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忙しくても「無理しない」
せっかちっていう訳じゃないんだけど、目の前にタスクをいっぱい積み上げられると、処理しなきゃって焦ってあわあわしてしまう。
地道に1つ1つこなすしかないんだけど、早く早くって焦ってそれだけで頭がいっぱいになって、ぐるぐると目を回しちゃうこともある。
カフェの厨房での仕事も、時々そうなるから大変だ。
ブレンド、カフェラテ、アイスハーブティ、アイスクリーム、今月のコーヒー、深煎りブレンド、アイスコーヒー、アップルジュース、パフェ、ブレンド……。次々持って来られるオーダーに「はい」って返事はするものの、頭の中には入らない。
こうしてる間にも、お客さんはじりじり待ってるんじゃないかって、申し訳なさと早くしなきゃって思いで焦る。
けど、そんなオレをオーナーで恋人のタカがしっかり支えてくれるから、なんとかパニックにはならないで頑張れるんだ。ホントにタカは、スゴイ。
タカがくれた魔法の一言に、「客のことはオレに任せろ」っていうのがある。
「急ぎの客なんか、こんなカフェに来ねーよ。自信持って待たせりゃいーんだ」
って。
待たせていい、っていうのには首をかしげてしまうけど、でも確かに、急ぎのお客さんはカフェなんかに来ない、かも。
そんな風に考えると、気持ちがちょっと楽になったのは確かだった。
平日に比べると、土日はいつも忙しい。ゴールデンウィークになるともっと忙しいんだけど、やること自体はいつもと変わらないから、安心、だ。
「ケーキセット2つ、浅煎りブレンドとブレンドで入ります」
バイトの篠岡さんがそう言って、ケーキケースから今日のケーキを3種類取り出し、トレーに並べて持っていく。
「浅煎りブレンド、ブレンド、はい」
オレは淡々と返事して、作業台に「浅」の字と無地の、茶色のプレートを並べる。
その間に淹れるのは、先にオーダーを受けてた「今月のコーヒー」、フルッタメルカドン。慎重にお湯を注ぐ内に、ふわっとフルーティな香りが漂って来てホッとする。
作業台にはティーの赤いプレートや、パフェの白いプレート、黄色や黒のプレートも並んでて、端から1個1個片付けていくしかない。
時々タカが手伝ってくれるけど、ティーバッグを入れるだけのティーとは違って、コーヒはオレにしか淹れられないから、オレが頑張るしかなかった。
1個ずつ1個ずつ、焦らないで順番に。
開店する時、「ムリしない」ってタカと約束したから、無理のない程度に頑張って、無理のない程度にテキパキする。
バイトの人も、協力的なのがありがたい。ケーキセットのケーキだって、決まった後はトレイに載せて、運ぶ準備だけしておいてくれる。
どのコーヒーが何番テーブルのものかも、オレは全く把握してない。
そういうのは全部、フロアにいるみんなが把握してちゃんと運んでくれるから、オレは単純にタスクをこなしていくだけでいい。
時々申し訳ないなぁって思うけど、オレがパンクしないようにするためには、今の状態が1番いいみたい。
それにオレも、忙しくても今は1人の方がやりやすい。
1度、厨房にもう1人入れようかって話になったことがあるけど、横から「次何ですか?」とか訊かれると、余計にあわあわしちゃうから、ダメだった。
手伝ってくれるなら、タカがやるみたいにひょいっとプレートを取り上げて、ティーを入れてくれたり、ビーフシチューを盛ってくれたりする方がいい。
タカのヘルプは、すごく自然ですごく嬉しい。こういうの、阿吽の呼吸っていうのかな?
時々「頑張れよ」って、ちゅっとキスしてくれることもある。
バイトのみんなに呆れられちゃうんじゃないかって心配だけど、タカはイチャイチャ我慢するのも「ムリしない」んだって。
自信満々なタカは格好いい。
時々厨房に入り浸って、「もう、いいから」ってなる時もあるんだけど、オレの様子をいつも気にかけてくれるのは嬉しいし、優しくて格好良くて、大好き、だ。
「お前の淹れるコーヒーには、待つだけの価値がある」
キッパリそう言って貰えると、オレも自信持てる。
忙しい時はあわあわしちゃって、落ち着けなくて情けないなって思うけど、完璧になろうって「無理しない」って決めたから、このまま精一杯、美味しいコーヒーを淹れるだけだ。
「アイスコーヒー、アイスクリーム入ります」
タカが持って来たオーダーに合わせ、復唱しながら、「冷」の茶色いプレートと「アイス」の白いプレートを並べる。
作業台のプレートの先頭にあるのは、アイスハーブティ。タンブラーに氷を入れてると、タカが冷蔵庫からハーブティのポットを取り出し、黙ってそこに注いでくれて、ああ息ぴったりだなぁって、嬉しくなった。
(オーナー、レジ! お願いします!)
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