってねーから。
「あー、ちょっと待て」
 先にシャワーで頭から洗いたかったけど、湯加減訊かれたんじゃ仕方ねぇ。洗面器使って掛け湯して、うちのより広い湯船にザバッと浸かる。
「あ、熱くない?」
 三橋が訊いた。
 「あー」と適当に答えると、今度は「ぬるくない?」と訊かれる。

「あー、丁度いーよ」
 オレがそう言うと、三橋は「よ、よかった」と嬉しそうに笑った。
 けど――何でかな? 湯加減を確認した後も、三橋は風呂から出て行かなかった。

(続く)

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あきゅろす。
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