小説 3
廃王子は夜に啼く 4
女王の執政は、悪政って訳じゃなかったが、そう賢明でもなかった。
息子王子の戴冠を、国中を挙げて祝わせようとして、祝い金と言う名の、臨時課税を取り立てた。祝い金を渋る者は、廃王子派だといって、捕らえられると噂された。
臨時課税の影響は、田舎に行く程、強くなっていくみてーだった。何より悪かったのは、全国民に同じだけの金を払え、としたことだ。
農民達の負担を考えてねぇ。都市部の金持ちや、貴族のように、「贅沢を控える」程度ではすまねぇんだ。
食費よりもまず最初に、人々が削るのは……医療費だ。
王子は行く先々で癒しを施し、いつも長い行列を作った。貰える物は拒まないが、自分から何か求めたりはしなかった。
「黒髪の少年に背負われた、薄茶の髪の少年」
オレ達は、かなり目立つ存在になり始めてた。
目立つのはヤベエ。
こいつの正体を知られるのも。
いまは痩せこけてて、足も折られてて、家来もいなくて、気さくで……面影もねーんだろうけど。でも、いつ誰かに「ミハシ王子様じゃないんですか」なんて訊かれるか、気が気じゃなかった。
この町では、あまりの行列振りに、国軍の駐留兵が視察に来た。
「おい、ヤベーよ。ちょっとは大人しくしとけって」
国軍が、王子と女王、どっちの味方なんか、オレは聞いてなかった。
けど、オレの忠告を、王子は無視した。
「ヤバくなった、ら、キミ一人で、逃げれば、いい」
「そういう訳にいかねーんだよ」
オレは王子を無理矢理抱き上げ、連れ去ろうとした。しかし、王子がそれを制した。
「放せ!」
そんな大声じゃなかった。ただ、反論を許さない、凛とした声だった。
「オレなんかの癒しが、こんなに必要と、されてる、のは、国が病んでるから、だ。オレ、は、役立たずでいらない、人間だ、けど、必要とされてるなら、オレは、生き、たい!」
周りから、拍手と歓声が沸き起こった。
「癒し手さま」
「役立たずだなんて」
「いらないなんて」
「誰が言ったんです、癒し手さま」
必要だ、と乞われ、慕われて、王子が控えめに笑みをもらす。
「ちっ、勝手にしろ!」
オレは言い捨てて、行列から離れた。
胸の中がモヤモヤした。
何で、オレが言ってやれねーんだろう。「必要じゃなくない、いらない存在じゃない」って。
何で、オレは言ってやれねーんだろう。「お前が優しいこと、頑張ってること、知ってるぞ」って。
何で、オレはまだバカ正直に、あいつを背負って旅をしてんだろう。手が光る理由を語らねぇあいつに、もう利用価値なんてないってのに。
何であいつは………夜に一人で泣くんだろう。何でオレは、抱き締めてやれねーんだろう。
何で?
オレは依頼主に手紙を書いた。
王子から、手の秘密を訊き出せなかったって、正直に書くしかなかった。
懐から杖を出して、手紙に触れる。手紙はパタパタ折りたたまれて鳥の形になり、ぼん、と煙とともにカラスになって飛び立った。
返事は次の日の朝に来た。
「殺して埋めろ」
女王からの手紙には、短くそう書かれていた。
(続く)
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