小説 3
バースディ・フール・1 (大学生・同居・シリアス注意)
三橋に「好きだ」と言われたのは、高3の夏の終わりだった。
甲子園行って、野球部を引退して、受験生らしく夏期講習なんか受けてみて。やっぱ野球してぇなぁ、なんて恋しく思い始めてた頃の事。
三橋に屋上に呼び出されて、何かと思ったらそんな話だった。
その時三橋がヒドくキョドっていたのが、気になったと言えば、気になった。けど、三橋はいつもそんな感じだったし、少なくとも、その時のオレは変だとも思わなかったんだ。
「オレ、阿部君が、好き、だ」
オレは多分、軽く応えたと思う。
「おー、サンキュな。オレも好きだぜ」
そしたら三橋はふわっと笑って「よかった」と言った。そして何でか顔を赤くして、一緒に帰らないかって誘って来た。 勿論、「いいぜ」って応えた。だってイヤじゃなかったし。
そんで、次の日は弁当を一緒に食おうと誘われた。まあ、別に誰と食べようが弁当は弁当だし、三橋が一緒に食いてーんなら食えばいいし。そんな感じで、OKを出した。
別に断る理由もなかったから、一緒に帰んのも一緒にメシ食うのも、卒業まで続いた。
用事があったり補習があったりで、どっちもできねぇ日もあったけど、そんな時は夜、三橋からメールが来た。
今日は何したとか、何を食べたとか。中身はホントどうでもいいような事ばかりだったけど、まあ、ちゃんと毎回返事してやってた。
だってさ。1年の時は、オレに返信するんでさえ怖がってたのに、すげー進歩じゃね?。
何だか、ずっと餌付けしてた野良猫に、やっと触れたみてーな、不思議な満足感があったの覚えてる。
誘われれば、キャッチボールに付き合ってやる事もあった。オレから誘うこともたまにあった。
受験勉強の気晴らしにもなるし、やっぱ、野球が好きだったし。
そんで、受験が終わってから、1回、一緒に映画見に行った。
三橋がチケットくれたのは、ハリウッドの正統派アクション映画で、三橋らしいっつーか、田島らしいって思った。うん、多分あれ、田島の影響受けてんじゃねーかな。
その後はマックか何か食べて、一緒に本屋とかスポーツショップ覗いて、普通に「じゃあな」って帰ったと思う。
そう言や一度、花井に言われた事あったっけ。
「その気がねぇなら、期待させねぇようにしろよ」
あん時は言われてる意味も分かんなくて、けど、説教癖が出るとまたウゼーから、「分かってんよ」とか、適当に応えた。
花井は分かってたんかな? オレと三橋の認識が違うって事。このままじゃ三橋を傷付けるだろうって事。
他の皆はどうだったんかな?
分かってたんなら、何で教えてくれなかったんかな?
こんな事になる前に……。
三橋とは、別の大学に進むことになって、ホント言うとオレ、そこで三橋とも疎遠になるんだと思ってた。
中学の友達とも、シニアの友達とも、そんな感じだったし。三橋だって本来はオレより、田島や泉と仲いいんだし。
だから、一人暮らしを始める三橋に、一緒に住まないかって誘われた時は、結構驚いた。
三橋は大学の野球部グラウンドの近くに、2DKのアパートを借りるんだって言った。
三橋は野球推薦で大学入ったから、結構早くから大学の野球部に出入りしてて……今年、先輩が卒業してその部屋が空くから、友達と住んだらどうだって勧められたらしい。
大学の先輩から「友達と」って言われたら、普通は同じ大学で同じ野球部の奴を選ぶだろう。なのに何でオレに声を掛けるのか。……不思議に思わなかった、と言えば嘘になる。
けど、深く考えもしねーで、オレは了承した。
だって、オレの大学と三橋の大学はちょっと遠いけど、オレの大学と三橋の大学の野球部グラウンドは近いんだ。
好条件、だった。
それに三橋なら、ある程度は慣れてるし、遠慮もそんなしなくていいし。
「いいぜ。4月からよろしくな」
オレがそういうと、三橋は顔を真っ赤にして、少しキョドってふひっと照れた。
オレにとってはただの「同居」。でも、あいつにとっては、「同棲」だったんだ。
「好きだ」って告白して、「オレも」って言われて。一緒に昼メシ食って、一緒に帰って。会えない日にはメールして。デートもして。
そして、一緒に住んでたんだ。「恋人」と。
オレ、気付かなかった。
ずっと気付かなかった。知らなかった。
だって、「付き合おう」って言われてねぇ。
いや、それ以前に……オレ達、男同士じゃねーか!?
大体、何でオレ?
何でオレを……オレのことを、あいつは……?
オレ、三橋の気持ちになんか気付かなかったから、大学に入学して早々、カノジョをつくった。
別に自慢じゃねぇけど、高校の時から、割と告白されることは多かった。
けど、1度もOKしたことがなかった。引退まではやっぱ野球優先だったし、引退した後は受験優先だったし。わずかな自由時間は、三橋とキャッチとかやってたしな。
女っ気のねぇ高校時代を過ごした分、大学デビューって訳じゃねぇけど、もうちょっと柔軟に考えてみようとか思ったんだ。
バッテリーと同じで、一生ものとか思わなくてもいいし。組んでみねーと、相性とかだって分かんねーし。
だから、一番最初に告白してきた女と、手っ取り早く付き合ってみることにした。
カノジョは、5月の新入生歓迎オリエンテーリングで、ちょっと喋った相手だった。
ハキハキしてて、話しやすい女だ。ちょっと皮肉っぽいこと言うとこがあって、そういうとこ、何となく気が合った。
「デートしねぇ?」
つっても金ねーけど、なんて笑ったオレに、カノジョは「おうちデートでいい」つった。
「別に、人込み行ったって疲れるだけじゃん。ジュースとお菓子買って、DVD借りて、涼しい部屋でのんびりしない?」
そうして……カノジョが、オレ達の部屋に来ることになった。5月17日。
三橋の誕生日に。
(続く)
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